第66話 それぞれの思い
ダイたちは拘束されたまま、トラックの荷台に乗せられた。行先はカートのいるアジトだ。そこで皆処刑されるのだろう。カートのことだから残虐にそれを実行するに違いない。
そばでは逃げ出さないように元監察警官が監視している。ダイは何とか逃れようとしたが、魔法の首輪で魔法を封じられているからどうにもできない。
沙羅は落ち込んで嘆息していた。兄をはめた裏切り者がわかったのにどうにもできない。それに自分が人質に取られたため、何の抵抗もできずにダイたちまで捕まってしまった・・・。そしてこのまま全員抹殺されて、カートがこの世界にのさばってしまう。あのドラッグがこの世界に蔓延して・・・そう思うと沙羅には耐えられないほど辛かった。だがそばにいるダイがそんな彼女を励まそうと話し続けた。
「大丈夫だ。まだなんとかなる」
「でも・・・」
「元気を出すんだ。落ち込んでいてどうする。僕たちは様々なことを乗り越えてきたじゃないか!」
「ええ・・・」
「沙羅! あきらめるな! 僕がついている!」
「ダイ・・・」
沙羅はダイの言葉に少し元気を取り戻していた。
一方、大城取締官は悔やんでいた。裏切り者が橋本取締官だったことを・・・。
(斉藤のレインボーに関する資料が消えていたことでおかしいと思うべきだった。今までレインボーの捜査が進まなかったのは橋本のせいだったのか・・・)
思い起こせば、橋本取締官の行動に疑問を持ったこともあった。だがまさか身内からはあるまい・・・そう思い込んだことが失敗だった。それがこんな事態になってしまったのだ。
(すまなかった。斉藤。おまえの努力を無駄にしてしまった・・・)
大城取締官は心の中で直樹に詫びていた。
ナツカはハンパのことを思い出していた。班に配属されたときは頼りなくて果たして務まるかどうか不安だった。だからダイ班長と相談して鍛えることにした。彼は粘り強く、特別な訓練にも耐え、やっと一人前になった。それが・・・カートに無残に殺されてしまった。彼は保安警察官の職務を誠実に全うしたのだ。もしうまく逃れていたなら彼は死ななくてもよかったのかもしれない。
(私が彼にそうするように叩きこんだ。私のせいだ・・・)
ナツカはあれから自分を責めていた。だからダイを助けるために部下を連れてこちらの世界に飛ぶことを決心した。あのカートを捕まえるために・・・。それがハンパへの贖罪になると思って。
(私は結局、死に場所を求めただけなのか・・・)
彼女の横には同じく拘束されたロークとラオンがいる。このままでは2人とも死を迎える。またしても自分のために・・・ナツカは心の中で2人に謝っていた。
やがてトラックは廃工場についた。その地下にアンカンシェルのアジトがある。奥のドアから地下に下りると、中は薄暗いものの、きちんと作り上げられ、多くの部屋が並んでいる。しかも廊下にさえ豪華な装飾がなされているほど凝った造りになっていた。
ダイたちが連行されたのは大広間だった。正面に一段上がって玉座のようなイスが置かれ、横には元監察警官が並んでいる。ダイたちを中央に残し、連行してきた藤堂や橋本取締官たちも並んだ。
そこにようやくカートが出てきた。まるで王様のようにイスにふんぞり返って座った。だが鋭い目でダイたちを見据えている。橋本取締官が恭しくカートの前に出た。
「カート様。とらえて参りました」
「よくやった! 今日からおまえはここの最高責任者だ」
「有難き幸せ」
橋本取締官は一礼して下がった。カートはダイたちを見渡して口を開いた。
「おまえたちは我らの妨害をした。死に値する。苦しませて殺してやろう! その憎たらしい顔をよく見せてもらおうか!」
カートは立ち上がってダイの前に出てきた。そしてその右手でその顎をつかんでにらみつけた。
「よくも邪魔ばかりしてくれたな!」
「それはおまえが悪事を働くからだ!」
ダイはカートをにらみ返した。カートはダイの顎を乱暴に放した。
「だがそれも今日までだ。おまえには最上の死をくれてやる。だがその前に・・・」
カートは沙羅の方を向いた。
「またつかまえることができた。おまえだけは決して許せん! ユリを装って我らをたばかったのだからな!」
「だまされる方が間抜けなのよ!」
「なにを!」
カートは沙羅の顔をパシッとはたいた。沙羅は「ああっ!」と悲鳴を上げた。
「よせ! 彼女に手を出すな!」
「ほう? そうか。おまえはこの女に気があったな」
カートにそう言われてダイは顔をそむけた。
「そうか。それならおもしろい! この女の死にざまを見るといい!」
「やめろ! やるなら俺をやれ!」
「それでは面白くない。愛する者が殺されるのを間近で見て、自分の不甲斐なさを思い知るがいい。そして絶望の中、お前は死を迎えるのだ!」
カートは残虐な笑みを浮かべると、沙羅に向かって開いた右手を向けた。
「グラビティハンド!」
その技は沙羅の首を締め上げた。
「ああっ!」
沙羅はまた悲鳴を上げた。首が締まり、息ができない。ダイが大声を上げた。
「やめろ! カート! やめろ!!」
「さあ、苦しめ! もっと苦しめ!」
カートはじわじわと沙羅の首を締め上げていく。沙羅はもがき苦しんでいた。
「ううっ! 苦しい・・・」
「沙羅! しっかりするんだ! 沙羅!」
ダイが必死に声をかけた。だが沙羅は意識が遠のいていくのを感じていた。もうこれ以上は・・・彼女はもはや音にならない声でダイに伝えた。
「ダ・・イ・・・愛して・・いる・・わ」
沙羅はダイに向かって微笑むとその場に倒れた。ダイは拘束されており彼女を抱き起すことはできない。ただひざまずいて彼女を呼び続けた。
「沙羅! 沙羅! さーらー・・・」
だが沙羅はもう返事もせず、ぐったりと床に倒れたままだった。ダイはぐっと目を閉じて襲い掛かる悲しみに耐えていた。そしてそれを見ているしかなかったナツカたちの目からは涙がこぼれていた。
「あっけないものだな」
カートが両腕を開いてとぼけたように言った。ダイは顔を上げてキッとカートをにらみつけた。
「怒ったか? そうか、怒ったか? だが今のお前は何もできまい!」
そのカートの言葉に東山刑事はがまんができなくなった。
「カート! それでもおまえは人間か! こんな残虐なことがよくできるな!」
だがカートは平然としている。
「ふん。我らの世界は常にググトに脅かされている。そんな甘いことを言っていたらとうに人類は滅亡していただろう。おまえたちの世界とは違うのだ!」
カートは東山刑事をにらみつけてそう言った。だが今度はナツカが声を上げた。
「そんなことはない! 私たちは心の優しさは捨てていない! ググトがいても」
それに続いてロークとラオンも言った。
「おまえには人間としての良心はないのか!」
「そうだ! お前の心がひん曲がっているのだ!」
それを聞いてカートは残忍な笑みを浮かべた。
「よかろう。それなら残虐な死を与えてやろう。二度とそんな口がきけぬようにな」
カートは後ろに下がった。それと同時に周囲を取り囲む元監察警官たちも部屋の壁際まで退いた。
「やれ!」
カートの命令が下された。すると部屋の三方のドアが開いた。するとそこから入ってきてダイたちを包囲する者たちがいた。その顔は無表情でじっと獲物を見つめている。彼らは人間ではない。ググトだった。
「おまえらはググトの餌にしてやる。そこで優しさやらを胸に抱いて食い殺されろ!」
ググトたちは触手を出してダイたちに迫ってくる。ダイたちは魔法の首輪のせいで魔法は使えず、拘束魔法のせいで体の自由もきかない。
(このままではググトにやられる・・・)
ダイは焦っていた。この危機を乗り切る方法は・・・・残念ながら浮かんでこない。ググトたちの顔が鋭い歯が並ぶ恐ろしい顔に変わった。触手につかまれば引き寄せられ、あの歯で体を切り裂かれるだろう。そうなったら助かる見込みはない。
ダイたちはググトが飛ばしてくる触手を必死に避けていた。




