第63話 沙羅の危機
(こ、殺される!)
沙羅は死の恐怖を感じていた。自分も雄一のように魔法で首を絞められると・・・。
「私が何をやったというのですか?」
記憶を失っている沙羅にはどうして目の前の男が自分をそんなに憎むのかがわからない。
「とぼけるな! おまえのせいで向こうの世界の我らの組織は壊滅した。沙羅! おまえにも苦しみながらの死を与えてやる!」
「沙羅? 私は沙羅じゃない。ユリです。人違いです!」
するとカートの怒りが爆発した。
「まだそんなことを言うか! それで我らをたばかることができると思ったのか! 苦しめ! グラビティハンド!」
すると沙羅の首が締め上げられた。
「く、苦しい!」
「さっきの奴のようにすぐには殺さぬ。じわじわ苦しめてからだ!」
カートはじわじわと沙羅の首を締め上げていく。沙羅はあまりの苦しさに倒れた。
その時だった。いきなり火球が飛んできて「バーン!」と地面で爆発した。
「何者だ!」
カートは沙羅を締め上げるのをやめて辺りを見渡した。すると連続して火球が飛んできて地面で爆発し、煙が辺りを覆った。足元には火が出ている。元監察警官たちは襲撃者を探そうとしたが、この状況でパニックを起こして右往左往している。
「探せ! 探すのだ!」
カートは叫んだ。だが煙で視界が利かない中、元監察警官の混乱は収まりそうにない。カート自身も姿の見えない相手に少なからず動揺していた。それで左手に持っていたロケットを気づかぬうちに放してしまった。それは地面にぶつかって転がっていき、沙羅の前まで来た。
「私のロケット・・・」
大事なもののような気がしていた沙羅はそれを拾ってポケットに入れた。
ようやく元監察警官の一人が襲撃者を見つけた。
「あの木の上だ!」
そこにはロークがいた。彼がそこからファイヤーボールを放っていたのだ。カートもその襲撃者を自らの目で確認した。
「おのれ!」
カートは襲撃者にグラビティーウエーブを放とうとした。だが今度は地面が揺れて盛り上がった。バランスを崩して重力波はあらぬ方向に飛んでいた。包囲していた元監察警官たちは立っていられず、その場に膝をついてこらえた。
「今です! 走ってください!」
ラオンの声が聞こえた。彼が魔法で地面を揺らしていたのだ。沙羅は言われるがままに立ち上がって走り出した。煙が立ち込めており、元監察警官たちも気づいていない。このままここから逃げられるかも・・・・。だがカートだけはその鋭い眼力で沙羅の動きに気付いた。
「逃がすか! グラビティーウエーブ!」
重力波が沙羅の頭をかすめた。ただそれだけでもかなりの衝撃だった。沙羅は頭を押さえて気を失い、そのまま地面に倒れた。
「沙羅を逃がすな!」
カートの声が響き渡る。元監察警官たちが沙羅をとらえようと地面が揺れる中、近づいて行く。だがつかまる前にラオンがさっと出てきて彼女を抱き上げた。そして木の上のロークに合図を送った。
ロークはうなずいて木から下りると、ラオンと合流して走った。
「逃がすな! 追え!」
カートが叫んでグラビティーウエーブを放った。だが気配を感じて振り向いたロークが結界で何とか防いだ。そして追ってくる元監察警官にファイヤーボールを何発も放った。
「バーン! バーン! バーン!」
爆発が起こり、地面が火を噴いた。元監察警官は立ち止まるしかなかった。そして煙が立って視界が利かなくなる。
「追え! 追え!」
カートはわめくが。煙が消えた後にはロークたちの姿はなかった。
「くそっ! 逃げられたか! 何をしているのだ! 役立たずどもめ!」
カートは半狂乱になって辺りにいた元監察警官を蹴り飛ばしていた。
◇
沙羅はロークとラオンによって救出された。ロークはナツカと通信機で連絡をとり、そこから離れた林の中で合流することになった。
静かで小鳥のさえずりだけが聞こえる。ダイとナツカが林の中を歩いて行くと、遠くにロークとラオンが見えた。沙羅は気を失ったまま、ラオンに抱きかかえられている。
「管理官。沙羅さんを助け出しました」
ダイがのぞき込むと沙羅は穏やかな顔をして眠っていた。
「ありがとう。よく救い出してくれた」
「カートに遭遇したようです。雄一は殺されてしまいました。沙羅さんはカートの重力波で頭を負傷して気を失っています。頭の傷はヒーリングで治療をしました。命には別条はないようですが・・・」
だが意識は戻らない。戻ったとしても彼女の記憶はどうなっているのか・・・。元々、沙羅は頭を打って記憶を失っていたのだ。その記憶が戻りつつあったはいえ、また頭を負傷したとなると・・・。
ダイはラオンから沙羅を受け取った。
「沙羅。目覚めてくれ!」
生きていてくれるだけでもいい。だが以前のように元気な姿を見せてくれ・・・ダイは心の中で訴えかけていた。すると沙羅のまつげが動いた。そしてゆっくり眼を開けた。
「沙羅! 大丈夫か!」
沙羅はうつろな目をしていた。頭がはっきりしないのかもしれない。ダイの呼びかけにも反応しない。やはり記憶を失ったままなのか・・・。
「沙羅! わかるなら返事をしてくれ! 僕だ! ダイだ!」
ダイは沙羅に呼びかけた。
「ダ、ダイ?」
「そうだ。ダイだ!」
すると沙羅の目がしっかりしてきた。じっとダイを見つめている。
「ダイ! ダイなのね!」
「そうだ! 僕がわかるか?」
「わかるわ! あなたはダイ! 私は斉藤沙羅。すべてわかるわ!」
沙羅は記憶を取り戻したのだ。
「よかった!」
ダイは沙羅をぎゅっと抱きしめた。
「ダイ、ずっと会いたかった。あなたと別れてから・・・」
「僕もだ。君のことをずっと思っていた」
2人はしばらく見つめ合って離れようとしない。周りのことなど目に入っていないように・・・。もうこの辺でとナツカが咳払いした。
「あっ! そうだった」
「ごめんなさい。つい・・・」
ダイと沙羅は慌てて離れた。再会をはしゃいでいる場合ではないのだ。
「カートたちが追ってくるでしょう。どこかに隠れる必要があります」
「それはそうだが、一体、どこに?」
ダイが尋ねた。この世界では知り合いは少ない。沙羅の行きそうな場所ならすぐにカートたちに見つかってしまうだろう。
「こういうこともあるだろうと隠れ家を用意しました」
ナツカたちはこの世界に来て着実に準備をしてくれていたのだ。
「まずそこに行きましょう! そして準備してカートを捕まえるのです!」
ダイと沙羅、そしてナツカにローク、ラオンがようやく集まった。5人はカートに反撃しようを決心していた。




