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虹の向こうにあなたがいる  作者: 広之新
第2部 現実世界編
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第59話 火の海

 ダイと雄一の戦いを遠くから見ている者があった。それはドゴスだった。あれからも彼は必死になって沙羅を探していたのだ。


「こんなところにいたか? あいつも。 ん? 戦っているやつは確か、ダイ。奴もこの世界に来ていたのか。それなら都合がいい。ここで3人とも死んでもらう! フフフ」


 ドゴスはほくそ笑みながら密かに近づいて行った。魔法の射程距離になるまで・・・。ダイと雄一は戦いに夢中でドゴスに気づかない。


「よし! ここまで接近すれば大丈夫だ。すべて燃えつくしてやろう! 魔力を最大込めた特製のスーパーファイヤーボールをくれてやる!」


 ドゴスは真上に超大型の火球を作った。すべてを焼き尽くそうと・・・。火球はメラメラと燃え、かなりの熱を発している。沙羅はあまりの熱さに振り返り、その巨大な火球に気付いた。


「ダイ、危ない! 大きな火の玉が来るわ!」


 それと同時にドゴスが火球を放った。それはダイめがけてまっすぐやってくる。沙羅の声にダイがすぐに反応して身をかがめた。すると火球は地面にぶち当たり大爆発を起こした。


「ド、ド、ドッカーン!!」


 爆風が吹き荒れ、グラウンドに大きな穴が開いた。あちこちに火が上がっている。

 沙羅はその爆風をもろに受け、吹っ飛ばされて近くの柱で頭を打った。


「い、痛い!」


 激しい痛みとともに額に血が流れた。それと同時に頭がぼうっとする。辺りは火に包まれてとにかく熱い。


「とにかく逃げなくちゃ・・・」


 よくわからないが、逃れなければならない・・・沙羅の意識はただそれだけだった。彼女はふらふらと立ち上がり、そのまま競技場の外に出て行った。


 一方、ダイと雄一はそれぞれがいち早く結界を張っていて無事だった。その姿を見てドゴスがわめいた。


「おのれ! しくじったか! こうなったらすべて燃やしつくしてやる!」


 ここでしくじったら、カートにどんな目にあわされるかわからない・・・ドゴスは必死になって呪文を唱え、スーパーファイヤーボールを何発も放ち続けた。それで爆発が次々に起こってグラウンドは火の海となり、ついにダイと雄一は火に囲まれてしまった。


「ドゴスか! これはまずい! 奴のスーパーファイヤーボールの威力は侮れない。ここは引いた方がよさそうだ」


 雄一はカートたちから追われる身だ。ここで戦うよりも逃げる道を選んだ。彼はすぐに風のシールドでトンネルを作ると、燃え盛る火をくぐり抜けて観客席に上がった。これで危機を脱したと思ったのだが・・・。


「沙羅がいない・・・」


 雄一は沙羅の姿が消えたことに気付いた。


「沙羅! どこだ! 沙羅!」


 見渡して呼んでみたがどこにもいない。少なくとも競技場にはいないから外に逃げたのかもしれない・・・そう考えて雄一はあわてて沙羅を探すために競技場を出て行った。


 ダイは炎の中でちらっと沙羅が競技場を出て行く姿を見ていた。あの爆発に巻き込まれたが、その姿を見てほっとしていた。だが炎で囲まれているので後を追うこともできない。


 ドゴスは焦っていた。彼も沙羅がいないことに気づいた。殺すどころか逃げられてしまったのだ。こうなったらダイだけでも葬ろうと・・・それが生き残る最低ラインだと思われた。ドゴスはさらにスーパーファイヤーボールを投げつけた。もう魔力の限界は近い。


「死ね! もう耐えられまい!」


 燃え盛る火炎がダイを焼き尽くそうとしていた。結界を張っていたがその火の勢いに今にも破れそうになっていた。


「このままでは・・・」


 何とか火から抜け出そうとしたがその火力には打ち勝てず、もはや身動きが取れなかった。彼の音波系の魔法では燃え盛る火を静める方法はない。


「詰んだな」


 ドゴスはこの状況に勝利を確信していた。もはやダイが逃れる術はないだろう。


「こうなれば後は死あるのみだ。あともうすぐ・・・」


 ドゴスはダイが倒れるのを待っていた。ダイの結界が崩れかけ、その熱でダメージを受けて片膝をついている。あと少し・・・

 だが急に上空から大量の水が降り注いできた。雨ではない。魔法による大量の水だ。それで火の勢いが急に弱まった。こうなっては火の魔法は弱い。


「おのれ! ここまで来て邪魔が入るとは・・・」


 ドゴスは地団駄を踏んだ。この魔法を使ったのは誰かとあたりを見渡すと・・・。


「管理官! 助けに来ました!」


 ナツカが競技場の観客席に姿を現した。彼女の「ウォータースプラッシュ!」で火を消していったのだ。ドゴスは彼女にスーパーファイヤーボールを放ったが、水の結界で簡単に消し止められた。


「ナツカ! 助かったぞ!」


 火の海から逃れたダイはドゴスに向かって行った。ドゴスは慌てて振り向いてスーパーファイヤーボールを放った。だがダイはソニックブラスターで火球を弾き飛ばした。そしてそのそばまで接近した。スーパーファイヤーボールを放てない距離まで。


「くらえ! 超音波の拳を! ソニックナックル!」


 ダイは両手の拳に超音波の渦をまとわせた。そして接近してドゴスに連続パンチを食らわせた。


「ぐわっ!」


 威力のあるパンチにドゴスは叩きのめされてその場に倒れた。目を回して気絶している。強敵を倒し、ダイは「ふうっ」と息を吐いた。


 戦いが終わってナツカが駆け寄って来た。


「管理官。大丈夫ですか」

「ああ。大丈夫だ。君が来てくれて助かった。それよりどうしてここに?」

「私たちもじっとしていられなかったのです。管理官が責任を感じてこちらの世界に行かれたから・・・。だから署長に頼み込んでやって来ました」

「そうだったのか・・・すまなかった」


 ダイは自分の行動が元部下や署長に負担を強いており、心苦しかった。


「いえ、私たちも許せないのです。ハンパを殺したカートがこちらの世界でのさばっていることを。それに沙羅さんを助けたいと思ったのです。ロークとラオンにも連絡しておいたのですぐに来るでしょう」


 観客席から「ダイさん!」と呼ぶ声が聞こえた。ダイが振り返ると森野刑事たちが手を振っていた。彼らは壁際に身を隠していて無事なようだ。


「沙羅さんがまたどこかに消えてしまった。すぐに探しに行きます!」

「わかりました。僕もすぐに」


 ダイはそう返事した。それを聞いてナツカが尋ねた。


「沙羅さんがいたのですか?」

「ああ、そうだ。野村雄一と言う男に連れ去られていた。僕らの世界の人間で強力な魔法を使える。戦っているうちにここを出たようだ。探しに行く」

「わかりました。私たちも捜索に加わります」

「では頼むぞ!」


 ダイは走って競技場を出た。彼は嫌な予感がしていた。競技場を逃げて行く沙羅がいつもの様子と違っていたような・・・・。


(沙羅! 今行くから待っていてくれ!)


 そう心の中で訴えていた。


 ◇


 沙羅はふらふらと歩き続けていた。何かから逃げるように・・・頭がぼんやりして何も考えられない。確か、炎が燃え盛る戦いの場にいたような気がしたが、それすらもはっきり思い出せない。頭に霞がかかっているようだ。


(私・・・どうしたのかしら・・・)


 それでも何かを探し求めるかのようにひたすら歩き続ける。しばらくして沙羅は街中に出た。にぎやかで多くの人が行き来している。うつろな目をして額から血を流してふらふら歩く沙羅を見て人々は(何事だろうか?)と避けていった。


(私・・・何をしているのだろう?)


 沙羅はふと足を止めた。ショーウインドウに自分の顔が映る。沙羅は「ん?」と言葉を漏らして首を傾げた。額に血がついている。それをハンカチで拭った。幸い、出血は止まっていた。だが鈍い痛みが残っている。


「家に帰って休もう・・・」


 沙羅はそうつぶやいた。だが・・・・


「わからない。私の家は・・・」


 ショーウインドウに映る顔をじっと見た。


「誰? 誰なの? 私は誰なの? 何もわからない・・・」


 沙羅は茫然としてそうつぶやいていた。彼女は記憶を失ってしまったのだ。




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