第52話 包囲網
保安警察本部は朝から大騒ぎになっていた。留置場に入れていたカート前室長をはじめ、トクシツの元監察警官たちが脱走したのだ。それも一夜のうちに数か所。見事な手際で朝の警備の交代になるまでわからなかった。
ダイも呼び出されてすぐに本部に向かった。
(恐れていたことが起こった。監察部の監察警官が犯行に加わっているという。まだカートの息がかかった者がいたのか・・・)
元監察警官の事件は監察部、特に特別取締室に替わって新設されて管理室が担当する。ダイが到着するころには、管理室に一通りの情報が集められていた。3か所の留置場から12名が逃亡。その中にカートや藤堂三郎も含まれる。脱走に手を貸したのは監察部総務係のローニンとシブン。
「逃げた12名と脱走に手を貸した2名を緊急手配。管理室を上げて、立ち回りそうなところを捜索! すぐに行け!」
ダイが命令を下すと管理室の監査警官たちが早速動き出した。
(今回の脱走は用意周到に準備されていたものに違いない。だとするとカートたちはこちらに見つからないところに身を隠しているはず。時間かければ探し出せるが、その前に・・・)
ダイが懸念しているのはカートたちが向こうの世界に脱出してしまうことだった。そうなったらもう手が届かなくなる。
(次のワームホールが三下高原に現れるのは3日後の夜。しかも広範囲に数か所に出現する予定だ。そうなれば待ち伏せて捕まえるのは難しくなる。それまでに逮捕しなければ・・・)
ダイは焦りを感じていた。
◇
カートは巧妙に遮蔽された一軒家に隠れていた。ここには他に脱走した元部下10名と藤堂、手助けしたゼックとローニン、シブンがいた。調査員だったゼックは必要な情報を集めて向こうの世界への逃亡の準備を進めていた。
「決行は明日。幸いなことにその日はこの地図に示した数か所にワームホールが現れます。保安警察もそこは十分承知していますから、4組に分かれて行動します・・・」
ゼックが作戦内容をそう説明した。
「まあ、問題ないだろう。向こうへの連絡はついたか?」
「はい。ボスにつなぎが取れました。向こうで待っているはずです」
「うむ。よかろう」
カートは大きくうなずいてそれを了承した。
(向こうの世界に行けば自由な身だ。もう追ってくる者はあるまい。好き放題できる。それにあの女も・・・)
カートは不気味な笑みを浮かべていた。
◇
監察部管理室は保安警察官たちの協力を受けたものの、期限の3日でカートたちを発見することができなかった。こうなってはワームホールの前でとらえねばならない。そのことでダイはシマーノ本部長から呼び出しを受けた。
「今回は管理室は手を引いてくれ」
それは思いもよらない言葉だった。すぐにダイは食ってかかった。
「なぜです! 元監察警官の取り締まりは管理室が行うのが通例です」
「今回の脱走は管理室の者ではなかったが、監察警官が手引きしている。監察警官の中にはまだ裏切りを行う者がいるかもしれない」
シマーノ本部長はそう言った。確かにまだカートの息がかかった者がいるかもしれない。だが・・・。
「そんなことをしないように管理室の監察警官たちには指導してきたつもりです。私は部下を信じます」
ダイはきっぱりそう言った。しかしシマーノ本部長は首を横に振った。
「だが君が赴任して日が浅い。君の考えが完全に浸透していないかもしれない」
「しかし・・・」
「監察部全体が疑惑の目で見られている。今回は保安警察官に任せるんだ。担当は本部と第1分署だ。彼らならカートの逃亡を防げるはずだ」
シマーノ本部長がそう言ってからダイのそばに来て小声で耳打ちした。
「ダイ。おまえが心配なんだ。おまえはカートに目をつけられている。もし遭遇すれば非常に危険だ。だから自重してくれ。これは私の願いだ」
シマーノ本部長にそこまで言われるとダイは言い返すことができなかった。
◇
やがて夕方になった。ダイは待機を命じられていたが、その命令に従う気はなかった。管理官の自分だけでも現場にいるべきだと思ったからだ。
三下高原ではすでに多くの保安警察官が忙しく動き回っていた。ここの元管理事務所に指令所が置かれている。ダイが中に入るとダイタク署長がいた。彼がここの指揮を執っているのだ。
「署長。お久しぶりです」
「おう! ダイか。しかしおまえはこんなところに来てはならんと言われているはずだが・・・」
「じっと待ってなどいられないのです。カートが逃亡しようというのに・・・。署長。三下高原に行かせてください」
「君がか? それはいかん!」
「どうしてです? カートの恐ろしさはよくわかっています。だからこそ奴をこの手で止めたいのです」
「君は管理官だ。君の役目はカートと戦うことではない」
「しかし・・・」
「第1分署の保安警察官の総力を挙げている。君のかつての部下もいる。信頼して任せるしかない。君はせめて後方で視察という形で見守るんだ」
ダイタク署長にもそう言われてしまい、ダイはそこで待機するしかなかった。だが彼は嫌な予感を覚えていた。
◇
三下高原のワームホールが開口する場所に班ごとに警備することになった。第3班も配置についた。班長としてこの大事な場面を迎えるナツカはかなり緊張していた。それを感じているロークが彼女に声をかけた。
「班長! 大丈夫ですよ。すぐに他の班も駆けつけてくれますし、リラックスしていきましょう!」
「そ、そうね」
するとハンパが茶化すように言った。
「おや? 班長。柄にもなく緊張されているのですか?」
「していないわよ! ハンパ! 覚えておきなさい! 後でしごいてあげるから!」
「ひえー! 勘弁してくださいよ!」
ハンパがわざと情けない声を出すと皆が笑った。それでナツカの緊張がほどけた。
「じゃあ! いいわね! 2人組になって分散して待つわよ! 近づいてくる人影を見つけたら呼ぶのよ! みんなで敵に当たるのよ!」
「はい!」
ロークとミオ、ラオンとハンパが組みになって左右に分かれて行った。ナツカは一人で真ん中で待つ。だがさすがに一人では心細い気がしてくる・・・。
(しっかりしなきゃ! 管理官はいつもこうしておられたのよ! 私だって!)
弱気を振り払おうとすると、ラオンの声が聞こえた。
「来ました! こっちです!」
ナツカはラオンの組がいる方に向かった。するとそこには数体のググトが触手を出して押し寄せようとしていた。その背後に普通の人間もいる。
「みんな、気を付けて。ググトだけじゃいないわ! 逃亡した元監察警官もいる!」
そう叫びながら「ウォーターブレッド」をググトに放っていく。ラオンは「ロックストライカー」、ハンパは「リーフカッター」で攻撃を加えていく。先頭のググトは倒されたものの、その背後からググトが迫って来た。
「ファイヤーボール!」
「ライトニングショット!」
ロークとミオも駆けつけて攻撃に加わった。激しい魔法技にググトたちは逃げ腰になった。
「くそ! 一旦、退け!」
元監察警官は逃げ出した。
「待て!」
ハンパが追おうとすると、ナツカが制止した。
「おとりかもしれないわ。私とロークとラオンが追うわ! ハンパはミオとともにここに残り、ワームホールを守って! 何かあったら連絡するのよ!」
ナツカは経験の浅い2人を残して、3人で追撃をかけようとしていた。ハンパは自分も追撃に加わりたかったが、彼女の意図を察して踏みとどまった。そしてナツカとローク、そしてラオンの姿を見送っていた。ミオが聞いてきた。
「ハンパさん。私たちは?」
「ああ、そうだった。ワームホールの出現場所まで戻ろう」
2人は言われた通り、その場所まで戻った。もちろんそこには誰もいない。しかし・・・。
(何かいつもより不気味だな・・・)
ハンパは普段は感じたことがない雰囲気を感じていた。周囲を重苦しく圧迫するような・・・。
「ハンパさん! 私たちも追撃に加わった方がよかったんじゃないですか?」
「いや、班長には班長の考えがある。ググトや元監察警官たちはすぐに逃げ出した。もしかしたらおとりで、ここをがら空きにさせる目的だったかも・・・」
そこまで言ったとき、ハンパは遠くに人の気配を感じた。
「ハンパさん」
「しぃ! 誰かが来る!」
ハンパはその気配がする方向に目をやった。すると2つの人影が見えてきた。それは・・・
「カートだ! カートがやって来た!」
ハンパは緊張してぐっと拳を握りしめた。




