第44話 決断
ダイは保安警察本部に出向いた。シマーノ副本部長に呼ばれたからだ。
「まあ、そこに座りたまえ」
シマーノ副本部長はダイを温かく迎えてくれた。
「失礼します。お話というのは?」
「今回のトクシツの不祥事でトリノ本部長が退くことになった。後任は多分、私だろう。それでこの第27管区保安警察本部を一新することにした」
シマーノ副本部長は一呼吸おいてからダイに告げた。
「君は今度の事件を解決してくれた。君には次のポストを用意してある」
今まで昇進を断っていたダイには当然の話だった。
「いえ、私は・・・」
「そう言わないで聞いてくれ。今回のことで特別取締室は解散した。だが保安警察官の管理をすることは必要だ。そこで監察部は新たな部署を作ることになった」
「新たな部署・・・ですか?」
「そうだ。管理室となる。その責任者が管理官だ。君に管理官を任せたい」
それは大変な昇進だった。だがダイにはそんなことはどうでもいいことだった。
「私は保安警察官として人々を守りたいのです。現場で」
「人々を守るということには変わりない。君は管理室で保安警察官の職務を監視し、時にサポートしてこの社会を守るのに貢献する。その役目は君しか考えられない。幹部の全員がそう思っているんだ」
「副本部長・・・」
「ぜひ管理官を引き受けてくれ。これはみんなの願いだ」
そこまで言われてはダイは無下に断ることはできなかった。
「わかりました。お引き受けいたします」
「そうか! それはよかった! ダイタクもお前の親父も喜ぶぞ!」
シマーノ副本部長はダイの手を握って大いに喜んでいた。
◇
沙羅は大忙しだった。今夜、この家でパーティーをすることになっていた。ミオが第1分署の保安警察官になったのをお祝いして・・・。沙羅は第3班のダイの部下以外にニシミやリーモス、近所の人たちを招待していた。それでたくさんのごちそうづくりが大変だった。
やっと準備が終わると、近所の人たちがやって来た。ニシミは並べられた料理を見て感嘆の声を上げた。
「すごいわ! これを一人で準備したの?」
「ええ。大変だったけど、何とか間に合ったわ」
「私たちもお料理を作って来た。それに私の特製のお酒も」
「それはありがたいわ!」
その後ろでリーモスが隠れるように立っていた。
「さあ、リーモスさんもここに来て!」
「私もいいのかな?」
「もちろんよ。遠慮しないでね」
そう声をかけていると、ナツカたちがやって来た。
「みんな、元気だった?」
「はい。ユリさんも」
「ええ。私はいつも元気よ。さあ、ロークさんもラオンさんもハンパさんも来てくれてありがとう」
「ちょっとフライングなんですが、いいことがありまして・・・」
ナツカがもったいぶった言い方をした。
「どんなこと?」
「それは・・・ですね」
ナツカがそう言いかけた時、ダイが帰って来た。彼は部屋の様子を見て思わず声を漏らした。
「これはすごいな!」
テーブルに置かれた料理と人の多さを見て驚いたのだ。
「すごいでしょう。せっかくのお祝いなんだから・・・」
「知っていたのか?」
「えっ! 何のこと?」
沙羅には知らないことがあるようだった。ナツカが沙羅に言った。
「班長は監察部管理室の管理官になられたのです。昇進されたのですよ!」
「えっ! 本当! おめでとう!」
沙羅はダイにお祝いを言った。管理官というのがどれほどの地位かわからなかったが、とにかく出世したのだろうと思った。ダイは頭をかきながら言った。
「いや、僕はまだ現場にいたかったけど。副本部長に押し切られて・・・」
「班長なら当然です。さあ、乾杯しましょう」
ナツカがグラスを取った。
「さあ、皆さんグラスを手に取って。班長・・・じゃない。管理官、昇進おめでとうございます! 乾杯!」
「乾杯!」
皆が声を上げて酒を飲み干した。沙羅はダイに言った。
「よかったわね。ダイ」
「ああ。でもこれからが大変だ。がんばらないと」
「そうなると第3班は? 班長は誰がなるの?」
するとナツカが前に出た。
「第3班の次期班長は私が任命されました」
「そうなの。ナツカさん。おめでとう!」
「わたしも管理官と同様、ビシビシ行きますからね!」
するとハンパがため息をついた。
「勘弁してくださいよ」
「すぐに弱音を吐かない! あなたはもう新人じゃないのよ」
「えっ! そうなのですか?」
「そうよ」
するとまた来客があった。それはダイタク署長とミオだった。
「おっ! にぎやかにやっているな」
「署長。長い間、お世話になりました」
ダイは深く頭を下げた。ダイタク署長はダイの肩をポンと軽く叩いた。
「ダイ。管理官昇任おめでとう! 君ならやって行けるだろう。とにかくめでたい」
「ありがとうございます。監察部に行っても第1分署のことは忘れません」
ダイとダイタク署長が話している間、沙羅がナツカに聞いてみた。
「ねえ。第3班が4人になってしまうけど、大丈夫なの?」
「ええ、それがね」
ナツカがミオに目で合図した。するとミオは急に姿勢を正して敬礼した。
「ダイタク・ミオ。第1分署第3班に配属になりました! よろしくお願いします!」
ナツカたちも敬礼してそれに答えた。沙羅はそれにも驚いていた。
「そうなの? ミオさんが第3班に・・・」
「はい。これでまた5人になります」
ナツカは笑ってそう言った。ダイタク署長が彼女に声をかけた。
「ミオを頼むよ。鍛えてやってくれ!」
「それはもちろんです。ついでにハンパも・・・」
ナツカが大げさに首を回してハンパの方を見た。
「勘弁してくださいよ。もう新人じゃないのですよ」
ハンパは顔をしかめて頭をかいていた。それをみんなが笑っていた。
パーティーは終わった。あれほどにぎやかだった家も今は寂しいほど静まり返っている。沙羅とダイは後片づけをしていた。
「よかったわ。ナツカさんが班長になるし、ミオさんが第3班の配属になるし、あなたが出世して管理官になるし・・・」
「君のおかげだ。君がここに来なかったら今もあのままだろう」
「そんなことはないわ。私がいなくてもあなたはきっと何とかしているはず・・・」
沙羅はそう言ってダイに笑顔を見せた。そこでダイは思い切って聞いてみた。一番気になることを・・・。
「沙羅。君はどうするんだ?」
「私? そうね。どうしよう・・・」
沙羅は考えているふりをした。その答えはダイが出してくれると信じて・・・。
「君はどうしたいんだ?」
「私は・・・あなたは私にどうしてほしいの?」
今度は沙羅が聞いてみた。
「僕は・・・」
ダイは沙羅にここに残ってもらいたかった。だが彼女には向こうの世界に家族がいる。大事な仕事が待っている。自分のわがままで彼女を引き留めることはできない・・・そう考えるとはっきり言うことはできなかった。
「そう、そうね」
沙羅はダイが何も言ってくれないので心が決まった。自分は別の世界の人間だ。ダイはこのままずっと受け入れてはくれない・・・それは彼女には当然のように思えた。
「私、元の世界に帰るわ。家族が待っているし・・・」
「そうか。その方がいい」
ダイの言葉に涙がこぼれそうになるのを沙羅はこらえた。
「そう思ったら早く帰りたくなったわ。森野さんがワームホールの出現の資料を置いて行ってくれたのよ。ちょうど明日の夜、ワームホールが出現するの」
長く居れば居るだけ未練が残る・・・そう思っていきなり明日夜に帰ることにした。本当は1日でも長くダイのそばにいたかったのに・・・。
「そうか。もうお別れか・・・」
ダイは感慨深くそう言った。だが沙羅を引き留めようとはしない。
「みんなには何も言わないでね。私はユリのままで消えるわ。私のことを聞かれたら遠いところに旅に出たとでも言ってね」
「ああ、そうする・・・」
ダイは沙羅の顔を見ずに自室に引き上げようとした。沙羅は嘆息した。ダイは自分のことをどうとも思っていないと・・・。するとダイが後ろを向いたまま沙羅に話しかけた。
「そうだ。明日は非番だ。君に付き合ってほしいところがある」
それだけ言ってダイは自室に入っていった。沙羅はその部屋を悲しげに見つめるしかなかった。




