表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻日の三柱神〜神喰らいのエクリプス〜  作者: ?がらくた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

第3話 日に差した陰の謀略

背に走る灼熱と電流にも似た苦痛の痺れに、体が襲われた。

すると不思議なことに大蛇は束縛を緩め、コートは地面に膝をついた。

まるで背骨が灼かれ、芯から引き裂かれるようだ。

呼吸をして臓器がかすかに動くだけでも、全身が悲鳴を上げる。

視界が滲んで、愛用武器のフレイルすらもまともに握れない。

それでも彼は歯を食いしばって、耐え忍んだ。


(……戦えるのは俺だけだ。自分がやるしかない!)


ツォイツァは地面に横たわり、ヴェファは風に流されて以来どこにいるかも不明だ。

ゾンネは舞を続けており、神に捧げる踊りだけあって、不可思議な力を秘めているの間違いない。

だが、それ自体が目の前の障害を討つとはにわかに信じられない。

吐血した少年は生まれたばかりの子鹿みたいに体を震わせながらも、木の幹を支えにしながら立ち上がった。

そうすると、何故だか握った鎖が熱を帯び


(これは……?)


フレイルを掴む掌に違和感があり、そちらに視線を落とした。

すると鎖が熱したような、溶岩を彷彿させる色合いへと変化していたのだ。

さらに武器からは黒の蝕が逆立った毛髪のごとく天を衝き、生命を宿すように蠢いているではないか。


(……収まったか)


熱は皮膚を焼くというよりも、むしろ手の内に馴染んでいく、奇妙な感覚を伴っていた。

痛みは変わらずあれど、この現象への抵抗は薄れていった。

鉄球を見遣ると、それは業炎を纏う。

深紅の焔が唸り、まるで闘争を求めるかのように、激しく燃え盛る。


(な、なんだ……?)


しかしそれ以上に驚く光景が、目の前に広がる。

―――巨体の大蛇が、もがくように悶えていたのだ。

優雅に舞うゾンネの姿を睨み据えるも、痙攣した体では抵抗すらままならない。

—―—闇と混沌の権化には陽の光は害毒であり、暁光は暗黒を串刺す刃にも等しい。

太陽の巫女の神意を秘めたステップが大地を踏む度に、大蛇の根源を否定していた。

彼女の一撃は決定打になっていないため、あと一押しが必要だ。

先ほどは効かなかったが、見間違いの可能性もある。


「……い、ける……か……」


コートは少し後退すると、一拍、息を整えて。

地面に落ちた鉄球に、勢いを乗せて前へと蹴り飛ばす。

鉄塊の重みに骨の神経ごと刻むような、鈍い痛みが駆け巡った。

しかし仲間を、ゾンネを助けるためにはこれしかない。

空気を裂いて地表を削り、直線的に進む鉄球に


「ぐあっ! 喰らえぇぇぇッ!」


己の誇りと仲間、ゾンネを守るための叫びが通じたのか。

それは大蛇の頭部を撃ち抜いた。

凄まじい衝撃とともに、鉄球は森そのものを揺らす。

さっきまで霧のように通り抜けたはずの攻撃が、理由は不明だが確かに当たっていた。

甲高い咆哮と共に大蛇が地に伏し、身を焼く炎が徐々に闇の獣を霧散させた。

灼けた鱗から血に塗れた肉が剥き出しになり、咆哮が闇深い森林に轟いた。

のたうちまわる大蛇が、憤怒と怨嗟に満ちた声なき声を空に訴えるように。

じきに遺骸も消えるだろうが、そのまま放置しておくのは危険だ。

団内で最も信頼できる戦力、ヘクセンにこの怪物を殺してもらうのが得策だろう。


(本当に、これで終わったのか……?)


悪が祓われたと同時に倒れる少年の肉体を、目覚めたツォイツァが抱えこんだ。


「……いつもムチャしやがる。いや、俺らが戦えないから、ムチャさせちまうんだよな。悪いけどゾンネちゃん、こいつを持ってくれる? あとヴェファも探して、団長たちに報告もしないとな……」

「……ツァイツォ、ゾンネ……あの蛇は危険だ……仲間を呼んで……始末を……」


神妙な面持ちをした友の言葉に安堵し、コートは身を預ける。

ゾンネは彼らの言葉に無言で頷き、次第に3人の影は他の傭兵団メンバーと合流した。

木の陰には、一行を監視する人物が1人。

全身を黒衣に包み、顔をフードで覆う男が、一部始終を眺めていた。


「今回はここまでだ。次が楽しみだな、日の巫女ゾンネ。そして君もだよ、不浄の名を冠したコートくん」


大蛇が敗れた刹那、その人物は指を鳴らす。

すると倒れていたはずの躯が、黒の闇に溶けて夜の帳が下りた空へと吸い込まれていった。

まるで始めからそこには、何もいなかったかのように。

謎は深まるばかりだった。

薄れゆく意識の中で、コートはあれやこれやと考えた。

背中の痛みを、炎が燃え上がる鉄球の意味を、今しがた戦闘した黒鱗の大蛇を。

しかし彼には暗闇の樹林が方向感覚を狂わせ、人々を惑わすかのように、何もわからない。

もはや体験した全てが幻とさえ感じられ、じきに少年の精神は暗黒の中に安寧を求めた。




—―—生命をかけた戦闘が終わりを告げた頃。

異国情緒溢れる城の玉座に座る主の前で、黒衣の者が跪く。

頭に金色の三日月の王冠を戴き、手首に金の輪の装身具を身に着けた浅黒い肌の男は、積年の憎悪を燃やすかのような紅蓮の双眸で配下に視線を向ける。


「例の巫女ゾンネの排除には、ある傭兵の少年に阻まれて失敗に終わりました。ですがあなたさまに吉報が……」


戦闘の全容を語ると玉座に座る黒幕は部下の発言を耳にして、狂気じみた貌で楽しげに笑う。

その笑みに秘められた嗜虐心は見る者の恐れを呼ぶほどに、ぞっとするものだった。


「……ほぅ? これはむしろ好都合だ。巫女と……を、まとめて始末する好機ではないか。ネックよ、貴殿の報告に感謝せねばなるまいな」


そういうと、黒衣の男と自身の背後に控えた大男と少女を一瞥し


「―――ゾンネとコート、この2名を確実に抹殺せよ。殺害の証明として、首を持ってきた者には褒美をとらせる」


命令を耳にした、黒衣の人物は


「御意」


と、頭を下げて二つ返事で了承する。

その所作からは淡々と感情を排除して、ただ使命を遂行するという、主への忠誠心が滲み出ていた。

だが他の2人は特段、彼には敬意を払わず、ただただ目先の報酬につられ


「ハッ! たかだか餓鬼2人の抹殺なんざ、任されるとはなぁ? こんな簡単な依頼をやると知られりゃ、泣く子も黙るホイシュレッケ傭兵団の名が地に堕ちるぜ。ま、仕事はやらせてもらうが。クニツァ、俺様の獲物を奪うんじゃあねぇぞ。楽に稼げる甘い汁吸える機会なんて、滅多にねぇんだからよ」

「え〜っ、これは早い者勝ちだもん。アラリッヒはアタシの仕事を指しゃぶりしながら、黙ってみてればいいんだよ」


軽い言い争いを遮るように


「くれぐれもヴルム傭兵団の他の者に必要以上に構うな。特に団長ヘクセンと副団長ガウナー……この双璧は貴様らに到底敵う相手ではない。さぁ、散れ……世界から日の末裔を鏖殺するのだ!」


そう黒幕が注意を促し、手を突き出す。

眩い光が濃い闇を生み出すように、暗闇に潜む漆黒の策謀が動き出すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ