007 - まおうはぜんらのしょただった! -
「あれが魔王?」
「勇者殿、外見に惑わされて油断なさらぬよう・・・魔族は人を欺きます」
「うん・・・」
そこに居たのは角の生えた幼い少年だった・・・この世界に2つある大きな月の明かりに照らされ全裸で地面にぺたんと座っている。
「勇者殿、手を」
「あ、はい」
これは事前にアルフレッドさんと打ち合わせていた事・・・僕に備わっている魔王耐性という特殊能力は魔王からの攻撃を全て無効にする、その対象となるのは僕が触れているもの・・・但し触れていたとしても僕から距離が離れるほど効果は弱くなる。
過去の実例からアルフレッドさんは魔王の攻撃には耐えられない、だから僕と手を繋ぎ少しでもダメージを減らす作戦だ。
僕達はゆっくりと魔王のところへ近付いた。
「グスッ・・・コワイヨゥ・・・タスケテ」
魔王が泣いている・・・だがこれは演技だ、泣きながら僕達の方をチラチラと見て様子を伺っている。
「シネ!」
ぶぉっ!
突然魔王の手から黒い煙が放たれた・・・これも想定済み、王国には過去に魔王と戦った記録が残されている、油断して勇者が近付いたところに魔法攻撃、触れたもの全てが腐り落ちる凶悪な腐食魔法を放つ・・・歴代の魔王は皆この方法で攻撃を仕掛けてくる。
僕はアルフレッドさんを庇い全身で魔法を受けた、魔王耐性があるから効かない筈だ。
手を繋いでいない方の左手ですらりと剣を抜き更に魔王に近付く、この剣は借り物で王家に伝わる聖剣らしい。
ぼとり・・・
「うむ・・・やはり私では役に立たないようだ・・・」
先に魔王を斬ろうとしたアルフレッドさんの機械の右腕が持っていた剣と一緒に腐り落ちた、僕の身体から一番遠いから腐食魔法の余波にやられたのだろう・・・早く魔王を片付けないと!。
ぶぉっ!・・・ぶぉぉっ!
「ヤメロ、クルナァァッ!」
腐食魔法が効かない事を悟った魔王が本気で怯え始めた・・・魔法を乱射する魔王に向けて僕は剣を高く掲げ・・・首を刎ねる。
ざしゅっ!・・・
魔王の首が胴体と切り離されて地面に落ちた。
・・・
つかみっ!
ばきっ!、ぐしゃっ!
「え・・・わぁぁっ!、放せ!」
首を落とされた魔王の身体が僕の足元に倒れたから油断して警戒を緩めた、その隙を突いて首の無い魔王の両手が僕の左足を掴んで握り潰したのだ。
ざしゅっ!、ざしゅっ!・・・
膝から下を潰された僕は慌てて魔王の身体を剣で何度も刺した、ようやく動かなくなった魔王の身体は青い炎に包まれて灰だけが残った。
「終わりましたね勇者殿」
「うん・・・僕、世界を救っちゃった」
左足を失った僕と右腕を失ったアルフレッドさんが地面に座り込む・・・どちらも機械の義手や義足だから新しく作ればいい、先ほど切り落とした魔王の首は少し離れた所で青い炎に包まれていた、あの首もそのうち燃え尽きて灰になるだろう。
「さて、街に戻りましょうか勇者殿」
魔王とはいえ初めて「人」を斬り殺した僕は身体の震えが止まらない、機械なのに震えるなんてどこまでこの身体は精巧に出来てるんだよ・・・そう思いつつアルフレッドさんの肩を借りてゆっくりと立ち上がった。
「うん、帰ろうか」
この洞窟を出ると魔物がまた襲って来るだろう、アルフレッドさんの右腕と剣は腐敗魔法でボロボロになったから僕の借りている聖剣を預けた、僕は丸腰になるが腕は戦闘用のものを着けているから鋭利な爪で魔物くらいなら切り裂ける。
もちろん剣なんて無くてもラオ⚪︎・・・いや、アルフレッドさんは素手で十分強い、この洞窟に入る前だって拳でオークっぽい魔物の頭を粉砕しているのを見たし。
洞窟を出て襲いかかって来る魔物を倒しながら僕は来た時と同様アルフレッドさんを抱き抱えて空に舞い上がる、もう夜明けが近いのか地平線の向こうが明るくなっていた。
このまま山脈を超えて街に向かおう。
「勇者殿、街には魔物避けのシールドが張られているので門の前で降りて下さい」
「了解っ!」
僕はアルフレッドさんの指示通り高度を落として城門の前に降り立った。
義眼の隅に表示されている時計を見るとちょうどお昼だ、門が開いて騎士達が駆け寄って来た、門の上を見ると街の人達が沢山集まっている。
ボロボロの僕達は門番の騎士に抱えられて街に入り、そこから車で領主邸に移動した。
これは後になって分かった事なのだけど・・・街の人達が僕とアルフレッドさんが帰還した様子を撮影し、それが世界中に拡散されたのだ。
勇者が左足を失ったという衝撃的な情報も広がり人々を悲しませた、領主様や国王が勇者は既に全身機械化された身体だから心配無用と告知を出して騒動を収めるのに苦労していたようだ。
それでも一部の有識者の間では異世界から来てくれた勇者様を機械の身体に改造するのは倫理的にどうなのか?、勇者の同意無く強制的に手術が行われたらしい!、召喚自体が人道的に間違っている!、などとしばらく激しい論争が続いたらしい。
「お疲れ様です勇者様」
「うん、怖かったぁ」
僕達の身体の状態はすぐに王都に報告され、オルネン家の屋敷にある転移魔法陣でスチールさん達エンジニア軍団が辺境に駆けつけてくれた、その日の夕方には僕の身体は元通り、アルフレッドさんの腕も予備の腕パーツを使って完全に修復された。
2日後にはこのオルカの街で魔王討伐記念パレードが開かれる予定だ、なのでまだ僕達は王都に帰るわけにはいかない・・・転移魔法陣があるからすぐに帰る事は出来るのだけど領主様に引き留められたのだ。
身体の修復を終えた僕はこの屋敷のメイドさん達の手によって隅々まで洗われた。
この後領主様に戦果を報告するのだ・・・と言ってもアルフレッドさんが胸に付けていた小型カメラで討伐の様子が記録されているからその動画を鑑賞をしつつ補足事項があれば説明という感じになるだろう。
まだしばらく時間があるので僕は用意されていた客間のベッドで横になっていた。
ふと視線を感じてそちらに目を向けると少し開いた扉の隙間から誰かが覗いている。
僕と目が合った・・・扉が閉まる。
目を逸らすとまた扉が開いて僕を見ている。
「おいでー」
手招きすると扉の隙間から幼女が現れた・・・アンジェリカちゃんだ、小動物みたいでとても可愛い。
とてとて・・・
僕の方に駆け寄って来た幼女ちゃんが綺麗な仕草で挨拶をする。
「ごっ・・・ごきげんようお義母様!、私はぁ、アンジェリカ・オルネンと申しましゅ!、お会いできりゅのを・・・たっ・・・楽しみにしていましたぁ!」
緊張で挙動不審になりながらアンジェリカちゃんは僕に挨拶をした、僕と同じような身体にぴったりとした全身を覆う服にレースが沢山施された上着を着て足元は花のワンポイントがついた革のブーツを履いている。
「初めまして・・・じゃないね、この前もう会ってるし・・・僕はリィ・ダテハだよ、よろしくね」
「はいっ、お義母様!」
「・・・お義母様というのはやめてもらえるかな、アンジェリカちゃんのお父様とはあくまで書類上の夫婦で・・・わぁぁぁ!」
キラキラした目で見つめていたアンジェリカちゃんの表情が僕の言葉で曇った、目に涙が溜まって鼻水も出てきたぞ、泣かないように我慢しているのか下唇を噛んでプルプル震えている・・・これはまずい!、でも僕にどうしろと!。
「まっ、待って!、泣かないで!、ほらお義母様だよぉ!」
なでなで・・・
これくらいの年齢の幼女なんて相手した事がないから対応に困る、咄嗟に頭を撫でて思わずお義母様だと言ってしまった・・・領主様はアンジェリカちゃんに何て説明してるんだ?、このまま僕がこの子の母親になる方向で話が進んでそうなんだけど!。
「ぐしゅっ・・・ひっく・・・ぐす・・・・お義母様ぁ・・・」
ぽすっ・・・
幼女ちゃんが僕に抱きついて泣いている、本当にどうしよう・・・。
なでなで・・・
・・・
「すぅ・・・ぴー・・・すやぁ・・・」
僕に抱きついたまま寝ちゃったよこの幼女・・・。
「子供・・・苦手なんだけどなぁ・・・」
僕はアンジェリカちゃんの頭を撫でながら独り言を呟いた。
読んでいただきありがとうございます。
諸事情により恋愛要素はほとんどありません、女性は平たい胸の人しか出てきません、男性は筋肉モリモリマッチョマン多いです、パロディ要素あり、苦手な人は注意してくださいね。
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