006 - だんなさまはちょいわるいけおじ! -
ざわざわっ・・・
「勇者様ぁぁ!」
「すごく綺麗・・・」
「魔王を倒せー」
「可愛いな」
「勇者様っ!、勇者様っ!」
翌日の見せ物・・・いや、パレードは盛大に行われた。
首都ゼーレの幹線道路を通行止めにしたから巨大都市の経済活動が一時的に停止する、だが国王に言わせると魔王を放置した時の被害に比べれば些細な損失らしい。
僕は宙に浮くオープンカー?に乗り沿道の人々に手を振った、150階を超える高層ビル群、色とりどりの電飾看板、ビル同士を繋ぐ巨大な連絡橋や大規模なショッピングモール・・・この都市のサイバーパンク感は半端ない、テレビで見た地球のドバイや上海、ニューヨークを軽く超えている。
「この巨大都市の未来が僕の腕にかかっている・・・」
改めて考えると責任重大だ、しかもたった1人の見届け人を連れた2人だけで魔王の住む魔界に入るのだ。
「微力ながら全力で勇者殿をお守り致します」
僕の隣に立っている見届け人・・・アルフレッド・ホークトゥ近衛騎士団長が低く威圧的な声で話しかけてきた、いかつい鎧ですら隠しきれない躍動する筋肉が凄まじい。
そのラオ⚪︎・・・いや、アルフレッドさんは僕の戦いを記録し後世に残すという任務を国王から命じられている、もちろん道中に現れる魔物とも戦う心強い同行者だ。
本当は100年前に前任勇者と一緒に魔王討伐を経験した魔術師団長が見届け人になる予定だった、でも僕を召喚した時の後遺症からまだ完全に回復していないようで代わりにアルフレッドさんが同行する事になった。
僕が勝ったこの前の模擬戦ではアルフレッドさんが手加減してくれていたそうだ、参考までにどのくらい手を抜いていたのかと聞くと・・・。
「本気の時の3割程度でしょうか・・・」
少し照れたような顔でそう答えてくれた、はっきり言って彼は化け物だ。
魔王の住処までは野を超え山を越え、野宿を繰り返し・・・と勝手に想像していたのに辺境の街まで高速鉄道が通っているらしい、何か思ってたのと違う!。
パレードが終わり僕達は国王と別れて高速鉄道の駅に向かう、この駅も近未来感が凄まじい・・・まるでSF映画に出て来る宇宙ステーションのようだ。
魔界の入り口まではオルネン領オルカの街の領主邸にある転移魔法陣を使うと王城から直接転移できて早いらしい、でも僕が戦闘技術を習得するのが予想以上に早かったので時間に余裕が出来た。
まだ日程に余裕があるのなら列車を使い十日ほどかけて道中の街でも僕のお披露目パレードをしたらどうだろう・・・と国王からの提案があった、宰相も素晴らしい計画だと賛成したそうだ。
・・・
王都を出発して10日経った、快適な鉄道の旅は順調だ。
おかげでこの国の色々な街を見る事が出来た、首都ゼーレはサイバーパンクな大都市だ、首都から少し離れると中世ヨーロッパ的な古い街並みが残る場所もあった、更に田舎に行くと森と湖に囲まれた小さな街があってとても興味深い。
この国は都市部も凄いが田舎も絶景だ、大自然に囲まれた街の美しさに感動し清潔なホテルで睡眠をとる、唯一残念なのはその土地の名物料理が食べられない事だ、僕は食事を必要としないし出来ないから。
ラ⚪︎ウ・・・いや、アルフレッドさんは両腕を機械に改造して頭を電脳化している以外は生身なのだそう、だから僕は食事に同行して味や感想を聞いたり美味しそうに食べているところを眺めて楽しんでいた。
・・・
旅に出て12日目、僕達を乗せた高速列車は辺境オルネン領オルカの街に到着した、この街を出て北にある山脈を越えた向こうに魔界・・・魔王の住処がある。
魔界との境界近くという事で勝手に暗雲に覆われた陰鬱な街を想像していたのに今僕が居る場所は空が晴れ渡り遠くに雪を被った山脈が見えるとても自然豊かで綺麗な街・・・。
駅に迎えに来た宙に浮く車に乗って街の様子を眺めると結構活気があるようだ、街に住む人達の3割近くは王国騎士団に所属している辺境部隊の関係者で3割がオルネン家の騎士団とその家族、残り4割が街の住民なのだとアルフレッドさんが教えてくれた。
「こちらが領主邸です」
「わぁ・・・大きい」
オルネンの領主邸は家というより城だった、街は城壁?に囲まれていて透明なドーム状のバリア的なものに覆われている、中央に聳える巨大な観測塔で魔界の様子を監視しているらしい。
「オルネン領にようこそ勇者殿」
低音のとてもいい声で僕を迎えてくれたのはこの街を含むオルネン領の領主様・・・そして僕の旦那様だ・・・あくまでも書類上の、だけどね。
写真で見たのと同じ・・・ちょいワル風なイケオジだ、背は高く猛禽類のような鋭い眼光と薄い唇、無造作に伸ばした髪をオールバックにしていて無精髭を生やしている・・・頬には大きな傷があるしはっきり言って怖い!。
ちなみに領主様も身体にピッタリとした服を着ている、ここに来るまでに会った人々も似た感じなのでやはりこのエロい服が標準仕様なのだろう。
上は僕と同じような王国騎士団の制服で足元はいかつい革のブーツ、腰には長い剣を差していた・・・羽織っている上着の丈が長いから残念ながら股間の様子はよく見えない。
「は・・・初めまして、リィ・ダテハといいましゅ」
・・・緊張して噛んだじゃないか!。
「今日は屋敷でゆっくり休んで欲しい、到着早々で悪いのだが明日の朝すぐ討伐に出発して貰いたい」
口数の少ない人なのだろうか?、僕とあまり目を合わさず無表情で淡々と喋っている・・・それにしても声優みたいに声が良い!。
そんな事を思っていると領主様が屋敷に向かって歩き出した、僕とアルフレッドさんは彼の後についていく。
「お父様!」
屋敷の中に入るとメイドさんに連れられた10歳くらいの幼女が領主様に声をかけた。
「こら、部屋で大人しくしていなさいと言ってあっただろう」
領主様が幼女の頭を撫でて諭すように話し掛けた、プラチナブロンドのとてつもなく可愛い娘だ。
「後で紹介しようと思っていたのだが・・・娘のアンジェリカだ」
「お父様!、この人が勇者様でアンジェの新しいお母様になってくれる・・・むぐぅ!」
「アンジェちゃんちょっと黙っていようね!」
アンジェリカと紹介された幼女が僕を見てとんでもない事を言い出した、慌てて領主様が彼女の口を押さえる・・・そういえば書類上はこの娘の義母になるのか?・・・いや待って!、この歳で義母になるなんて冗談じゃないぞ!。
「んー!んぅー!」
じたばた・・・
暴れる幼女の口を押さえたまま領主様は僕達に何事もなかったかのように言った。
「さて、部屋を用意してあるからゆっくり休んでくれ、必要なものがあれば遠慮なく言ってもらえれば用意させる」
「むぐぅ!」
まだ暴れている幼女に小さく手を振りながら僕達はメイドさんの案内で客間に通された。
「・・・行ってきます」
「あぁ、大丈夫だとは思うが無事に魔王を倒して欲しい」
翌日僕とアルフレッドさんは魔王討伐のために屋敷を出発した、見送りは領主様と相変わらず口を塞がれた幼女ちゃん、お屋敷の執事達とメイド軍団。
庭に出ると騎士団員が整列していて僕達に敬礼をする、屋敷の周りには街の住民が大勢集まってるようだ。
このオルネン領の領都であるオルカの街より北には鉄道が無い、あるのは森を切り開いて真っ直ぐに伸びた簡素な道路だけだ。
山脈の麓まで車で送って貰い、僕はアルフレッドさんを抱えて空を飛んだ、僕には翼があるから飛べるのだ!。
早朝にオルネンの屋敷を出た僕達は日が傾く頃には高い山脈を飛び越え魔界を横断して魔王の住処まで来ていた。
「ここに魔王が居るの?」
「観測所のデータによるとこの場所に魔力が集中しています、過去の資料と照合してもこの座標で間違い無いでしょう」
「魔王城なんて無かった・・・」
実はちょっと期待していたのだ、禍々しい魔王城・・・僕はこう見えてホラーやゴシック的なものが大好きだ、今僕達の目の前に広がっているのは大きく口を開けた洞窟だった・・・。
「誕生後1年を過ぎた魔王はこの場所より更に奥にある石造りの城砦に住処を移すと言われていますが・・・ここ数世代は1年以内に討伐を成功させているので城砦も長く使われておらず荒れた状態だと報告されています」
僕達に襲い掛かってくる狼型の魔物の首を軽々と落とし、アルフレッドさんが説明してくれた。
「・・・中に入ろうか」
「私が先を歩きますので勇者殿は後ろを・・・」
「うん」
僕達は洞窟の中に入り最深部を目指して歩き出した。
・・・
どれくらい歩いたかな・・・時間はもう真夜中を過ぎているだろう、洞窟の中には魔物が全く居なかった、更にしばらく歩くと狭い通路が突然開けて大きな空洞になっている場所に出た、洞窟の天井が崩落していて月明かりに照らされ周囲は明るい。
「勇者殿・・・」
アルフレッドさんが立ち止まり、指差した先を見ると・・・。
・・・そこに魔王が居た。
読んでいただきありがとうございます。
諸事情により恋愛要素はほとんどありません、女性は平たい胸の人しか出てきません、男性は筋肉モリモリマッチョマン多いです、パロディ要素あり、苦手な人は注意してくださいね。
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