表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神域:アポカリプス  作者: 八魔刀
第一章 絶悪の神子
3/21

第2話

「雨宮家……? 濃上の領主か。ただ川に落ちたこの子を捜していた、ってわけじゃなさそうだな?」


 レンヴァルトは六介と名乗った武士と、他の武士三人の動きを警戒する。六介は薙刀を持ち、他はただの刀を抜き身で握っている。レンヴァルトと綺咲人を囲むように位置取り、いつでも斬りかかれる体勢に入っている。


「異国の男、大人しくその小娘を渡せ。そうすれば一思いに首を刎ねてやる」

「そこは殺さないでやる、だろ。悪いがその条件じゃ渡せないな」

「そうか、なら死ね」


 直後、右に立っていた武士がレンヴァルトに斬りかかる。刀を上に振りかぶり、首目掛けて一気に振り下ろす。

 しかし、レンヴァルトは刀が振り下ろされる前に床を叩き踏む。すると足下にあったレンヴァルトの刀が鞘に収まったまま真上に跳ね上がり、レンヴァルトの胸の高さまでくる。その刀を掴み取ると武士の刀を鞘の部分で受け止めた。


「っ!?」

「――お前達から仕掛けたんだ。覚悟はいいな?」


 レンヴァルトは武士の刀を弾き返し、左から来た武士の刀も鞘に収めたままの刀で弾き返す。そして前から斬りかかってくる武士を見据え、左手で自分の刀を抜刀する。目にも止まらない速度で放たれた一撃は武士の頭から下までを見事に両断し、武士は二つに割かれて死に絶える。そして一呼吸の内に左、右と刀を振り払い、二人の武士を綺麗に斬り裂く。鮮血が送れて吹き出し、六介以外の武士は死んだ。

 レンヴァルトは刀身に滴る血を振り落とし、納刀して左手に持ち替える。右手で綺咲人を背中に隠しながら、六介に対して威嚇の眼差しを向ける。

 六介は三人の仲間が瞬きしない間にやられた事実に言葉を失っており、ただただ驚愕している様子を見せる。顔を隠す面が無ければ、さぞかし目と口が開かれている顔が見られただろうに。

 レンヴァルトは頬に付いた返り血を親指で拭い、いつでも次の攻撃に対応できるように立つ。


「貴様……最初の急襲といい、鎧ごと断ち切る技といい、ただの異国人ではないな?」

「どうでもいい。今すぐ去るなら見逃してやる」

「ほざけ。久方ぶりの強者だ。表で楽しもうじゃないか」


 六介は興奮を抑えきれない様子で歩き出し、小屋からその巨体を強引に出す。レンヴァルトはその誘いに乗るべきかどうか考え、背後の綺咲人を見やる。綺咲人はレンヴァルトの袖を強く掴んで離さない。綺咲人を連れて逃げるのも一手ではあるが、幼子を連れたまま目の前の武士から逃げるのは良策ではないだろう。


「……綺咲人、ここから動くな」

「だ、だが……私を差し出せば――」

「動くな、いいな?」


 レンヴァルトは綺咲人の手を解き、外へと出る。

 外では六介が今か今かと薙刀を携えて待っていた。子供を狙う輩にしては律儀な奴だと鼻で笑い、左手に掴む刀を腰の帯に差す。白鞘で、全体に焔のような紋様が走っている。天原の刀とは違い、古めかしい金属の装飾と狼の刻印が鍔の部分にされている。

 六介は面に手を伸ばして外し、素顔を見せる。随分と荒々しく厳つい顔だ。噂にある鬼と言われても納得しそうなぐらいである。


「貴様、名は?」

「レンヴァルト」

「ふん、異国らしい名だ。貴様の名は覚えておこう」


 突然、六介は鎧を外しだした。六介の巨体から鎧が剥がれ落ちていき、剥き出しの肉体が晒される。


「ムンッ――」


 六介が力むと、彼の肉体が見る見ると肥大化していき更に巨大な岩のような身体になる。それは明らかに人間業ではなく、文字通り化け物に相当する。レンヴァルトは六介の変異に目を見張り、彼の肉体に流れる力を見破る。


「お前、『絶悪』の神域エネルギーを持って……いや取り込んでるのか?」

「異国では『神気(しんき)』のことをそう呼ぶのか? ならそれが解るということは、やはりただ者ではないな。そうだ、我ら天ノ六人衆は選ばれし強者よ。『絶悪』の概神から力を授かり――」

「馬鹿が、その力はお前から生まれ出てる物じゃない。借り物の力を見せびらかすと身を滅ぼすぞ」


 レンヴァルトの眼が鋭くなる。その眼力から何かを感じ取ったのか、六介は顔付きを変えて息を呑む。風が吹き始め、レンヴァルトの黒髪をユラユラと揺れ動く。至極色の瞳が妖しく光り、まるで幽鬼の如き雰囲気を醸し出す。

 六介は薙刀をグルグルと弄り回し、その矛先に風を巻き込み纏わせていく。神域エネルギーによって風を操り、薙刀の威力を高めているのだ。最初の一撃もそれを利用したものなのだろう。


「……」

「……」

「……――行くぞ」


 六介から仕掛けた。薙刀を縦に振り下ろすと、強力な風の斬撃が放たれる。ゴウッという風鳴と共にレンヴァルトの肉を砕こうと斬撃が迫る。レンヴァルトは腰を落として抜刀の構えを取り、風の斬撃に対して神速の居合いを繰り出す。抜き放たれた刀によって風の斬撃は容易く斬り裂かれて四散する。


「むう!?」


 自身の技が打ち消されたことに驚愕しつつも、六介は次の攻めに転じる。再び風を薙刀に纏わせ、身体を回転しながら横に薙ぎ払う。横薙ぎにされた風の斬撃がレンヴァルトへと襲いかかるが、またしても刀で容易に斬り裂く。そして今度はこちらの番だと言わんばかりに足を踏み込み、距離があったのにも関わらず一拍の間に六介へと肉薄する。薙刀を振り払ったことで開いた胴体目掛けて刀の切っ先を突き立てる。鎧すら断ち切る刀であれば、肉体を骨ごと貫くことなどたわいない。しかし事実はその逆であり、刀の突きは六介の胸筋により止められてしまった。

 どうやら神域エネルギーで肉体を硬質化させて強度を上げているようだ。レンヴァルトは六介の神域エネルギーの使い方が熟れていることに驚き、僅かに感嘆の声を漏らす。六介はレンヴァルトの刀を防ぐことができるとわかるとニヤリと笑い、反撃に転じる。その巨体には似つかわしくない素早い動きで薙刀を振り回し、レンヴァルトを木っ端微塵に叩き壊そうとする。

 レンヴァルトは冷静に六介の動きを目で捉えながら、最低限の動きと刀捌きで薙刀を防いでかわし、反撃の機を窺う。

 そして、それはすぐに訪れる――。


「ッ――」


 幾度かの打ち合いで、レンヴァルトは六介の弱点を見抜く。六介は神域エネルギーを常に全身に流して強化しているように見えるが、その実、強化の仕方に斑がある。攻撃に転じる際、攻撃に使う身体の部位に力を込めるためなのか、それ以外の部位に流れている神域エネルギーが薄れていくのだ。

 だから、レンヴァルトはそこを狙う。薙刀を刀で防ぎながら反撃の拍子を整え、絶好の機を見極める。そして六介が強力な一撃を放とうとして薙刀を此処一番の大きな動作で振りかぶる。

 その直後――レンヴァルトは刀を鞘に収めていた。六介の攻撃をいなしつつ、抜刀の体勢に入っていたのだ。そして六介の神域エネルギーの流れを見極め、薄くなった左脇腹へと狙いを定める。

 瞬間――抜刀。踏み込みと同時に鞘から刀が解き放たれ、擦れ違い様に六介の腹を刀が斬り裂く。夥しい量の鮮血が流れ出し、六介は声にならない絶叫を上げながら地面に崩れ落ちる。

 レンヴァルトは残心を取ってから刀を振るって血を払い、左腕で刀を挟んで残った血を拭う。刀を鞘に収めながら六介へと振り返り、六介が完全に力尽きたかどうかを確かめる。

 六介はまだ生きていた。血を地面に零しながらも膝を突き、全身に脂汗をかきながら立ち上がるとしている。


「根性あるな。だが諦めて楽になれ」

「ふ、ふざけるな……っ! 我は天ノ六人衆……! 黄泉へと落ちるその時まで、我は戦う!」

「……最期に聞かせろ。どうしてあの子を狙う?」


 六介は筋肉で傷口を塞ぎながら薙刀を支えにして立ち上がり、レンヴァルトを睨み付ける。

 どう見ても致命傷だ。左側の腹を半分ほど斬られ、臓器も断ち切られている。もはや助かる見込みは無い。


「ハァ……ハァ……! それを貴様に語る口を、我は持たぬ……!」


 六介は薙刀をレンヴァルトに目掛けて投擲する。レンヴァルトは刀を抜いて薙刀を叩き落とすと、眼前に六介が迫っていたのが見えた。その腹の傷でよく此処まで動けるものだなと感心し、呼吸を整える。身体を捻り、六介の突進をかわしてそのまま刀を握る右腕を振るう。風が二人の間を駆け抜け、静寂が辺りを包み込む。


「――貴様も概神に選ばれし武士(もののふ)か」

「……」


 レンヴァルトは何も答えず、刀を鞘に収める。六介は膝を地面に突き、首がゴトリと地面に転がる。肥大化していた身体は音と煙を発生させながら萎んでいき、骨と皮だけの死体となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ