表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神域:アポカリプス  作者: 八魔刀
第一章 絶悪の神子
14/21

第13話

 爆音がする場所へと振り向くと、蒼雲城が激しく燃え盛っているではないか。それも一角ではなく全体的に火の手が回っている。あの一瞬の爆発で燃えたというのであれば、それは明らかに自然発火で起きたものではない。


 つまり――敵は既に本丸を攻めている――。


「嗚呼……始まる……拙者が求めた戦が――」


 二影の言葉は最後まで紡がれることはなかった。レンヴァルトが二影の首を斬り落とし、二影の姿をした身体は完全に靄となって消えていった。首を斬り落としたレンヴァルトは走って城へと戻っていく。

 城に攻め入られたということは、綺咲人が既に敵の手に渡ってしまっている可能性が高い。連れ去られる前に辿り着き、綺咲人を取り返さなければならない。


「綺咲人……! 天星は何をしてる……!?」


 レンヴァルトは城門まで辿り着く。城門前には黒塗りの鎧を着た武士らが待ち構えていた。彼らの足下には九条家に仕えている武士の死体が転がっており、鎧を着た武士が殺したのだろう。それに、あの鎧には見覚えがある。最初に六介と一緒に現れた武士らと同じ鎧だ。ならば、奴らは雨宮家の者――。


「此処は通さ――」


 武士の一人が立ちはだかろうとした瞬間、レンヴァルトは問答無用で走り抜けた。走り抜ける一瞬で刀を数度振るい、目の前にいた武士らを全員斬り伏せる。閉じられている城門を神域エネルギーを用いた拳で殴り壊して突入し、城内の様子が目に映る。

 城内の敷地にはどうやって現れたのか、雨宮家の武士らが九条家の武士達を蹂躙している。雨宮家の武士らの動きは人間のそれとは違い、化け物染みた動きで圧倒している。よく見ると、彼らからは人間の気配が感じられない。六介や四明のような変化をしている者共も見受けられる。


 ――人の皮を被った鬼だ!


 綺咲人と最初に出会った頃、綺咲人がそう言っていた。天ノ六人衆だけではない、雨宮の手下共全員が『絶悪』の神域エネルギーに己を喰わせて怪物に変わっている。

 四明との戦いの際、黒装束の手下を蹴り殺した時に感じた違和感。全身を隠していたからはっきりとしなかったが、あの装束の下は既に人の姿をしていなかったのだろう。

 奴らは九条家の武士だけではなく、この場に居合わせている天星の者達にも襲い掛かっていた。剣を携えている戦闘員は非戦闘員を庇いながら応戦し、傷付きながらも何とか耐えていられている。

 レンヴァルトは刀を握る手に力を込め、天星の一人の背後から斬りかかろうとしていた武士の前に躍り出て首を斬り落とす。


「あ、貴方様は――」

「レクターは!? シルヴェス・レクターは何処だ!?」

「屋敷にて指揮を執られております!」

「命令は何て!?」

「守備部隊と迎撃部隊に分かれ、守備部隊は屋敷を守り、迎撃部隊は侵入者の撃退です!」

「なら装備を対人から【D型】に変更しろ! コイツらは人間じゃない!」


 次々と襲い掛かってくる武士らを斬り捨てながら天星の女性に指示を出し、レンヴァルトは更に戦火の奥へと入っていく。進路上にいる敵は全て擦れ違い様に斬り、燃え盛る城の中へと飛び込む。

 城の中は外よりも地獄に近しい光景だった。炎が激しく燃え盛っており、中でも敵の襲撃があったのか、血だらけの武士達が息絶えて転がっている。城から離れていたのはほんの少しだというのに、その一瞬でこの有様だ。いったいどんな手を使ったのか不明だが、今はどうでもいい。真っ先にしなければならないのは、綺咲人を見付けて確保することだ。

 レンヴァルトは感覚を研ぎ澄ませる。この城の何処かにいる綺咲人の神域エネルギーを感じ取り、城の上階にいるのを察知する。燃え落ちていく城の中を走り抜ける。燃えて脆くなった場所を突き破り、階段が燃え落ちていれば驚異の脚力で上へと跳び上がる。

 綺咲人の反応を追って辿り着いた場所は城の最上階であり、大きな広間に躍り出た。

 そにいたのは、刀を手に血を流した九条雅之と綺咲人を庇うように抱き締めている菖蒲、そしてあの天ノ六人衆の頭目である黒衣の男と二影だった。


「ぬぅ……!」


 雅之は額に脂汗を流しながら苦悶の声を漏らし、黒衣の男に斬りかかる。だが黒衣の男は無表情のまま雅之の刀を余裕でかわし、そのまま雅之を自身の刀で斬り裂いた。斬られた雅之は刀を落とし、一歩二歩と前に進んで両膝を床に突く。


「儂の……夢……が……」


 雅之の首が床に転がる。黒衣の男は刀の血を払い取り、二影はやれやれと苦笑する。


「……終わりだ。神子を渡せ」


 黒衣の男が菖蒲に一歩近寄る。


「綺咲人!」

「ッ!」


 その瞬間、レンヴァルトが一息で詰め寄る。黒衣の男に斬りかかり、鍔競り合いになりながら押し止める。


「おじさん!」

「れんばると様!」

「貴様か……!」


 黒衣の男の顔が歪む。レンヴァルトを押し退け後ろに下がり、忌々しそうに睨みを利かす。

 レンヴァルトは菖蒲と綺咲人に怪我が無いことをサッと見て確かめ、綺咲人がまだ相手の手に渡っていなかったことに安堵する。二人を守るようにして黒衣の男と二影の前に立ち塞がり、相手の出方を窺う。

 黒衣の男が足下にある雅之の遺体を蹴り退けながら、ウンザリした様子を見せながら口を開く。


「往生際が悪いのにも程があるぞ。神子を渡すんだ」

「お前らこそ諦めが悪いな。綺咲人のことは諦めろ」

「……昨夜は貴様を侮っていたが、此度は最初から本気でやらせてもらう」

「やってみ――」


 瞬間、レンヴァルトの横腹に衝撃が走る。肉が潰れる音と骨が砕ける音が鳴り、強烈な痛みがレンヴァルトに牙を向ける。吹き飛ばされる直前、目に入ったのは黒衣の男の蹴りが左の脇腹にめり込んでいる光景だった。広間の端まで吹き飛ばされ、壁に穴を空けて転がる。すぐに立ち上がるも、それを読んでいた黒衣の男が既に接近しており、刀を突き出してきていた。刀はレンヴァルトの胸を貫き、そのまま床に打ち付けられる。

 その程度ならば――と反撃を試みるが、黒衣の男から放たれた赤黒い神域エネルギーの波動が刀を通して体内に打ち込まれ、内臓が全て潰されてしまう。レンヴァルトは口から血を吐き出し、床に横たわってしまう。

 それでも死んでいないところを見るに、彼は本当に死ぬことができないのだろう。


「貴様が何故、神気を使うことを躊躇っているのかは知らんが、それでは俺に勝つことはできん」

「ごふッ……!」

「今此処で首を落としたいところだが、殿の命だ。此処で自分の弱さを呪っていろ」


 そう言うと、黒衣の男は左手に自身の神気で造り上げた刃をレンヴァルトの胸に突き刺して床に貼り付ける。刀を抜き、菖蒲と綺咲人へと歩み寄る。レンヴァルトは黒衣の男を止めようとするも、負った傷の再生ができておらずに動けない。

 黒衣の男が菖蒲と綺咲人の前で立ち止まると、菖蒲は綺咲人を背に庇う。


「……退け」

「退きません!」

「……」


 黒衣の男が刀を振り上げる。それは脅しではなく、最後の警告だ。

 しかし菖蒲は引き下がることなく、泣きそうな声で言葉を発する。


「もう止めて――【一真(いっしん)】……!」

「――ッ!」


 一瞬だった。音も無く振り下ろされた刀は菖蒲を袈裟斬りにした。菖蒲は悲鳴を上げることなく血を噴き出して横に倒れる。自分の血溜まりの中に横たわり、途切れ途切れの小さな声を漏らす。

 目の前で母を斬られた綺咲人は言葉を失って呆然とし、そしてすぐに怒りの形相に変わる。『絶悪』の力を発動して黒衣の男に飛び掛かろうとするも、それより早く男が綺咲人の頭を鷲掴みにし、神気による封印術を施される。昨夜のよりも強力な術らしく、綺咲人は一瞬苦しんだ後、だらりと脱力してしまう。

 その直前、男の手の間から覗く目がレンヴァルトに向けられる。絶望した光の無い目でレンヴァルトを見て何を思ったのか、手を伸ばそうとして意識を失った。

 レンヴァルトは激怒した。身体の再生が終わらない内に動き出し、綺咲人を抱える男に向かって刀も持たずに飛び掛かる。

 しかし、彼の前に二影が割り込む。突き出した手が二影の刀に突き刺さって止められるが、そのまま手を引き千切るようにして強引に刀から抜き取り、更にそのまま刀身を握り締める。


 黒衣の男は綺咲人を脇に抱え、レンヴァルトに向かって一言――。


「来るなら来い。その時こそ貴様の最後だ」


 黒衣の男は綺咲人と一緒に燃え落ちていく広間から飛び出し、姿を消した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ