第8話 街を目指そう
せっかく、女神から、異世界の服をもらったんだ。
外にでて、街を目指そうと思う。
食材とか、調理器具とか、食器とか。
足りないものを、手に入れないと。
女神にもらった服を着込んで、外へ出た。
もちろん、リュックも背負っている。
じつは、このリュック。
【卵ハウス】用だった。
ぼくの【空間収納】は、【卵ハウスの倉庫】。
【卵ハウス】を、【卵ハウスの倉庫】に入れるのは不可能だ。
それで、この専用リュックがあるんだろう。
このリュックも、もちろん【空間収納】。
だから、あの巨大な【卵ハウス】が、すっぽり入る。
【時間停止】機能はないらしい。
【古代竜の卵】を三階に置いたままでも、収納できた。
【時間停止】だと、生き物が収納できない
今は、クレーターの長い長い坂を、登っている。
でも、すいすい登れて、快適だ。
じつを言うと、ぼくは、体力に自信がある。
小さい頃から、かなり鍛えられたからだ。
ぼくのじいちゃんに。
じいちゃんは、武道家だ。
傲慢不遜な喋り方になったのも、じいちゃんのせいだ。
幼い頃から、ふつうにしゃべると、こっぴどく叱られた。
『この、軟弱者!』って。
だから、今みたいな喋り方をするしかなかった。
そのうち、この喋り方しかできなくなった。
じいちゃんには、感謝してるから、まあ、いいけど。
ちなみに、ぼくは、戦闘系のチートを、一切もらってない。
女神は、『戦う力は、要らないのか?』って聞いてくれたけど。
でも、そっちは、なんとかなると思ったんだ。
武道家のじいちゃんに、さんざん鍛えられたから。
それで、つい『必要ない』って断ってしまった。
あんまり、たくさん頼むのも、悪いかなって思ったし。
だから、ぼくがもらったチートは、二つだけ。
【卵ハウス】と【自給自足】だ。
【卵ハウス】は、チートっていうより、アイテムか。
召喚された勇者たちは、違うらしい。
なにしろ、【邪神竜】やその配下と戦うんだから。
戦闘力に特化したチート盛りだくさん?
その上、武器やら防具やら、アイテムもいっぱい。
巻き込まれたぼくとは、大違いらしい。
でも、羨ましいとか。まったく思わない。
こうして、快適に暮らすことができてるんだ。
ぜいたくを言ったら、もうしわけない。
感謝の気持ちを忘れたら、ダメ人間になってしまう。
クレーターの長い坂を登り切ると、荒れ地に出た。
クレーターって、隕石が落ちた跡だろう。
この荒れ地も、隕石の衝撃波のせいだろうか。
以前、ロシアに隕石が落ちた時。
100キロ先の建物のガラスまで割れたっていう話だ。
でも、クレーターも荒れ地も、できて間もない感じがするな。
__隕石が落ちたのは、つい最近ってことか?
ぼくは、隕石が落下した後に、異世界に送られたんだよな?
下界に降りる時、【卵ハウス】に入ってすぐ、気を失った。
だから、そのあと何があったのか、まったくわからない。
いやいや。 そこは、女神たちを信じよう。
これだけ、親切にしてもらってるんだから。
__でも、もし、順番が違っていたら?
【卵ハウス】は、クレーターの中心にあった。
隕石は、【卵ハウス】を直撃したかもしれない。
いやいや。 それでも、大丈夫だったはず。
【卵ハウス】は、『惑星が割れても大丈夫』仕様なんだから。
隕石の直撃くらい、平気に決まってる。
実際、ぼくは、こうしてぴんぴんしてるんだし。
__うん。とにかく、今は女神たちを信じて、前に進もう。
ぼくは、自分に言い聞かせるように、黙々と荒れ地を歩いた。
しばらく進むと、森が見えてきた。
__森か…。森に入るのは、明日からにしよう。
これまでは、魔物どころか、獣にすら遭遇していない。
森に入れば、そうはいかないだろう。
それに、森には、《《アレ》》がいる。
体は、疲れていないけど、心の準備が必要だ。
__うん。今日はもう【卵ハウス】に籠ろう。
【自給自足】で、作りたいものもあるしね。
リュックから【卵ハウス】を取り出して、【帰還】した。
三階をちらりと覗いてみる。
__まだ、孵化してないか…。
その場で【自給自足】を発動。【作業空間】に入った。
眼の前で、黒い塊がうねうねしている。
『黒胡椒』。 ラーメン用だ。
パウダーだから、簡単だ。
それから、ちょっと不安だったけど、赤い塊。
『一味唐辛子』。 うどん・そば用だ。
つぶが少し大きいけど、問題なくできた。
どちらも、999キロ。
掛けすぎないように注意しよう。
あとは、飲み物もほしいな。
コーヒーは大好きだけど、これだけでは寂しい。
『オレンジジュース』も、簡単にできた。
ジュースの定番だよな。
『ミネラルウォーター』もいいとは思うけど。
【卵ハウス】のキッチンの水は、なぜか、すごくおいしい。
それなら、あっても飲まないかな。
いちばん飲みたいのは、炭酸系だけど。
コーラは、ちょっと…。
サイダーも、お子様ぽいし。
__そうだ。アレがいい。
『スパークリングワイン』を作った。
ぼくは、あまりお酒が飲めない。
まだ、高校生だったからね。
でも、『スパークリングワイン』は別。
甘くて、おいしいんだ。
食べられるものって、作れないのかな。
でも、作れるのは『粉』とか『粒』だ。
食べられる『粉』?
食べられる『粒』?
そんなものあるわけないか。
__いや、でも…。
ひとつあった。
簡単な調理は必要だけど、すぐ食べられる。
__できた! 『ホットケーキ・ミックス』だ。
これも、いろいろ入ってるから、焼けばすぐ食べられる。
『ココア』と同じだ。
でも、フライパンがないな。
早く、街を見つけて手に入れないと。
今回も、やっぱり、『999キロ』と『999リットル』になった。
簡単にできるのはうれしいけど、消費しきれるだろうか。
【作業空間】を出て、カップ麺を食べた。
今回は、『天ぷらそば』だ。
もちろん、『一味唐辛子』をたっぷりかけた。
お陰で、飽きずに、最後までおいしく食べられた。