第57話 呼び出された辺境伯(1)
(Side ???)
「なんだ、急に呼び出しやがって。
もう少ししたら、帝都に来ると伝えておいたはずだぜ。
お陰で、貴重な魔石を使っちまったじゃねえか」
オレは、愚痴りながら執務室に入った。
執務室には、皇帝陛下はもちろん、宰相や皇子たちもいた。
「兄さん。 聞きたいことがあるんだ」
オレを、兄さんとフランクに呼ぶ男。
こいつが、皇帝陛下だ。
もちろん、オレのかわいい弟だ。
ここにいるのは、みんな、家族。
宰相も、子供の頃からのつきあいだ。
だから、家族同然と言っていい。
「なんだ?」
「シュウという少年を、知ってるかい?」
「ああ、知ってるぜ」
「どんな少年?」
「大雑把すぎるな。 具体的に聞けよ」
「そうだね。 じゃあ……、異世界人かい?」
「さあな。 そこまではわからねえ。
だが、髪は銀。瞳は赤だ。 黒目黒髪じゃねえぞ。
そのくらいは、知ってるんだろう?」
「もちろん。 でも、兄さんは『鑑定』したんでしょ?」
「とうぜんしたさ」
「それで?」
「……はじかれたのさ」
「……え?」
皆が、いっしゅん固まる。
そりゃそうだろう。
このオレが、小僧に『鑑定』かけて、はじかれたんだからな。
「はじかれたんだよ。 あっさりな」
「てことは、兄さんより……」
「ああ……。 まったく、信じがたい話だがな。
オレよりも、レベルは上だろうよ。
だが、レベルだけ高いってわけじゃねえぞ。
強さもほんものだ。
グリフォンの襲撃のことは知ってるな?」
「ああ。 兄さんからの、鳥便で読んだからね」
「あの時、ソフィアは何もしなかった。
ただ、黙って見ていたんだよ。
目と鼻の先で、ブレスを撃たれるところだったんだぞ。
でも、まったく、動こうともしなかった。
『シュウがいれば、絶対に大丈夫』って言ってな。
まあ、さすがに、火竜を殺しにかかった時は。
あわてて、止めていたがな……」
ここで、宰相が口を挟んだ。
こいつは、必要な時にしか、話に加わらねえ。
「ほかの話とも、一致しますな。
街道のヴァイパー討伐の時も。
峠のワイバーン討伐の時も。
ハイ・エルフの姫さまは、手を出そうともしなかった。
すべて、婚約者に、任せきっていたそうですよ」
「なるほどね。 実力は、ほんものってことだ」
弟が、唸った。
そして、真剣な顔で尋ねてきた。
「野心は? 帝国の敵に回る可能性は、どう?」
まあ、ほんとうに聞きたかったのは、コレだろうな。
「野心は、ねえな。 そもそも、貴族と関わりたくねえんだと。
オレを前にして、平然と言いやがった。
貴族と話すのも嫌なヤツに、野心があるとは思えねえ。
敵に回るかどうかは、こっち次第じゃねえのか?
ハイ・エルフの美姫を、手に入れたがってる馬鹿がいるだろう。
そいつらの出方しだいでは、いつでも敵に回るだろうよ」
「先日も、Sクラスの冒険者を三人ほど、半殺しにしましたな」
「ほう、それは、初耳だな」
うんざりした口調で、弟が、話し始めた。
「自分こそソフィアにふさわしいと言おうとしたらしいよ。
それも、ハイ・エルフの長に向かってさ。
そしたら、本人に手厳しく拒絶されたんだって。
それで、婚約者と決闘させろと言い出したんだ。
あげくに、勝ったら、ソフィアは自分のものだとか、言ったらしいよ」
「なんだ、そりゃ? 頭がおかしいんじゃねえのか。
よく、ハイ・エルフの長に殺されなかったな」
「その前に、婚約者くんが、そいつを踏みつけたんだ。
それだけで、頭の骨が陥没してたらしい」
「直後に、同じパーティのふたりが、斬りかかったそうです。
それも、ギルドのホールの真ん中で。
でも、まるで、相手にならなかったとか。
このふたりも、半殺しにされています。 それも、素手で」
今度は、第一皇子だ。
次期皇帝にふさわしい、落ち着いた青年だ。
「むしろ、小僧のお陰で、命拾いしたんだよ。
でなきゃ、ハイ・エルフの長に、八つ裂きにされていたろうさ。
まあ、それだけで済んだ、とは思えねえが……」
「まったくだよ。 本人が殺されるのは、自業自得だけどさ。
危うく、帝都が、とばっちりを食うところだったかもしれない。
ほんとうに、ギルドには、ちゃんと管理してもらわないと。
すこし強いくらいで、馬鹿が野放しにされては困るんだ」
珍しく、弟が、感情を露わにして怒った。
それだけ、危うかったと思ってるんだろうな。
「【邪神竜】どもの殲滅に伴い、『討伐隊』は解散。
エルフやドワーフとの『同盟』は、解消となりました。
つまり、今では、どちらも『仲間』ではありません。
幸い、『敵』ではないというだけです。
ソフィアさまも、同じです。
いまは、『戦姫』という、ありがたい協力者などではありません。
れっきとしたハイ・エルフの『姫君』です。
その『姫君』を、大勢の人々の前で、侮辱したのです。
戦争にもなりかねない、由々しき事態でした」
ため息まじりに、宰相がぼやいた。
「ハイ・エルフの長だぞ。
戦争なんて悠長なことは言わねえ。
涼しい顔で、帝都を焼き払って、それで終わりだ。
【邪神竜】との戦いが長すぎたせいで、みな、忘れてやがるんだ。
ハイ・エルフは、絶対に、敵に回しちゃならねえってことを」
「そうだね。 【邪神竜】なき今、いちばん恐ろしいのは……。
ハイ・エルフと、エルダー・ドワーフだからね」
弟が、真剣な顔で、つぶやいた。




