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第51話 峠(3)

 豪華な馬車の前には、令嬢たちがいた。



「どうして、こんなところに集まってるの?」


 アネットが、桃髪にたずねた。



「アレのせいで、足止め」


 空を指差して、ぽつりと答えた。


 さすが、桃髪。 端的な説明だね。



「なるほど。 ワイバーンがいたのですか…」


 ソフィアが納得している。



 たしかに、空には、鳥っぽいのが飛んでいた。



「小さいな。 高度のせいか?」


「いいえ。 そんなに高い所を飛んではいません。


 ドワーフの里の、ブラック・ワイバーンと比べるからです。


 あれは、小型の竜にも匹敵します」


「そうだったのか」


 たしかに、アレは、デカかったよな。



「ヴァイパーだって、昨日のは、小さかったでしょう?」


「たしかに、小柄だったな」


「シュウと出会った【邪神の森】の魔物は、特別です。


 大半が、災害級に匹敵しますから」


「なるほど」


 やっぱり、ヤバい森だったんだ。




「で、どうしてここにいる?」


 率直にたずねた。


「あんた、バカじゃないの!


 進んだら、襲われるからに決まってるじゃないの!」


 赤髪が、わめいた。


 桃髪に、尋ねたつもりだったのに。



 たしかに、少し先には、馬車の残骸があった。


 ワイバーンやられたんだろう。


 未だに、道の真ん中に放置されていた。



「九体ですか。たしかに多いですね。


 ブラックワイバーンほどではありませんが、いちおう、大型の部類です」


 ソフィアが、まぶしそうに空を見上げている。



「ああっ! こいつなら、ちょうどいいかも!」


 とつぜん、ぼくを指差して、赤髪が声をあげた。



「何が、ちょうどいいんだ?」


 もちろん。 桃髪に、たずねた。



「今、おとりの話をしてた。 


 あの高さじゃ、矢も魔法も届かないから」



「なるほど。 囮を使って、下まで、おびき寄せるのですね。


 作戦としては、理にかなってると思います。


 バリスタなら届く高さですが、まあ、当たらないでしょうし……」



 ソフィアが、うなずいている。


 いちおう、まともな作戦を立てていたのか。



 __それなら



「いいぞ。 囮くらい引き受けてやる」



 自分たちで何とかしようとしてるなら、協力してもいい。


 ソフィアに丸投げしないのは、いい傾向だ。



 たぶん、先に戻ったエミリー嬢たちから聞いたんだろうね。


 ぼくが、釘を指したことを。



「えっ。 いいの? すごく、危険なんけど」


 赤髪が、戸惑ったように言った。


「何を今更。 お前が、言い出したことだろう?」


「そ、それは、そうなんだけど……」


 なんとも、煮えきらない返事だった。



「シュウなら、何も心配ありません。


 ワイバーンの攻撃ていどでは、怪我ひとつしませんよ」



「【結界】があるから?」


 さすが、桃髪。


 前に、助けた時のことを、覚えてたんだ。



「ああ、そうだ。 だから、心配は要らないぞ」


「べ、べつに、あんたのことなんか、心配してないわよ!」


 赤髪が、プイっと顔をそむけて言った。



 ……くっ



 初めて見た、リアルツンデレだったのに。


 よりにもよって、赤髪とは……。





 ここで、じっとしていても、状況は変わらない。


 ぼくは、さっそく、囮になることにした。




 囮だからね。 やることはシンプル。


 馬車の残骸まで移動して、ワイバーンを待つだけだ。




 ……………



 ……………




 しばらく待っても、ワイバーンは来なかった。


 ただ、優雅に、空を舞っている。



 __囮が、ぼくでは、不足だとでも?



 ちょっと、むっときた。



「石をぶつけて、怒らせてもいいか?」


 令嬢たちに尋ねた。


 いちおう、作戦参謀だからね。



「いいと思いますよ」


 返事をしたのは、ソフィアだけだった。



 令嬢たちは、怪訝けげんな顔をしている。



 __まあ、いいか。



 石を拾おうとすると、また、赤髪がわめいた。


「馬鹿じゃないの! 石なんか投げて届くと思ってるの!」



 次に、落ち着いた口調で、侯爵令嬢が言った。


「たしかに、矢でも魔法でも届かない高さですから……」



 __なるほど



 届かないと思ってたんだ。


 届くと思うほうが、おかしいのか?


 じっさい、囮作戦にしたのは、攻撃手段がないからだし。



 ソフィアが、困ったように言った。


「シュウなら、問題なく届くのですが……。


 では、シュウ。 いつもより、力を込めて投げてください」



「わかった」



 せっかくなので、ピッチャーぽく、振りかぶってみた。


 なんだか。 懐かしい。


 遠投で、キャッチボールをするみたいだ。


 グローブも欲しいな。


 はやく、【自給自足】で、作れるようにならないかな。



 ばーーーーん!



 腕を振り切る前に、いつもの音がした。



「あ。 当たった……」


 桃髪が、空を指差した。



 あわてて、空を見上げる令嬢たち。



 青い空には、赤い血が、飛び散っていた。


 そして、首のないワイバーンが、飛んでいる……と思ったら。


 がくりと、糸が切れたように落ちて、……消えた。 




 峠の広場は、水を打ったように静まりかえった。




 令嬢たちは、もちろん。


 騎士や魔道士まで、ぽかんと空を見上げている。




 しばらくすると、みんなの視線が、ぼくに集まった。


 それも、無言のまま。



 いや。 わかってはいるんだ。


 としちゃったら、囮にならないって。



 __しかたがない



 ぼくは、やり直すことにした。


「ち、ちょっと、力を入れすぎたみたいだな。


 もう少し、力を抜いてみるか」


 言い訳してから、もう一度、投げた。



 ばーーーーん!



「また、ちた」


 桃髪が、再び、ぽつりと言った。




 くえええええーーーーーーーーっ!


 くえええええーーーーーーーーっ!


 くえええええーーーーーーーーっ!(以下省略)




 ワイバーンたちが、騒ぎ始めた。


 二匹墜とされて、ようやく、ぼくに気づいたようだ。


 ていうか。 やっと、怒った?



 たちまち、五匹が、急降下。


 大きく開けた口に、光が灯った。



「うまくいったようだな」


 結果オーライ的に。



「……で、コレからどうするんだ?」


 令嬢たちに尋ねた。


 いちおう、作戦参謀だからね。



「 「 「 「……え?」 」 」 」



 令嬢たちが、顔を見合わせた。


 それから、さりげなく、ぼくから視線を反らした。



 __なるほど



 おびき寄せた後のことは、話し合ってなかったんだ。




「ブレスが、来るんだけど」


 桃髪が、困ったように指摘した。



「氷礫」



 ぼくは、魔法を唱えた。 



 五匹で、特攻してきたから、石では間に合わない。


 手品師じゃないんだからね。


 同時に、五つ投げるとか、ありえないよ。


 それに、相手は、ブレスを撃つ寸前だ。



 脳内カウンターを、『05』にセット。



「なにやってんのよ! さっさと逃げなさいよ!


 そんな初級魔法。 ワイバーンに通用するわけないじゃない!」


 半泣きになって、叫ぶ赤髪。


 令嬢たちは、みな、真っ青になっていた。




 ばんっ!


 ばんっ!


 ばんっ!


 ばんっ!


 ばんっ!




 直径で、1メートルを超える氷礫が、ワイバーンに激突。


 ワイバーンごと、ぐんぐん空を昇っていった。



解除キャンセル



 たちまち、【氷礫】が消え、空にワイバーンが置き去りになった。


 そして、ゆっくりと落下を始めた時。


 ワイバーンは、消滅した。



「あ。 ……消えた」


 顔を真っ青にしながらも、桃髪が、端的に言った。




 ふたたび、静まり返る峠の広場。


 みんな空を見上げたまま、固まっている。




「シュウ。 何を、のんびりしているのです。


 残り二匹が、逃げてしまいますよ」



 __ああ、そうだった。



 ぜんぶで、九匹いたんだった。



「氷礫」



 頭上に、1メートル強の氷礫が、ふたつ出現。



「さすがに、あの距離は無理だろう?」


 師匠の落ち着いた(ノーマルな)声が、聞こえてきた。


 ふつうに喋れば、なかなかの美人なのにな。



 たしかに、ワイバーンが、米粒のようになっている。



「まあ、やってみるさ」



 思い切り、魔力を込めてみた。


 そのせいだろう。


 氷礫は、一瞬で、頭上から消えた。




「当たった」


 真面目に、報告をつづける桃髪。



「どうして、あの距離で【収納】できるの?」


【収納】してることにも、気づいていたのか。



「さあな、オレにはわからん。 女神にでもきいてくれ」


 二度目なので、正直に答えた。



「秘密じゃなかったんだ」


 さすが、桃髪。


 追及も厳しい。





「まことに、申し訳ありませんでした。


 危険を覚悟の上で、囮になってくださったのに……」



 侯爵令嬢が、令嬢たちを代表して、謝ってきた。


 ほかの令嬢たちも、涙目になって、ペコペコ頭を下げている。


 やはり、おびき寄せた後のことは、まだ、考えていなかったらしい。



「……まあ、気にするな。 


 ちゃんと確認しなかったオレにも、非はある。 お互い様だ」



 高位貴族の令嬢と言っても、ぼくと同じくらいの年頃。


 いわば、女子高生みたいなものだからね。 


 責める気にはならないよ。



 最初から、ぼくが、撃墜すればすんだことだった。


 もちろん、囮なんて、必要ないし。


 でも、それだと、丸投げする相手が変わるだけ。


 ソフィアから、ぼくに。


 だから、これは、これで良かったんだ。


 失敗するというのも、貴重な経験だし。





「み、見ろ! ワイバーンがいなくなってるぞ!」


「ワイバーンを倒したのか?」


「いったい、どうやって?」


「戦姫さまが、広場に向かったって話だぞ」


「倒したワイバーンは、どこに消えたんだ?」


「一体でも確保できれば、大儲おおもうけだぞ」



 商人だろうか。


 後方で待機していたひとたちの声が、聞こえてきた。


 頂上より、すこし下ったところで待機させられているらしい。



 ぼくたちとの間には、騎士や魔道士が詰めている。


 侯爵家と公爵家の護衛だ。


 商人たちを、令嬢に近づけないのも、彼らの仕事だ。



 そのお陰だろうか。


 商人たちには、ぼくが見えていないみたいだった。



「商人に知られると、後が面倒だよ。 お姉ちゃん」


 アニメ声にチェンジした師匠が、まゆをひそめた。



「たしかに、そのとおりですね……。


 商人たちに、知られたくありません。


 誰がどうやって倒したかは、口外しないでください。


 騎士や魔道士たちにも、口止めをお願いします」


 ソフィアが、令嬢たちに釘をさしてくれた。



 まあ、どこまで効き目があるのかは、わからないけど。



「それから……」


 師匠を睨んで、冷たい声で言った。


「……あなたも、いいかげん『お姉ちゃん』はやめてください」



 悪びれるようすもなく、師匠が謝った。


「てへっ。 ごめんね、お姉ちゃん!」



 __こいつ。 まったく、わかってないな。



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