第46話 おっきいのが来る
その夜。
【自給自足】をするために、【作業空間】に入った。
入った瞬間。 警報音が、鳴り響いた。
ヴィーン!
ヴィーン!
ヴィーン!
ヴィーン!(以下省略)
【作業空間】が、真っ赤に染まっている。
ぼくは、無数の『EMERGENCY』の文字に、囲まれていた。
__な、なんだ。 何が起きた!
「警告。日本酒の残量が、3リットルになりました!」
「警告。ウィスキーの残量が、7リットルになりました!」
「警告。ラガービールの残量が、4リットルになりました!」(以下省略)
__くっ、そういうことか!
999リットルが、ひと桁になると、警告を発するんだな。
女神たちに、【卵ハウスの倉庫】へのアクセス許可を出した時。
天使が、『アラーム機能を追加しておきました』とか言っていた。
なにが、アラームだよ。
とんでもなく仰々しい警報じゃないか。
それにしても、お酒類の減りが速い。
ある程度、予想していたから、種類も追加したのに。
ちなみに、追加した種類は、コレ。
『ラガービール』、『バーボン』、『ウォッカ』、『ブランデー』、『梅酒』。
まあ、高校生でも、ふつうに思いつくライナップだね。
ほかにも、かなり減っているものがあった。
『塩』、『胡椒』、『砂糖』、『小麦粉』などだ。
エルフとドワーフが、大量に取り出したらしい。
理由はわからないけど、とにかく、大量に追加しておいた。
最初は、999キロも、999リットルも使い切れないと思ってた。
でも、意外とあっさり消費されてしまった。
もちろん、『ドライイースト』なんかは、相変わらずだけど。
【作業空間】から出ると、夕食になった。
夕食は、ソフィアとアネットが用意してくれた。
といっても、できた料理を並べるだけだ。
料理は、ドワーフのおばさんたちが作ってくれる。
そして、それを【卵ハウスの倉庫】に、【収納】しておいてくれるんだ。
最近は、エルフたちも、コレに加わった。
だから、自分たちで作る必要は、ほとんどない。
夕食は、ゴーレム馬車の二階で食べている。
実は、侯爵領には、有名な湖があった。
『光の湖』って、呼ばれているらしい。
じっさい、光が、湖底から空に向かって放射されている。
エメラルド・グリーンの光だ。
なかなか幻想的な風景なので、湖畔に馬車を停めたんだ。
【結界】で守られてるから、安心だし。
今夜は、【卵ハウス】に戻らないで、ここで寝る予定。
ぼくは、【自給自足】のために、いったん【帰還】してきたけど。
夕食も終えて、夜も更けてきた頃。
「なんだか、ようやく旅らしくなったね」
「たしかに、そうかもしれませんね」
ソフィアたちの声が、聞こえてきた。
すでに、照明も落として横になっている。
ソフィアたちは、一階。
ぼくは、二階だ。
湖全体が輝いているから、すこしも暗くはない。
「そういえば、ちびちゃんたち、どこへ言ったんだろうね」
「ええ。 まだ、戻ってませんね」
夕食後、出かけたきり、まだ帰ってきていない。
昼間ずっと寝ていたからね。
眠くないのかもしれない。
すでに、二階の幌も閉じている。
でも、ちびたちが、夜中に帰ってきても、なかに入れないことはない。
ちびたちの専用の出入り口が、あるからだ。
御者台の上。 張り出した屋根の軒下だ。
馬車を土足厳禁に改造した時に、作ってくれたらしい。
ゴーレム馬車に御者はいらない。
でも、街なかを走る時は、御者がいないと困る。
暴走馬車と勘違いされるからだ。
そのための、カモフラージュ用御者台があるんだ。
ぼくは、面倒なので、馬車で街に入るつもりはないけど。
「きゅっきゅ!」
「がるう……」
ちびたちが戻ってきた。
二匹とも、慌ててるみたいだ。
どうしたのかな?
__なになに。
なにか、おっきいのが来るって?
ちびたちは、そのまま、窓際に貼り付いた。
そして、恐る恐る外を見ている。
その時だった。
「超巨大な質量の生物が、湖底より浮上中!
魔導砲、発射準備に入ります。
魔力充填、11割、12割、13割……」
いきなり、ゴーレム馬の背中がパカリと開いた。
そして、細身の大砲が姿を現した。
すでに、発射口には、光が灯っている。
「きゅっきゅっ!」
__なになに。
絶対に、撃っちゃダメだって?
ヴァイスも、ぶんぶん、うなずいている。
ぼくは、すぐに、中断を命じた。
別に、魔導砲でなくても、対処はできるはず。
発射口の光が、次第に消えていく。
すると。
湖の水面が、ぐんぐん盛り上がってきた。
まるで、湖の中心に、水の山ができたようだ。
何かが、湖底から上がってきたんだ。
さっぶーーーーーーーーーーーーーーーーん!
表面張力の限界なのか。
巨大な水の山は破れ、周囲を波打った。
湖面の上には、大きなふたつの光が残っていた。
それは、エメラルドグリーンの光を宿した、巨大な瞳だった。
長い長いまつ毛を、パシパシしながら、こちらをじっと見つめている。
「うーん。 やっぱり、懐かしい気配がするわね。
それで、久しぶりに、上がってみたんだけど……。
この気配って、【古代竜】ちゃんと、【フェンリル】ちゃんよね。
せっかく、会いに来てあげたのに、どうして隠れてるのかしら?」
湖の底にいたんだから、水竜だろう。
湖面から、巨大な頭部だけを出して、こっちを睨んでいた。




