第44話 お姉ちゃん
みんなで、街に向かっている。
赤髪と桃髪も、いっしょだ。
というより、また、魔物に襲われるかもしれない。
それで、護衛がてら、同行しているんだ。
急に、赤髪が駆け出した。
「ししょうーーーーーーーっ!」
駆け出した先には、美しい女性がいた。
ブロンドの長い髪を肩のあたりで結んでいる。
20代前半くらいで、すらっと背が高い。
ローブ姿だから、魔道士だろうか。
「どこ行ってたんですか?
ゴブリンに囲まれて大変だったんですよ」
「いや、ちょっと、不審なヤツを見かけてね。
後を追っていたんだ。 まあ、見失ってしまったけれどね」
「不審なやつって、もしかしてあいつですか?」
赤髪が、ぼくを指差した。
「お前。 石でもぶつけてやろうか?」
「ひぃ!」
また、青くなった。
「ふふ…っ、ちがうちがう。 あんなに若い子じゃないよ。
それよりも、彼らを、私に紹介してくれないかい?」
「は、はい。 ま、まず、こいつですが…。
シュウとかいう性格の悪いやつです」
「人違いだと言っているだろう」
「ほらね。 こういうやつなんですよ」
なぜか、胸を張って言った。
「アネット。 何とか言ってやれ」
「嘘ついた上に、私にふらないでほしいな」
アネットが、困っていた。
「それで、この子は、アネット。 学院のクラスメートです」
「こちらのハイ・エルフは…」
「戦姫のお姉ちゃん!」
師匠が、きゅうに、ソフィアに抱きついた。
背は、もちろん、師匠のほうが高い。
なので、わざわざ膝をついて、抱きついたようだ。
見上げるポジションのため?
「わたしです、王国の。 覚えてますか?」
アニメ声で、目をうるうるさせている。
あまりの変貌ぶりに、弟子の赤髪すら、引いていた。
「ええ、覚えていますよ。 でも、その呼び方はやめてください」
冷たい声で、ソフィアが言った。
「その呼び方って……。 あっ、そうですよね。
お姉ちゃんって、もう、戦姫じゃなくなったんですよね。
じゃあ、ソフィアお姉ちゃんって、呼んでもいいですか?」
首をこてんと傾げて言った。
あまりのあざとさに、赤髪すら眉間にシワをよせている。
「いえ。 そうではありません。
その『お姉ちゃん』というのをやめてほしいのです」
いっそう冷たい声で、ソフィアが言った。
「わ、わかりました。 ごめんなさーい。
でも、わたしが三つの頃から、ちっとも変わってないんですね。
だから、すぐわかっちゃいました。 とっても懐かしいです!」
「そうですか。 では、そろそろ立ちがってください」
「あ、ごめんなさい。 つい、うれしくなっちゃって」
立ち上がると、人格は元に戻った。
「みんなも、申し訳なかったね。 つい、懐かしくてね。
お姉ちゃんを独り占めしてしまったようだ」
こいつ、わざと言ってんじゃないのか?




