第43話 お友達
ソフィアとアネットは、街に買い物に行った。
ここまでは、旅と言うより、馬車の性能テストのようだったからね。
買い物でもすれば、少しは、旅っぽくなると思う。
もう、戦姫じゃないから、わざわざ貴族とかかわる必要もない。
街で、買い物をするだけなら、不愉快な目にも遭わないと思う。
ぼくは、ほかに行くところもないので、近くの森へ。
めずらしく、チビたちもついてきた。
「 「きゃーーーっ!」 」
イベント発生だろうか。 悲鳴が聞こえた。
しかたがないので、行ってみた。
女の子ふたりが、ゴブリンに囲まれている。
杖もローブも立派なもの。
二人とも、けっこう強そうに見える。
でも、ゴブリンは、20匹くらい。
さすがに、多勢に無勢か?
「助けは、必要か?」
念のため、たずねた。
「この状況で、必要ないように見えるの?」
勝ち気そうな赤髪ツインテールが、噛み付くように言った。
「それだけ元気なら大丈夫だな。 まあ、頑張れ」
ぼくは、踵を返した。
「ま、待って! 助けてください。 お願いします」
どうして、最初から、そう言わないかなあ。
ちょうど、ちびたちもいる。
ぼくは、テイマーだ。 登録上は。
たまには、テイマーっぽいことでもしてみるか。
とはいえ、いちおう救助活動。
女の子を、【結界】の中に入れた。
「あ、涼しい」
もうひとりの子が、ぽつりと言った。
桃色の長い髪で、おっとりした女の子だ。
「ホントに、涼しくなったわね。 なんなのコレ?」
「たぶん、【結界】。 だから、私たち、もう安全」
なるほど、おっとり桃髪のほうが、しっかりしてる。
ヒューマンは、見かけによらないね。
【快適の加護】は、常時発動。
それで、涼しく感じたんだろう。
「【ビアンカ】【ヴァイス】、行け!」
テイマーぽく言ってみた。
「きゅーーい!」
「がるるーーっ!」
なぜか、いきなり噛み付かれた。
どうやら、名前が逆だったらしい。
「あいつ、大丈夫なの?」
「うん、たぶん大丈夫。 あれは、甘えてるだけ」
「でも、ずいぶん過激だよ」
「だってほら。 彼、まったく痛がってない」
「ただ、鈍感なだけじゃないの?」
「ふふふ、そんなことないよ。
大好きなご主人さまが、名前を間違えたから、怒ったんだよ」
「ふーん。 それなら、甘えてるようなものか」
名前を呼び直したら、やっと、戦い始めた。
ちなみに、物理攻撃は、あまり利かない。
まだ、赤ちゃんで、体が小さいからだ。
だから、ブレスを使う。
ゴブリンくらいなら、楽勝だろう。 たぶん。
ただ、数が多い。
けっこう、わずらわしいかもしれない。
ぼくも、何匹か、間引くことにした。
石を拾うと、赤髪ツインテが、呆れたように言った。
「あんた。 石なんかで、倒せると思ってるの?」
ぼくは、黙って、石をひょいっと投げた。
石は、ゴブリンの眉間を貫通。
そのまま、ゴブリンはひっくり返った。
つづけて、五匹ほど倒す。
いったん、様子をみよう。
でも、赤髪の相手もしないとな。
「今、何か言ったか?」
「いいえ。 何も言ってません」
赤髪が、青くなっていた。
ちびたちも【的中】を使う。
だから、ブレスは、頭を貫通する。
赤ちゃんなので、ブレスも細いんだ。
やはり、ゴブリンなら楽勝のようだ。
頭に穴の開いたゴブリンが、そこらじゅうに転がっていた。
「きゅーーーっ!」
「わおーーーん!」
二匹は、勝どきをあげていた。
それを見て、赤髪がつぶやいた。
「白い竜って? ねえ、あんた。
もしかして、シュウって名前じゃない?」
ぼくは、眉をひそめた。
この子たちは、どう見ても貴族。
雰囲気が、少し、アネットに似てるんだ。
ポンコツって意味じゃないぞ。
「………………………………人違いだ」
「嘘つくんじゃないわよ!
あんた、白い竜を飼ってるじゃないの。
そんな少年、世界中探しても、あんたしかいないわよ!」
なるほど、そうかもしれない。
「ふん。 なら、お前は、世界中を探したんだな」
「くっ。 屁理屈言ってんじゃないわよ。
ああ、思い出したわ。 シュウって、すんごく、口が悪いんだって。
まさに、あんたと同じじゃないの!」
「ふん、よかろう。
仮にオレが、そのシュウだったとしよう。
何か問題でもあるのか?」
「あるわけないじゃない!
ただ、お友だちが、手紙に書いてきたのを、思い出しただけよ」
「お友だち?」
「アネットっていう子よ。 知ってるはずよ!」
「いや。 そんなポンコツ受付嬢など、オレは知らん」
「やっぱり、知ってるじゃない! ほんとに口が悪いわね」
まあ、このくらい相手をしてやったんだ。 もう十分だろう。
「ところで、あのゴブリンは必要なのか?」
桃髪のほうにたずねた。
赤髪にたずねると、長くなりそうだ。
「要らないよ」
「貰ってもいいか?」
「いいよ」
ああ、このシンプルさ。 桃髪は、いい子だな。
ぼくは、ちびたちの【収集】を【ON】にした。
ゴブリンが、すべて、消え失せる。
「びっくり。 いま、何をしたの?」
「いちおう、秘密だ」
説明するのが、面倒くさいだけだけど。
「わかった」
「ちょっと、あんた。
わたしのときと、ぜんぜん、態度がちがうじゃないの。
どういうことよ!」
「そうか? 気のせいだろう」
そんなふうに話していた時だった。
「シュウ!」
ソフィアの声が聞こえてきた。
振り向くと、ソフィアがいた。
「ほんとにいたよ。 ソフィアちゃん、すごい」
アネットも、追いかけるようにやって来た。
「買い物はできたのか?」
「うん、ちゃんと買えたよ」
「そうか」
「もしかして、こいつらは友達か?」
桃色と赤髪を指差してたずねた。
「そう……だけど。 どうしていっしょにいるの?」
「ゴブリンの群れから、助けてもらった」
桃髪が、答えた。
「そうだったんだ。 ふたりとも無事でよかったね」
「こいつが、来なかったら、危なかったわ」
赤髪まで、そんなことを言った。
本気でそう思ってるんだろうか?
「そっかあ。 シュウくん、ありがとうね」
ふだんは、侯爵令嬢と三人で、パーティを組んでいるそうだ。
今日は、二人しかいなかったために、窮地に陥ったらしい。
件の侯爵令嬢は、エミリー嬢と話し込んでいたけど。
まさか、いまだに、『ばーん、ばーん』やってないよね?




