第29話 リュック
翌朝。
魔力を吸われる感覚で目が覚めた。
いつもの目覚ましだ。
雛竜と朝食。
雛竜も、ひとり分をちゃんと食べている。
魔力とは、別腹かな?
そろそろ出かけようかと思うと。
「きゅきゅっ!」
__え。リュックを背負えって?
でも、【卵ハウス】は、ここに設置したからな。
いまは、リュックはいらないんだよ。
【卵ハウス】を持ち歩くためのリュックだからさ。
それに、このリュックは、けっこうデカい。
デイバッグなんてサイズじゃない。
なんていうか。
本格的なアタックザックみたいな大きさ?
チョモランマにでも、挑むような感じ?
物理的には、いつも空っぽなのにね。
重くはないけど、なかなか面倒なんだ。
__なになに?
いいから、リュックを背負って、外に出ろって?
言われるままに、外に出た。
子蜘蛛たちが、片足をあげて『おはよう』してくれた。
ぼくも、同じように『おはよう』した。
妖精たちも『おはよう』って集まってきた。
地下だからね。
ずっと夜のような。
でも、それなりに明るいから、昼にような。
なのに、朝昼夜の違いがわかるんだろうか?
ぼくには、まったく、わからないけれど。
__あれ?
雛竜がいないぞ。
きょろきょろ探すと、池の小島にいた。
いつの間に、あんなところに移動したんだ?
そして、見つけた瞬間に、消えた。
【卵ハウス】に【帰還】したんだろうか?
なんで、ぼくを外に連れ出したんだろう。
首をかしげていると、雛竜が出てきた。
それも、リュックの中から。
コレって、なんの手品?
「きゅっ、きゅきゅっ!」
__なになに。
リュックには、どこからでも【転移】できるんだって?
そんな機能があったの?
それで、こんなにデカかったの?
いや、もちろん、ぼくは入れないけど。
まあ、雛竜専用の【転移ステーション】かな。
「きゅっきゅ、きゅっ!」
__なになに。
これで、いつでも、ぼくのところに行けるって。
そりゃそうだろうね。
だから、今日は、ひとりで街へ行けって?
ああ……、ここで遊んでいたいんだ。
わかった。
せっかくできたお友達だ。
いくらでも遊んだらいい。
街へ行こうとしたら、大蜘蛛が、前足で来い来いしている。
そばにいくと、『糸玉』をくれた。
毛糸玉みたいな感じだ。
直径で、ぼくの身長くらいはあるけど。
__もしかして蜘蛛の糸?
昔呼んだ童話だと、地獄から這い上がる時に使うヤツだ。
__え。なに?
そんな縁起の悪いものじゃないって。
そりゃそうか。 ありがとう。
昨日のお礼だから、気にするなって?
じつは、昨日、挨拶代わりに、『日本酒』をプレゼントしたんだ。
あのタライに入れて。
大蜘蛛は、たいそう、ご機嫌だった。
でも、子蜘蛛は、口をつけなかった。
それで、いったん【卵ハウス】に戻った。
ためしに『野菜ジュース』を作ってみた。
よろこんで飲んでいた。
子蜘蛛たちは、ヘルシー志向のようだ。
ほかにも、森で狩った狼の魔物もプレゼント。
頭の潰れたやつとか、何匹も。
最初は、ブラックワイバーンを、あげようとしたんだけど。
大きすぎるって断られたんだ。
タブを【妖精《《など》》からの貰い物タブ】に変更。
『糸玉』を【収納】した。
最近、貰い物が増えてきたな。
タブには、もちろん【ドワーフから貰ったものタブ】もある。
ありがたいことだ。
かわいい女神たちに、感謝だな。
さて、街へ行こう。
城壁の外、城門から離れた場所に【転移】した。




