第25話 薬草(1)
翌朝。
なにかに噛まれている気がして目が覚めた。
案の定、雛竜が、指にかじりついていた。
【壁を透過】して、外の景色を眺める。
眼の前には、森。
背後には、城壁があった。
【卵ハウス】は、けっこうデカい。
さすがに、街なかに置くのは気が引けた。
それで、城壁の外。
城門からやや離れた場所に置いた。
ここなら、通行の邪魔にならないから。
でも…。
【卵ハウス】の近くに、騎士や魔道士が大勢いる。
このあたりで、何か事件でもあったのだろうか。
思えば、昨日も、城門付近に、騎士や魔道士がいた。
__ヒューマンの街って物騒だな。
ドワーフの里は、平和そのものだったのに。
二階に降りる。
食卓テーブルがあり、ソファがある。
ドワーフたちが、そろえてくれたものだ。
家具があると、自分の家って感じがする。
なんとなく、落ち着く。
パンに、サラダに、スープで朝食。
すべて、ドワーフのおばさん製だ。
雛竜が飛んできて、ぼくの向かいに座った。
もちろん、テーブルの上だ。
「きゅっきゅっ!」
__えっ、お前もコレがいいの?
雛竜のために、もうひとり分、用意した。
いちおう、ちゃんと食べているようだ。
こういうのも、雑食性というのだろうか。
食後は、コーヒー。
雛竜は、オレンジジュースだ。 常温の。
よく飲めるなと感心する。
ぼくは、冷やさないと飲めないから。
__ん?
今、雛竜が、勝ち誇った顔をしたような。
__まさか!
雛竜の深皿を、近くで見た。
うっすら霜がついている。
魔法で冷やしていたらしい。
エルフ娘レベルの魔法を使えたのか!
生まれて間もないのに。
__くっ。
ゼロ歳児に負けるとは。
何という敗北感。
なぜか、コーヒーの苦味が増したような気がした。
さて、今日も、お出かけだ。
【卵ハウス】から、やや離れた場所に【転移】。
それから、冒険者ギルドへ向かった。
今日は、薬草を買い取ってもらいに来たんだ。
もちろん、自分では草一本、採取できなかった。
でも、妖精たちが、たくさんくれたからな。
せっかく、もらったんだ。
ちゃんと使わせてもらわないと。
とはいえ、窓口に、丸投げするわけにもいかない。
まず、掲示板の依頼で確かめるか。
【卵ハウスの倉庫】に入れたら、名前がわかる。
【アカシックレコード】とやらのお陰だ。
その名前と、照らし合わせればいい。
__えーと、まず、これがいいか。
昨日見た、『ケハエール』だ。
依頼書の名前と一致しているから、大丈夫だろう。
ぼくは、見覚えのある美少女のところに、行ってみた。
もちろん、受付嬢だ。
名前は一致してるんだけどさ。
依頼票の『絵』を見たら、不安になった。
ちょっと『芸術的』な絵なんだよ。
こっちの世界のデフォルトなんだろうか。
まあ、受付嬢なら、きっとわかるだろう。
「これは、薬草なんでしょうか?」
逆に、たずねられた。
意外に、ポンコツなのかもしれない。
「依頼書と合致してると思うが…」
急に自信がなくなったきた。
受付嬢が困っていると、奥から美人が出てきた。
ぼんきゅぼんタイプの、お姉さんだ。
「どうした?」
「これなんですけど…」
「ん?」
お姉さんは、草をじっと見ている。
「おい、お前」
「オレのことか?」
「ほかに誰がいる」
いちおう、きょろきょろしてみた。
朝少し遅い時間だ。
すでに、ピークは終わったのだろう。
それでも、冒険者たちがたむろしていた。
「いや、けっこう居るんだが」
「うふふ……。そうですよね」
受付嬢に、ウケたみたいだ。
笑顔がなかなか、かわいい。
長いダークブラウンの髪を、内側にカールさせてる。
瞳は、すこし明るめのブラウンだ。
「うう…。痛いです」
でも、たちまち、お姉さんに、ゲンコツを食らったようだ。
「おふざけは、いらん。 ちょっと、こっちへ来い!」
「え?」
「さっさと来い!」
「いや、まだ、心の準備が……。よく見ると、あんた美人だし」
「妙なことを言うな! それに、アタシは、よく見なくても美人だ」
受付嬢が、吹き出した。
それでも、かわいいから、美少女って得だな。
でも、いいのかな?
「痛いです」
懲りない女の子らしい。
ぼくは、お姉さんに引きずられるように、小部屋に入った。
もちろん、草もいっしょだ。




