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第22話 ドワーフの里(4)

 結局、ドワーフの里には、三日まるまる滞在した。



 族長のじいさんとばあさん。


 ほかにも、数人のドワーフが、【卵ハウス】を見に来た。


 そして、部屋に合わせて、家具をあつらえてくれた。



 二階は、食卓テーブルもソファもあるリビングになった。



 おばさんたちは、調理器具や食器を揃えてくれた。


 ガランとしたキッチンが、生活感のある台所に変わった。




 ぼくも、いろいろ作った。



 まず、ふわふわパンのために『ドライイースト』と『小麦粉』。


 これが、すごい人気だった。


 里では、ふんわり白いパンが、当たり前になった。



 ついでに、『ベーキングパウダー』も作った。


 クッキーなんかが、サクサクになった。


 今、おばさんたちは、ケーキのスポンジに奮闘中だ。



 それから、やっぱり『カレー』を普及した。


『カレールー』と『米』を作って渡した。



『米』は、最初、失敗した。


 でも、いろいろ作ってるうちに、レベルが上がった。


 そしたら、なんとかできた。


 これは、ほんとうに嬉しかった。


 やっぱり日本人は米だなと、つくづく思った。



 ぼくも、ごはん用に土鍋を作ってもらった。


 土鍋を使えば、ご飯なんて簡単に炊ける。


 全自動炊飯ジャーより、わずかに手間がかかるだけだ。



『カレールー』は、もちろん『粉』のほう。


 あの有名な赤い缶のヤツだ。


 固形の『カレールー』なんて、まだ、作れないからな。



『ココア』と同じで、いろいろ入ってる。


 だから、簡単に、カレーができあがる。



 なにしろ、ドワーフたちは、辛いものに目がないらしい。



「胡椒のために、武具を買い叩かれておったのじゃ。


 おヌシには、ほんとうに感謝しとるよ」


 そんな話をしていたくらい。



 だから、カレーも大人気だった。


 そこで、『カレー粉』も作ることにした。


 おばさんたちなら、『カレー粉』も、料理に活用できそうだ。



 辛いもの好きと聞いたから、辛味の調味料も作った。


『一味唐辛子』、『七味唐辛子』、『黒七味』。


 そして、『粉わさび』『粉からし』も作った。


 思えば、和風の辛味調味料って、粉っぽいのばっかりだった。




 あと、子どもたちには、甘いもの。


『チョコチップ』と『チョコスプレー』を渡した。



『板チョコ』のたぐいは、レベル的に、ぜんぜん無理。


 だから、チョコは諦めかけたんだけど、ふと思い出したんだ。


 お菓子の材料だ。


 母さんが使っていた。



『チョコチップ』は、BB弾を半分に割ったような形。


 いろいろ作ってレベルが上がったせいだろう。


 ちゃんとできた。



『チョコスプレー』は、縁日の『チョコバナナ』に掛かってるやつ。


『ドーナツ』にも掛かってるかな。


 あの短くて細くて、カラフルなやつだ。


 こっちは、すぐにできた。




 そして、最後に『酒』。


 なんと言っても、いちばん喜ばれた。


 今回は、『ウイスキー』と『日本酒』にした。


 定番だよな。



 反応が、凄まじかった。


 ドワーフたちが、みんな泣き出したんだ。



 また、勢ぞろいして、今度は、忠誠を誓うとか言い出した。


 まったく、お酒くらいで、勘弁してほしいよ。


 今度も、『女神に感謝してくれ』で押し通した。


 女神、べんり。







 いよいよ里を出る日の朝。



「ほんとうに世話になった。感謝する」


 勢ぞろいしたドワーフたちに、ぺこりと頭を下げた。 



「しばらくしたら、ぜひ、また顔を出してくだされ。


 今回は、間に合わなかったが、ワシらから、ぜひ贈り物をしたいのでな」


「そうだよ。また、来ておくれ。必ずだよ」


 族長のじいさんとばあさんが、代表して声をかけてくれた。



 それから、おばさんたちが、次々とやってきた。


 アツアツの鍋や、パンの入ったカゴを抱えて。



「【収納】があるんだろう。これも、持っていっておくれよ」


「この、まっしろでふかふかのパン!


 うちの亭主も子供も、みんな、感謝してるんだよ」


「うちは、しばらく、カレー三昧だよ。


 カレールーも米も、ありがとうね」


「旨い酒を浴びるほど飲んだよ。ほんとに、ありがとう」



 おばさんたちから、何度も礼を言われた。




 ドワーフの里では、いろんなものを作って渡した。


 それも、かなり大量に。


 でも、族長夫妻は、エルダー・ドワーフ。


 ふつうのドワーフとは、違うらしい。


 だから、【空間収納】も、ちゃんと使える。


【時間停止】も可能だ。


 大量の食料を渡しても、何も困らないって言ってた。



 でも、それ以上に、たくさんもらった。


 家具も、調理器具も、食器も、そして料理もパンも。


 これで、ほんとうに、暮らしやすくなった。



 ほんの少し前までは、『カップ麺』ばかりすすっていた。


 そして、フライパンを夢見ていたのに。


 ほんの数日で、ぼくの生活は、がらりと変わった。




 ドワーフには、感謝してもしきれない。


 また、いろいろ作れるようになったら、ここを訪ねよう。


 お土産をたくさん持って。



 ドワーフのみんなに見送られて、ぼくたちは里を出た。


 豆粒みたいに小さくなっても、ドワーフたちは手を振り続けてくれた。






「シュウは、これからどうするのですか?」


 ドワーフの里から、街道に出た時、ソフィアが言った。


「ソフィアは、いったんエルフの里に戻るんだよな?」


「はい。一度、里に戻らなけばなりません。


『戦姫』のお役目を、正式に解いてもらうので…」



 __なるほど。


 なかなか面倒なんだ。



「そうか。今回は、ほんとうに世話になった。あらためて、礼を言う」


 いちおう、頭を下げた。


「いえ。わたしも、おいしいものをたくさんいただきました。


 それに、シュウは、わたしの恩……ですから」


 きゅうに、口ごもったので、よく聞こえなかった。


 ぼくが、ソフィアの何だというんだろう。


 恩人って言おうとしたみたいだけど?


 まあ、想い人でないことだけは、たしかだろう。




「今度は、いつ会える?」


 ソフィアは、初めて遭遇した現地人。


 この世界では、最も親しい友人だ。


 このまま、お別れするつもりはない。


 いちおう、ドワーフのばあさんにも頼まれたし……。



「シュウは、また、わたしに会いたいのですか?」


「当然だ」


 唯一の美少女枠だし。



「そうですか…」


 ちょっと、嬉しそうに微笑った。


「わたしも、お役目を解かれたら、《《あの》》街へ行きます。


 シュウが、《《あの》》街へ来てくれたら、そこでまた会えます」


「もちろん、オレは行くつもりだ。じゃあ、そこでまた会おう」



 実は、冒険者の登録のことで、相談したんだ。


 異世界で暮らすからには、収入源も必要だ。


 そしたら、隣国の辺境の街を教えてくれた。


 ここから、もっとも近いらしい。




 こうして、ソフィアは、エルフの里方面へ。


 オレは、隣国の辺境の街へと向かった。



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