第21話 ドワーフの里(3)
夕食が終わったので、ドワーフたちも居住区に帰る時間になった。
ぼくも、【卵ハウス】を置く場所を尋ねた。
族長に、ぜひ泊まってくれとも言われたが、断った。
ぼくは、喋り方こそ傍若無人だが、実は、けっこう気を使う。
他人の家では、気疲れしてしまうんだ。
『城』のすぐ外。
大きな広場に案内された。
居住区に戻るはずのドワーフたちも、ぞろぞろとついてきた。
みんな、暇なんだな。
たしかに、この広場なら、余裕で【卵ハウス】を置ける。
【卵ハウス】を出したら、ドワーフたちが腰を抜かすほど驚いていた。
「これが、家じゃと?」
族長のじいさんが、唸った。
「ああ。女神に頼んだら、コレを作ってくれたんだ。
ちっちゃい女神なんか、『下界で流行ってる』なんて言ってたぞ」
「流行ってる? この【神器】が?」
じいさんは、眉をひそめた。
いつぞやのソフィアのようだ。
「『アーティファクト』ではないのですか?」
ソフィアが、じいさんに尋ねた。
はじめて、【卵ハウス】を見た時。
ソフィアは、『これ、アーティファクトですよね』って言ってたからな。
「広い意味では、『アーティファクト』さね。
ただ、これは、紛れもなく【神器】。
女神さまご自身がお作りになり、直に授けてくださる恩恵さ。
その証拠に、とんでもない数の【加護】が、掛けられてるさね」
ばあさんが、真剣な顔で答えた。
「じ、じゃがのう。 『家』とは思えぬ【加護】が多すぎる。
この【神器】は、『家』というよりは、まるで、へ、兵……」
「ちょっと、あんたっ! 何を言い出すつもりだい?
女神さまが、じきじきに『家』とおしゃったんだよ!
『家』に決まってるじゃないか!」
「そ、そうじゃ……な」
ばあさんに脅されて、じいさんが、黙り込んだ。
__でも、『家』がどうとか言ってたよな。
「ん? この『家』。 じっさい便利だし、住心地もいいんだぞ。
まさか、『家』じゃないってことは、ないだろう?」
いちおう尋ねたら、ドワーフたちが、いっせいに目を反らした。
__なんで?
「も、もちろん、い、『家』に決まっとるよ。 な、なあ…。みなの衆?」
「お、おう…。族長の言うとおりだぜ…。
もう、こりゃあ、い、『家』としか言いようがないぜ」
「そ、そうだ。まごうことなき、い、『家』だな…」
なんか歯切れの悪い言い方だな。
それに、ずっと、目を反らしたままだし。
__でも、まあいいか。
ぼくにとって、最高の『家』であることは、まちがいないんだし。
そんなふうに納得していると。
ドワーフたちが、いっせいに片膝をついた。
そして、族長のじいさんが、厳かに言った。
「シュウ殿。これだけは、覚えておいてくだされ。
我らドワーフ族は、貴殿より受けた恩を、決して忘れることはない、と」
「そうさね。 我ら一族の続く限り、永劫に渡って忘れやしないよ」
__いったいどうしたの?
大量に渡したとはいえ、たかが、調味料だよね?
義理堅いにもほどがあるよ。
__しかたがないなあ。
ぼくも、居住まいをただした。
その場で、背筋をしゃんと伸ばして、正座したんだ。
ひとりだけ、偉そうに立っているわけにもいかないからな。
「その気持ちは、とてもありがたい。
だが、すべては、女神たちから授かった力だ。
忘れぬというなら、むしろ、女神たちへの感謝を忘れないでくれ」
ぜんぶ、女神のせいにしておいた。
ドワーフたちの感謝は、いくらなんでも重すぎる。
こういうのは、さっさと、女神たちに、肩代わりしてもらおう。
ドワーフたちは、いっしゅん、きょとんとした。
それから、いっせいに泣き叫んだ。
「な、なんという謙虚さ! さすがは、女神様より選ばれたお方!」
「アタシも、目が覚める思いだよ! まったく、そのとおりさね!
まず、女神さまに感謝を捧げるべきさね!」
「くうーっ。 オレも感動したぜ!」
「ああ…。まさに、これこそが信仰!」
「アタシも、すっかり忘れていたよ! 女神様への思いを!」
「信仰とは、まさに、かくあるべきものか!」
なんだか、いっそう悪化したような気がしてきた。
泣くほどの話じゃないと思うんだけど。
ドワーフ族って、涙腺がゆるいんだろうか?
__でも、まあ…。
みんな、女神に感謝するって言ってるからな。
結果オーライってことにしておこう。




