第20話 ドワーフの里(2)
ドワーフの里には、家は、一軒もない。
巨大な城壁の内部は、すべて畑。
その畑の間に、広い道路が通っている。
そのメインストリートの突き当りには、岩山がそびえていた。
ドワーフは、その岩山をくり抜いて、『城』にしていた。
それは、まさに『宮殿』だ。
細かい装飾の施された門。
荘厳な柱が立ち並ぶ回廊。
とても、岩山の内部とは思えなかった。
ドワーフの『城』は、民の住居も兼ねている。
『ドワーフは、みな家族』
それが、ドワーフの理念らしい。
だから、『城』は、同時に、巨大『マンション』でもあった。
高さも厚みもある立派な城壁。
岩山の内部に作られた住居。
ドワーフの里は、まさに、天然の要塞だ。
交渉のあと、ぼくたちは、『大食堂』に案内された。
里のドワーフが、一同に介して食事する場所。
途方もなく広い食堂だった。
そこで、夕食をごちそうになった。
晩餐会みたいな堅苦しいものじゃない。
ただの『晩ごはん』だ。
正直言って、最初はビビった。
異世界の食事なんて、怖くて食べられないと思ってたから。
でも、意外と大丈夫だった。
ちょっと、お袋の味って感じがした。
もちろん、米も味噌汁もなかったけれど。
食事中、さっきのばあさんが、話しかけてきた。
族長のじいさんの奥さんらしい。
女衆のまとめ役って感じかな。
「あたしゃねえ。うれしいのさ。
戦姫ちゃんが、あんな幸せそうな顔をしてるのが」
__幸せそう?
ぼくには、無表情にしか見えないけど?
「あの子は、戦うためだけに、生きてきたのさ。
来たるべき日に、備えてね。
その日は、同時に、あの子の最期となる日だった。
ハイ・エルフの『戦姫』とは、そういうもんさね。
相手は、闇に堕ちたとはいえ、【神竜】とその眷属。
歴代『戦姫』は、命を捨てて【邪神竜】に立ち向かうしかなかった。
でも、知っての通り。 もう、その必要はなくなっただろう」
__必要がなくなった?
どういうこと?
でも、年寄りの話に、水を差すのは愚の骨頂。
うちのじいちゃんで、さんざん学習したからな。
ここは、黙ってうなずくしかないな。
それに、ソフィアが死ななくも良くなった話だ。
黙って聞き流しても、何の問題もない。
「これからは、今までの分も合わせて、幸せになって欲しいのさ。
だから、あんたには、みんなが期待しているんだよ。
戦姫ちゃんが、心を許してる男なんて、あんただけだからね」
__ぼくに、心を許してる?
たしかに、『カップ麺』をすすってた時は、油断しきってたけど。
アレを、『心を許す』と言うのも、どうかと思う。
そもそも、食べ物限定じゃないのかな?
それにしても、『戦姫』が、そこまで過酷な存在だったとは。
戦って死ぬ未来しかない人生って、何の意味があるんだろう?
生きてる意味が見つからない人生って、どれほど空しいのだろう。
その空しさを堪えながら生きる毎日って、どんなに苦しいんだろう。
ぼくなら、とても耐えられそうにないな。
でも、ソフィアは、それに耐え抜いてきたのか。
ほんとうに、強い女の子だったんだな。
『あなたなら、わたしを守ってくれますか?』
初めて【卵ハウス】に案内した時。
ソフィアは、消えそうな声で、そう言っていた。
あの短い問いが、心を許すということなら。
ぼくは、いくらでも、守ってあげよう。
妙にパワーアップした、ぼくのちからって。
ほかに使いみちも、見つからないからな。
それに、ソフィアは、女神なみの美少女だけど。
ドワーフの里に案内してくれた。
そのことだけでも、女神なみの大恩人だ。




