第2話 巨大な卵
ぼくは、巨大な卵を見上げて、たずねた。
「コレが、家なのか?」
「も、もちろん。そうじゃが…」
「なんで、卵なんだ?」
「こっちほうが、破壊力……、す、住みごこちがいいからじゃ。
そ、それに、下界では、けっこう流行っておるんじゃぞ。コレが」
いま、破壊力って聞こえたような。
聞き違いだよな。
家に、破壊力なんていらないから。
「そうか。それならいい」
「【加護】もたくさん掛けてある。
だから、安心して突っ込…、い、いや。く、暮らすといいぜ」
「そうか。ありがとう。感謝する」
ぼくは、すなおに感謝した。
__あれ?
なんで、みんなして目を反らすの?
女神って、けっこうシャイなのかな。
たしかに、すごい家だった。
形は別として。
何しろ、窓も出入り口もない。
だから、【空間転移】で出入りするんだ。
窓や出入り口があると、強度が落ちるそうだ。
その上、【不壊】っていう加護も掛けてくれた。
だから、たとえ、惑星が割れても、なかにいれば大丈夫らしい。
ちょっと、大袈裟だよな。
惑星が割れるなんて。
でも、頑丈な家にしてくれたのはありがたい。
形は、別として。
なんでも、これから、下界つまり異世界は、荒れるらしい。
200年ぶりに、【邪神竜】が復活したんだ。
だから、【勇者召喚】が行われたらしい。
【邪神竜】は、すでに、九体もの【暗黒竜】を従えてるそうだ。
その【暗黒竜】には、1000体を超える配下がいるらしい。
それが、みんな【超災害級】の魔物だって話だ。
さらに、今回の【邪神竜】は、地上をダンジョン化。
数え切れないほどの魔物が、今も、生み出されているそうだ。
その話を聞いて、ぼくは、なぜか、恐竜時代のことを思い出した。
それで、女神たちに、教えてあげたんだよ。
あの怖い女神から、ぼくを護ってくれたし。
蘇生もしてくれたからね。
女神たちは、ずいぶん真剣に聞いていたよ。
とくに、恐竜が絶滅する原因。
隕石の話をしたときは、みんなで、しきりにうなずいていた。
そして、根掘り葉掘り、たずねられた。
ぼくも、うれしくなって、いろいろ説明したよ。
もちろん、ぼくだって、そんなにくわしいわけじゃないけどさ。
いよいよ、下界つまり異世界に行くことになった。
女神たちぜんいんで、見送りに来てくれたんだ。
「おぬしには、専用のスキルも授けたのじゃ」
「要するに、自給自足可能なスキルだぜ」
「ですから、どんな状況でも、衣食に困ることはないですぅ」
「ただ、多少、レベル上げが必要じゃ。
なので、レベルが上がるまでの食糧も入れておいた。
おぬしの世界の食べ物じゃぞ。安心するがいい」
ぼくは、しっかりお辞儀して、お礼を言った。
「何から何まですまん。この恩は忘れない」
だから、どうして、そこで、目を反らすのかなあ。
ほんとうに、恥ずかしがり屋なんだな。
美少女で、恥ずかしがりなんて、マジでかわいい。
あの女神も、来ていた。
ぼくを踏んづけた女神。
ぼくを殺した女神だ。
じつを言うと。いちばん、ぼくのタイプだったんだ。
あの長い銀色の髪。
ちょっと、儚げな青い瞳。
いまも、つい、見とれてしまうくらいだ。
「お前には、すまないことをした」
ぼくは、素直に謝罪した。
きっと、もう、会うことはないだろうから。
「そ、そんなこと…」
ぼくを殺した女神が、戸惑っていた。
それも、また、かわいい。
「もう会うことはないだろうが、オレは忘れない。
お前が、オレに見せてくれた、あの真っ白な…」
__あれ?
女神の前に、魔法陣が現れたんだけど。
なんの魔法陣かな?
「…は、はやく。【帰還 】と唱えろ!
【卵ハウス】のなかに入ってさえしまえば、なんとかなる!」
「アルテミス。落ち着くのじゃ!
さすがに、その魔法は、シャレにならんぞ!」
「だめですよぉ。それ撃っちゃあ。
蘇生すらできなくなりますよぉ!」
また、悪い癖がでたみたいだ。
でも、しかたがないよな。
いちばん好きな子には、つい、いじわるしたくなるんだから。
「最後まで、すまんな。感謝する。
では、これで…、【帰還】」
次の瞬間。
ぼくは、玄関にいた。
懐かしい玄関に。
そして、そこで意識が途切れた。