第18話 ワイバーン
翌日の夕刻。
木々の隙間から、城壁が見えた。
「あれが、ドワーフの里です」
「アレが、里?」
森のなかに、城塞都市があった。
高い壁が視界を塞いでいる。
「そうですけど?」
ソフィアが、不思議そうに答えた。
「里なのに、あんな城壁があるのか?」
「当然です。壁がなければ、魔物の餌になってしまいますから」
ソフィアが、しれっと答えた。
__なんなの? その世紀末設定。
たしかに、森のエンカウント率は、異常だった。
ゲームで、エンカウント増加のアイテムを使った感じ?
あれが、この世界のデフォルトなのか。
『パワーアップ』してて、ホントによかった。
でなきゃ、生き残れなかったかもしれない。
___ありがとう、かわいい女神たち。
心で、感謝の祈りを捧げていると、ソフィアが駆け出した。
「急ぎます! ブラック・ワイバーンの群れです!」
夕焼けに染まる空を、黒い鳥の集団が、旋回していた。
なるほど、アレがワイバーンか。
でも、ここからでは、木が邪魔で攻撃できない。
少し走ると、開けた場所に出た。
城壁も、すぐ眼の前だ。
立派な城壁だった。
地球なら、世界遺産?
城壁の上には、バリスタっぽい武器。
けっこう、かっこいい。
__でも、ぜんぜん当たらないな。
あんなに、がんがん撃ってるのに。
まあ、対空兵器なんて、あんなもんか。
「里には、入り込んでいないようです。
今なら撃ち落としても、被害は最小限ですみます」
言いながら、杖を振りかざしている。
大きな魔法陣が、ぎらりと光った。
そして、そこから、数本の氷柱が飛び出した。
『アイス・ランス』ってやつだ。
たちまち、一体が、きりもみしながら墜落した。
城壁の上から、歓声があがった。
「一体だけですか。まったく、面倒な…」
悔しそうに、上空のワイバーンを睨んでいる。
仲間を撃ち落とされて腹が立ったのだろうか。
三体ほど、こちらに急降下してきた。
「バカですね」
ニヤリと笑うと、また、杖を振りかざした。
大きな魔法陣が、光る。
その直後、氷槍の餌食となって、三体とも墜落した。
しかし、三体だけではなかった。
いつの間にか、一体が、背後に回っていた。
いましがた、日が落ちたせいだろう。
黒いワイバーンなので、よく見えなかった。
ワイバーンは、すでに急降下していた。
眼の前で、大きな翼が広がる。
巨大な爪が、あっと言う間に迫って来た。
それも、ソフィアに向かって。
さっきの三体は、陽動?
仲間が撃ち落とされるのに紛れて、回りこんだのか。
ワイバーンって、頭いいのか?
殴るにしても、掴むにしても、相手が大きすぎる。
まるで、小型の戦闘機だ。
とっさに、ソフィアの前に出た。
巨大な爪は、目と鼻の先だ。
もう、石を投げる余裕もない。
「氷礫」
直径2メートルの氷礫?が出現。
ぼくとワイバーンの間に割り込んだ。
「射出!」
加減なんて気にしてられない。
思い切り、魔力を込めた。
ぐちゃ!
バキバキバキバキーーーッ!
すさまじい音ともに、氷礫がすっとんでいった。
__あれ?
ワイバーンは、依然として、眼の前で翼を広げている。
__当たったよな?
見れば、お腹に、大きな穴が空いていた。
ワイバーンの体が、グラリと揺れる。
地面に落ちる寸前。
巨大な鳥は姿を消した。
ぴこん!
いつもの音が聞こえた。
【倒した魔物タブ】に、『ブラックワイバーン』があった。
あと、木材が、数十本?
__どういうこと?
顔を上げると、さっき通ってきた森に、一本の道ができていた。
ワイバーンを貫通した【氷礫】が、なぎ倒してしまったらしい。
『解除』する余裕なんてなかったからなあ。
ま、まあ…。環境破壊を反省するのは、後にしよう。
ワイバーンは、まだ、残ってるからな。
__数は? 六体か。
脳内カウンターの数字をはじく。
数字は、『06』。
同時に、六個の【氷礫】が顕現した。
ワイバーンめがけて、六個同時に『射出』。
【氷礫】を見たワイバーンは、いっせいに逃げ出した。
それも、とんでもないスピードで。
やっぱり頭がいいんだな。
ちゃんと、引き際がわかるんだから。
バラバラに逃げるあたりにも、知性を感じる。
でも、【的中】は、【加護】。
かわいい女神たちの『祈り』だ。
いや、むしろ『呪い』かな?
【氷礫】は、大きな孤を描いて、逃げるワイバーンを追った。
まるで、熱誘導のミサイルのようだ。
逃走ワイバーンは、あえなく撃墜。
上空で姿を消した。
ぴこん!
闇の中に、【倒した魔物タブ】が輝く。
そこには、六体の『ブラックワイバーン』が追加されていた。




