第17話 ソフィア
翌朝、ぞわりとして目が覚めた。
見れば、雛竜が、指にかじりついている。
いや、吸い付いているのかな?
魔力を吸われて、目が覚めたんだ。
妙な、目覚ましができた。
「どうやら、あなたの魔力にしか興味はないようです」
美少女が、近くで見ていた。
そこにいるくらいなら、起こしてくれればいいのに。
ちょっと思ったけど、口には出さなかった。
遅い朝食を、彼女といっしょに食べた。
朝から、『カップ麺』が食べたいという。
なので、『カップうどん』をチョイスしてあげた。
「これは、これでおいしいです。
この一味唐辛子でしたか? よく合いますね」
エルフ美少女が、『カップうどん』に、うっとりしていた。
そのあと、『ホットケーキ』も食べていたけど。
ちなみに、雛竜も、ホットケーキを平気で食っていた。
昨日、生まれたばかりのはずなのに。
どういう胃袋してるんだろう。
ホットココアも飲んでいた。
ふふっ…。かなり、熱かったみたい。
ちょっと、困ってるよ。
__あれ?
なんで、いきなり、ぼくの指に噛み付くんだ?
甘噛みだよな?
【卵ハウス】をリュックに【収納】。
街道を目指して出発だ。
雛竜も、【卵ハウス】から出てきた。
外に出てみたいんだな。
そして、ぼくのローブのフードに潜りこんだ。
まだ、ほんとうに小さい赤ちゃんだ。
フードでさえ広々としてみえる。
もちろん、今日もソフィアと一緒だ。
そう。 名前呼びすることになった。
「ソフィアと呼んでください」
そう言われた。
「いいのか」
「ええ。お前と呼ばれるよりましです」
「それもそうか。なら、オレのことはシュウでいい」
納得だった。
「でも、いまのところ、シュウだけです。家族以外では。
ですから、他の方は違った呼び方をしています。
それは、気にしないでください」
「……わかった」
何やら面倒そう。
でも、悪い話じゃないと思おう。
「実は、わたしは、ドワーフの里へいく予定なんです。
シュウも、いっしょに行きませんか?」
「閉鎖的なんだろう? ドワーフの里は」
「そうです。でも、シュウならきっと大丈夫です。
シュウは、めずらしいものをたくさん持っています。
きっと、ドワーフも、シュウと物々交換したがると思います。
それに、わたしもいます」
「そうか。なら、ダメ元で行ってみるか」
そんなわけで、ドワーフの里へ向かうことになった。
「ウインド・カッター!」
ソフィアの声が、凛と響いた。
きょうは、ソフィアも戦闘に参加している。
ソフィアが、そうしたいと言ったからだ。
直径1メートルくらいの風の刃が、周囲を刈り取っていく。
丈の高い草も、細い枝も、がんがん刈り取られる。
視界が、きゅうに開けてきた。
森のなかで、草刈りをしているわけじゃない。
さっきから、ちょっかいかけてくる奴がいるんだ。
狼ぽい魔物だ。
何匹いるのか。よくわからない。
かわるがわる、深い草むらの中から飛び出してくる。
そして、また、隠れてしまう。
最初、ソフィアは、ひらりひらりかわしていた。
そして、魔法で石の礫をぶつけていた。
卓球の球くらいの礫だ。
喰らえば、ただじゃすまない。
でも、必ず、死角から襲いかかってくるんだ。
だから、なかなか致命傷を与えられなかった。
そのうち、いらいらしてきたんだと思う。
風の刃で、一気に、周囲を刈り取りはじめたんだ。
「ギャウン!」
「ギャン!」
次々と、草むらが刈られていく。
隠れていた狼の魔物にも、ヒットしたみたい。
飛び散る草や枝に混じって、血しぶきもあがった。
ソフィアの戦闘は、鮮やかだ。
無駄がない。切り替えが速い。割り切りがいい。
ほんとうに、戦い慣れている。
いったい、どれだけの戦闘を経験してきたんだろう。
__エルフだからかな。
見た感じは、まさに、女子高生。
ぼくと同じ年くらいに見える。
でも、見た目通りではないだろう。
もしかしたら、三桁の年齢かもしれないな。
__エルフだからな。
そんなことを考えていたら、睨まれた。
口には、出さなかったはずだけど。
どうしてだ?
ガルッ!
狼っぽいのが、飛び出してきた。
斜め後ろからだ。
ぼくは、振り向きざま、裏拳を放った。
手首のスナップの利いた裏拳が、カウンター気味に決まった。
___うへえ。
魔物の頭がぺしゃんこに潰れた。
軽くこづいたつもりなのに。
どうなってるんだろう。ぼくの力って。
「ずいぶん戦い慣れているのですね」
ソフィアが、感心したように言った。
「小さい頃から、じいさんにシゴかれたんだ。
だから、こっちのほうがしっくりくる」
こうして話している間にも、また、襲いかかってくる。
こんどは、体を回転させて、横に躱した。
狼は、まだ、宙に浮いたままだ。
脚をつかんで、そのまま放り投げた。
拳を打ち込むと、潰れてしまう。
正直言って、気持ち悪いから、殴るのはやめた。
狼とはいえ魔物。
身体は、ぼくよりも大きい。
でも、なぜか。軽々、投げることができた。
魔物は、近くの太い木に激突。
木が、へし折れた。
そのまま、折れた木に突き刺さって、もがいている。
やっぱり、一撃で仕留めるべきかな。
六匹目を、倒した頃だろうか。
どこからか、遠吠えが聞こえてきた。
すると、魔物たちは、あっという間に、逃げてしまった。
前と同じだ。ボスの撤退命令だろう。
「きゅっきゅっ」
戦闘が終わると、雛竜がフードから顔を出した。
今まで、フードの奥に潜り込んでいたんだ。
雛竜は、ぼくの【眷属】。
だから、ぼくと同じ【加護】を持っている。
今のところ、【結界】だけ【ON】。
【球体モード】にしている。
なんとなく、安心だからね。
ただ、このモードには欠点がある。
なにかにぶつかると弾かれてしまう。
雛竜の体重だと、どこまでも飛ばされてしまうだろう。
__なにか、うまい方法はないかな?
でも、すぐには思いつかない。
だから、今のところ保留だ。
それに、戦闘中は、フードに潜っている。
つまり、ぼくの【結界】のなかだ。
だから、二重の【結界】に守られていることになる。
今のところは、心配ないだろう。




