第16話 古代竜
「一昨日、拾ったんだ」
事実を、ありのままに述べた。
別に、言い訳じゃない。
「でも、あなたの【眷属】になっていますよ?」
なるほど。 『鑑定』もできるのか。
相変わらず追及が厳しいな。
「つい、触ったら、魔力を吸い取られた」
「なるほど。それで、あなたを『主人』と認めたのですね」
美少女が、唸った。
「あなたが、生きているのが不思議でなりません」
「どういうことだ?」
「【古代竜】の卵が孵る時、『龍脈』が枯れるそうです。
希少な上にも希少なので、伝承にすぎませんが」
「つまり、オレも枯れるところだった?」
「そうですね。『魔力』を根こそぎ奪われると、干からびて死にます。
わたしは、見たことはありませんが、父が、そう言っていました」
「オレは、こうしてぴんぴんしてる。
こいつが、手加減してくれたのだろう」
そういって、小動物を抱き上げた。
なかなかかわいい。
卵から孵ってすぐに、ぼくに飛びついてきたからな。
自ずと、愛情も湧いてしまう。
「卵が、そんな配慮をするとは思えません。
それに、今も、思い切り噛み付いていますけど」
「……甘噛みだろう? 生まれたばかりなんだから」
__そうだよな?
「ほら、もう、指を吸ってるぞ」
【古代竜】の雛は、ぼくの指をちゅーちゅーしてる。
「噛み付いても無駄とわかったのでしょう。それにしても…」
急に、美少女の顔が青ざめた。
「…そんなに魔力を吸われて、大丈夫なのですか?」
「いや。ぜんぜん問題ないぞ」
卵の時は、力が抜けたけど。
今は、そんなこともない。
「すでに、とんでもない量を奪われていますよ。
どうして、あなたは、生きていられるのですか?」
__そこまで言う? 大袈裟だな。
まもなく、雛竜は、ぼくの指からくちばしを離した。
「やっぱり、ミルクのほうがいいのか?」
いちおう、赤ちゃんだし。
「悪いが、ちょっとだけ、こいつを見ていてくれ」
そういって、雛を差し出した。
「見ているだけでいいなら、かまいませんが…」
ぼくは、急いで、二階に降りた。
【作業空間】に飛び込んで、『牛乳』を作った。
そして、すぐに【作業空間】を出た。
牛乳を皿に移すのは、キッチンでやることにした。
美少女の眼の前で失敗したら、洒落にならない。
風呂上がりの美少女に、牛乳をぶっかけるなんて。
焼かれても、文句は言えない。
三階に戻ると、雛竜は、美少女にだっこされていた。
なぜか。嬉しそうに、顔をこすりつけている。
彼女のほうも、まんざらでもないようだ。
ぼくには、見せたことのないような笑顔だ。
なんか、ちょっと、むっときた。
__こいつは、誰にでも懐くのか?
彼女だって、『見ているだけ』と言っていたのに。
ちゃかり、抱っこしてるじゃないか。
__まあ、いい。
ぼくは、『主人』としての務めを果たすだけだ。
雛竜に、『牛乳』を与えてみた。
けっこう嬉しそうに、ぺろぺろしている。
「【古代竜】は、『精霊』に近い存在と言われています。
ですから、魔力だけで、ちゃんと育ちますよ。
もちろん、嗜好品として与えれば、喜ぶでしょうけれど……」
__なるほど。
無理に、餌を与える必要はないんだ。
餌の確保に苦労しなくてすむのは、ありがたい。
自分の食料にも苦労してるんだからさ。
なぜか、雛は、美少女に抱きついて眠ってしまった。
__誰でもいいんじゃなくて、美少女がいいのか?
しかたがないので、ひとりで二階に降りて寝た。
主は、ぼくなんだけどな。




