第15話 卵ハウス
「これが、家なのですか?」
目を丸くして、【卵ハウス】を見上げている。
「…ん? 流行ってると聞いたぞ。ちがうのか?」
のじゃロリ女神は、そう言っていた。
ことばの最後に『のじゃ』をつける女神。
ちっちゃくて、かわいい女神だ。
「これがですか? これ、アーティファクトですよね。
ものすごく希少なものです。
すくなくとも、わたしは初めてみました。
流行るわけないでしょう?」
冷たい目で見られた。
__そうだったのか。
のじゃロリめ。騙したな。
まあ、かわいいから、別にいいけど。
「手をつなぐが、いいか?」
「ええ、いいですよ……。【転移】に必要なのでしょう」
あっさり、手をつないできた。
やわらかい手だった。
あんなに、戦闘をこなしてるのに。
「それに、抱きつかれるよりは、ずっとマシですから」
ええー。
ちょっと引いた。
「そんな、けしからんヤツがいたのか?」
恐る恐るたずねてみた。
「ええ、いましたよ。何人も。
抱きつかれる前に、焼いてあげましたけど」
なるほど。
さっきは、ぼくも、焼かれるところだったんだ。
『いっしょに寝よう』が、まずかったらしい。
しかたがないので、言い直したんだ。
『いっしょに、オレの家に行って、別々に寝よう』と。
「美少女エルフってのも、たいへんだな。
まあ、あぶないやつは、近づけないに限る」
ちょっと、同情してしまった。
少女は、ちょっと驚いたような顔をした。
そして、消えそうな声で言った。
「あなたなら、わたしを守ってくれますか?」
__えっ?
「冗談です。さあ、早く行きましょう」
少女は、手を引いて、【転移】を促した。
「おいしいです」
美少女が、うっとりしている。
カップ麺のうまさは、異世界人にも通じるようだ。
この戦闘エルフを、瞬時に、虜にしたのだから。
「テーブルもないんだ。食べづらいだろう」
「いえ、野営でなれますから、何でもありません」
デザートは、また、『ホットケーキ』。
「ココア以外の飲み物もあるんだが、常温ではちょっとな」
彼女は、別のカップを出した。
「これに、入れてみてください」
__えっ?
ぼくは、戸惑った。
なにしろ、液体のまま、【倉庫】に入っている。
入れ物なんて、作れるはずがないから、しかたがない。
__どうやって、カップに注ぐんだ?
でも、できないとも言いにくい。
あんなに、平然と要求するんだ。
このくらい、できて当たり前なんだろう。
__しかたがない。
こうなったら、やってみるか。
ぼくは、【倉庫】から、直接、注いだ。
【魔法陣】を出して、そこからカップへ落とすんだ。
美少女の体にぶちまけそうで、けっこう、ヒヤヒヤした。
昨日、作った『スパークリング・ワイン』だ。
ぼくが、唯一飲めるお酒。
「驚きました。ずいぶん、器用なことをするのですね」
美少女エルフが、目を丸くしていた。
これって、器用なことだったのか?
さも、当たり前に言うんだもの。
誰でもできるのかと思ってしまった。
マジで、体にぶちまけなくてよかった。
「ワインなのに、シュワシュワなのですね」
「ああ。『スパークリングワイン』っていうんだ。
でも、今までは、飲めなかった。
オレでは、冷やせないからな」
でも、さすがエルフ。
魔法で、直接、冷やした。
もちろん、氷を入れたわけじゃない。
だから、薄まることもなかった。
「ああ。でも、あまり飲むな。
せっかくだ。風呂にも入るといい。
飲み物は、量だけなら、たくさんある。
だから、風呂上がりに、また飲めばいい」
「わかりました。でも、わたしを酔わせなくていいのですか?」
ええー。何言ってんのー。
また、すこし引いた。
「お前のまわりって、ロクなやつがいなんだな」
「そうかもしれませんね。では、お風呂をいただきます」
そういって、階段を降りていった。
家にあがった時に、トイレもお風呂も説明してあるんだ。
杖も持っていったけど、覗いたら焼かれるんだろうか?
しばらくしたら、風呂から上がってきた。
裸に、バスタオル……じゃないよ。
ちゃんと、ワンピースっぽい寝間着を着ていた。
リビングに座りこんむと。
タオルで、長い金髪を拭きはじめた。
魔法で乾かすと、髪が傷むらしい。
野営じゃないからちゃんと拭ける、と喜んでいた。
風呂上がり美少女は、三割増しでかわいい。
もう、限界までかわいいと思っていたのに。
さらに、かわいくなるとは……。
ある意味、限界突破?
不覚にも、しばらく見とれてしまった。
そろそろ休む時間になった。
彼女を、三階に案内した。
「オレは、二階で寝る。お前は、ここで寝てくれ。
床が、ふかふかだから、寝づらくはないと……」
そこまで言った時、何かが顔に直撃した。
「きゅうーーーーーっ!」
羽のある小動物だった。
__あっ。
卵を、三階に、置きっぱなしだった。
いつの間に、卵から孵ったんだろう?
小動物は、なぜか。ぼくの頭をつついている。
もしかして、怒ってる?
放置してるうちに、生まれたから?
そんなことより。
こっちも、忘れていた。
ぼくは、おそるおそる彼女をみた。
寝間着姿の美少女エルフが、呆然とつぶやいた。
「………古代竜」




