第14話 ホットケーキ
「……おいしいです」
美少女戦闘エルフが、うっとりしている。
フライパンを自慢してたからな。
ちょっと、借りたんだ。
ほかに鍋も。
ボウル代わりだよ。粉を溶くための。
この子。何者なんだろう?
魔道具のコンロまで、持ち歩いていた。
もちろん、【収納魔法】で。
「ホットケーキ…でしたか?
ほんのり甘くて、ふわふわしてて、美味しいです」
「シロップをかけると、もっとうまいぞ。今は、手持ちがないが」
でも、このエルフ。
バターを持ち歩いていたから、なんとかなった。
「こっちも、甘くておいしいですね」
「それも、ミルクで溶くともっとうまいんだが」
もちろん、『ココア』だ。
そうだ。あとで、『牛乳』も作ろう。
『ココア』や『コーヒー』に混ぜるならあってもいい。
フライパンの話をしていたら、開けた場所に出たんだ。
ちょうどいいので、『ホットケーキ』を作ってみせた。
そうすれば、フライパンの重要性もわかるだろう。
それに、ぼくも、カップ麺以外が食べたかった。
彼女は、とてもテキパキと動いた。
あっという間に、竈をつくって。
魔道具のコンロを設置して。
ぼくに、フライパンを貸してよこした。
必要なものは、【収納魔法】で、ぽんぽん出してきた。
鍋も、皿も、バターも、フォークも。
水は、魔法で、あっさり作った。
そして、『ホットケーキ』を堪能しているわけだ。
『ココア』をすすりながら、彼女が言った。
「ここから先には、開けた場所がありません。
ですから、今日は、ここで野営するのが無難です」
「そうか。わかった」
「では、準備をしますね」
彼女は、あっという間に、薪を集めてきた。
そして、魔法で火をつけて、焚き火をした。
それから、みるみるうちに、テントを組み上げた。
素人目にも、上等と分かるテントだった。」
もちろん、ワンタッチのテントなんかじゃない。
「ここで、休んでください。『ホットケーキ』のお礼です。
今夜は、わたしが、朝まで見張りをします」
自分のテントを指して、とうぜんのように言った。
そして、さっさと焚き火の前に、座り込んでしまった。
__どういうこと?
ぼくは、少女の後ろすがたを見て、唖然とした。
『そうさせてもらうよ。ありがとう』
……なんて言うとでも思ったんだろうか?
でも、ぼくは、そこまで図太くないんだ。
残念なことに。
たしかに、彼女は、強い。
巨人のようなオーガも一撃で倒した。
野営の手際のよさは、目を見張るばかりだった。
きっと、夜間の見張りも慣れてるんだろう。
でも、女の子は女の子。
ひとりで、見張りなんてさせられない。
だいいち、ぼくには、安全無比の【卵ハウス】がある。
【卵ハウス】で休むのが、いちばんいいに決まってる。
もちろん、彼女もいっしょに。
自分のテントまで譲って、ひとりで見張りをすると言った。
その心意気に、答えないわけにはいかない。
ぼくは、彼女の前へ行き、そして、膝をついた。
「どうかしましたか?」
彼女は、きょとんとした顔で、ぼくを見下ろしている。
ぼくは、率直に言った。
「今夜は、オレの家でいっしょに寝よう」
「はあ?」
なぜか、めちゃくちゃ睨まれた。
そして、いきなり、ぼくに杖を突きつけた。
「焼いてほしいのですか?」
__あれ?
少し、率直すぎたかな?




