第13話 ヘビ
少し歩くと、また、魔物が出てきた。
なんなんだ、この森は。
エンカウント率が、高すぎないか?
やっぱり、【邪神竜】とやらの影響なんだろうか?
強い魔物が、うじゃうじゃ生まれてるって、女神が言ってたし。
こんどは、ヘビだった。
なんか、堂々としている。
隠れる気もないらしい。
上体を起こした時点で、三階建てだからな。
隠れる場所もないんだろうけど。
もちろん、ぼくは、エルフ美少女の前に出た。
どんなに強くても、女の子。
女の子は、守りたい。
でも、蹴飛ばしたくなる女の子もいたな。
ていうか、実際に、蹴飛ばしたっけ?
__さて、今度は、どうしよう。
恐怖感が皆無なので、考える余裕がある。
やっぱり『異世界補正』だろうか。
アニメなら、尻尾をつかんで、ジャイアントスウィング?
うーん。尻尾が太すぎるからな。 掴めるかな?
ブンッ!
悩んでいたら、その太い尻尾が迫ってきた。
けっこう、速い!
じいちゃんに鍛えられたせいだろう。
勝手に、体が動いた。 脊髄反射かな?
がしっ!
カウンター気味に、左肘でガード。
__なるほど。
カウンターで弾けば、【結界】を張っていても、飛ばされないんだ。
オーガの時は、【球体モード】で、これができなかった。
それで、思い切り、吹っ飛ばされてしまった。
やっぱり、【ぴったりフィットモード】にしておいて正解だった。
逆に、巨大ヘビが、反動でよろめいた。
なんで?
どうなってるんだろう? ぼくのパワーって。
__でも、いまが、チャンスだ。
思い切り走って接近。
そのままジャンプで、飛び膝蹴り………の予定だった。
どかーーーーーん!
スピードが出すぎて、そのまま体当たりしてしまった。
【加速の加護】は、【OFF】なんだけど。
バキバキバキバキッ!
ヘビといっしょに、木を何本もなぎ倒した。
止まったところで、すぐにヘビから距離をとった。
巻き付かれたら、面倒だからな。
眼の前には、頭が半分潰れたヘビが……………消えた?
三度目のポップアップ。
【倒した魔物タブ】に、『ヴァイパー』が増えていた。
毒蛇だったかな、ヴァイパーって?
その下にも『チーク(木材)』が、数本並んでいる。
今度のは、『トレント』のような魔物ではなかったらしい。
「大丈夫ですか!」
美少女が、真っ青になって駆け寄ってきた。
ヘビと一緒にすっ飛んだから、びっくりしたらしい。
「ああ。見てのとおり無傷だ。
まだ、ちからの加減がわからなくてな。
まともにぶつかってしまった。
お前こそ大丈夫か。どこか、打たれたところはないか?」
「はい。あなたが守ってくれたので、大丈夫ですよ」
ちょっと、嬉しそうに言った。……かわいい。
「そ、そうか。ならいい」
「何か欲しいものでもあるのですか?」
最初に、街へ行きたいと言ったからだろう。
道すがら、美少女エルフに、たずねられた。
ぼくは、率直に答えた。
「まず、フライパンだな」
とにかく、『ホットケーキミックス』を使ってみないと。
「…はあ?」
美少女が、眉をひそめた。
クリっとした大きな碧眼が、ずいぶん細くなった。
「フライパンですか? 食料ではなく?」
なるほど。とうぜんの疑問だ。
でも、『食料』は、食べたらなくってしまう。
それに対して、フライパンなら、食べ物を作りつづけられる。
【自給自足】で、材料を用意できるからだ。
いまのところは、ホットケーキだけだけど。
「それも欲しいが、フライパンが最優先だ」
「お金は、持っているのですか?」
これも、まっとうな疑問だった。
「ない」
もちろん、財布には、一万円札だって入ってる。
でも、使えない。
日本円だから、換金もムリだろう。
「物々交換できないか?」
「たとえば、どのようなものと?」
さすが、美少女。
ずけずけと、遠慮なく突っ込んでくる。
「『塩』『砂糖』『胡椒』『小麦粉』とか…」
『粉』なら何でも作れるからな。 『粉』なら。
あとは、『水っぽいの』か?
「たしかに、それなら物々交換も可能ですが…」
少女が、意外そうな顔をした。
「…ある程度の量は、お持ちなのですか?」
ちらりと、背中のリュックを見て言った。
でも、リュックは、物理的には、空っぽだ。
【卵ハウス】は、【収納空間】に入ってるから。
ぼくは、【倉庫の管理画面】を開いた。
『塩』を大量に取り出せば、納得するだろう。
「なるほど。【収納魔法】が使えるのですね」
あっさり見抜かれた。
画面自体は、見えていないはず。
でも、動作でわかったらしい。
「魔法じゃないと思うが、いちおう使える」
「それならどうして、フライパンを収納しなかったのですか?」
ぼくは、答えに詰まった。
もちろん、答えることはできる。
『身ひとつで異世界転移したから』
『【収納】が使えるようになったのは、異世界に来てからだから』
そんな感じで、説明すればいい。
でも、信じてくれるだろうか?
『信じられない』と言われたのは、ついさっきだ。
となると、延々と説得するハメになる。
そのあげくに、また、『信じられません』とか言われたら。
さすがにぼくも、キレるだろう。
「ちなみに、わたしは、ちゃんと収納してますよ」
真剣に悩んでいたら、フライパンを取り出した。
そして、ニヤニヤしている。
ガキなの? この美少女戦闘エルフ。
いや、かわいいけどさ。
それも、信じられないくらいかわいい。
アイドルとか、そんなレベルじゃない。
日本にいた頃のぼくなら、見とれていただろう。
でも、今のぼくは違う。
天界で、女神たちと会ったからだ。
家には、天使も来た。
女神と天使の美しさは、言葉にならない。
だから、美少女には、すっかり免疫ができた。
エルフ美少女を前にしても、平常心でいられる程度には。
これって、いいことだよな?




