第12話 クマ
「こんな距離からでも、【収納】できるのですか?」
美少女が、びっくりしている。
「できたが、オレにも詳しいことはわからん」
そんな話をしていたら、また魔物が、のそりと現れた。
今度は、森のクマ。
でも、まったくかわいくない。
血走った目で、ヨダレを垂らして吠えた。
グオオオーーーーーーーッ!
仁王立ちすると、三階建てのお家くらいになった。
__デカい。
殴るとか蹴る相手じゃないな。
石をぶつける?
目を狙えば、脳まで届くか。
__ここは、やっぱり【魔法】かな?
『【氷礫】を、パチンコ玉に』
女神は、そういった。
つまり、ぼくの【氷礫】は、けっこう大きいはず。
とにかく、一回、使ってみよう。
距離が空いているうちが、チャンスだ。
「【氷礫】」
唱えると、脳内にカウンター。
脳を殴られたんじゃないよ。
数字を数えるカウンターだ。
二桁の枠があった。
__うーん。
まず、『1』にするか。
すると、眼の前に『氷礫』が出現した。
__クマが見えない?
『礫』って、小石のことだ。
『バレット』は、弾丸だけど。
どうして、ぼくの身長より大きいんだ。
とにかく、敵が見えないのは、さすがに怖い。
四足は、足が速いはずだ。
すでに、眼の前まで迫ってるかもしれない。
「し、射出!」
慌てて撃った。
直径2メートルほどの『氷礫』が、いっしゅん消える。
どおおーーーーーーーん!
あっという間に、クマの顔面に直撃した。
そして、クマごと飛んでいった。
バキバキバキバキッ!
大木を何本もへし折って、ようやく止まった。
ヘソ天のクマが、折れた大木の上に、血まみれで寝ている。
そして、まもなく消えた。
【倒した魔物タブ】が、ポップアップ。
『グリズリーベア』が、追加されていた。
女神の言葉を、思い出した。
『……【氷礫】を……ここまで小さくするのです。
これができたら、ほかの魔法を使ってもかまいませんわ。
あなたとみんなの幸せのためですのよ。
必ず、守ってくださいませ』
女神の言うとおりだ。
『礫』で、約2メートル。
『球』だと、どのくらいになるのだろう。
たとえば、『火球』。
ラノベなんかでも、一番最初に使う魔法だ。
ぼくだって、女神に言われてなければ、使ってた。
もし、街なかで喧嘩を売られて、つい、『火球』を撃っていたら……。
相手が消し炭になるのは、かまわない。
でも、街を焼いてしまったら、ぼくが悪者にされるだろう。
とにかく、【氷礫】が、パチンコ玉になるまで頑張ろう。
それができれば、他の魔法も使えるんだから。
ここは、剣と魔法の世界だ。
ちゃんと制御できるようになろう。
そして、いろんな魔法を使えるようになるんだ。
先へ進もうとしたら、美少女に止められた。
「あの氷の塊を、放置しておくのですか?」
「そのうち溶けるだろう? 氷なんだから」
「いいえ。あれほどの魔力です。
まったく溶けないと思いますよ」
「氷なのにか?」
「ええ。氷なのに、です。魔法ですから」
「もって帰ればいいのか?」
「まさか。『解除』と唱えればいいんです。
それで、魔法は消えてしまいます」
「そんなことでいいのか?」
「ええ。そんなことでいいのですよ。魔法ですから」
美少女が、クスクス微笑いだした。
もちろん、イヤな感じはしない。
上目遣いと同じくらい、かわいい。
「こんなに強いのに、あなたは、何も知らないのですね」
「ああ、そのとおりだ。【解除】」
ほんとに、唱えた途端に消えた。
魔法の使い方を、ひとつ覚えてしまった。
美少女エルフ先生のお陰だな。
__美少女エルフ先生、ありがとう…だな。




