第10話 エルフ
翌朝。
外に出て、【卵ハウス】をリュックに収納。
森に入った。
【結界】の球体に包まれてるからね。
虫なんて、ちっとも怖くない。
ぼくは、すいすい森を歩いた。
でも、虫への恐怖が、薄らいだせいだと思う。
つい、油断してしまった。
それも、完全に。
そして、忘れていたんだ。
森の脅威は、虫だけじゃないことを。
ぼくは、突然、なにかに弾き飛ばされた。
トラックにでも、ハネられたかと思った。
それくらい、大きく弾き飛ばされた。
もちろん、痛くもかゆくもない。
さすが、【結界】。
吹っ飛ばされても、ぜんぜん平気だった。
__あいつか?
かなり向こうに、原始人がいた。
腰蓑のようなものをつけて、角を生やしている。
手には、ひん曲がった大剣。
それを、不思議そうに見下ろしている。
__アレで、ぼくを、背中から切りつけたんだな。
もちろん、【結界】のお陰で、ぼくは無傷。
でも、ぼくの体重なんて、軽い。
【結界】ごと、弾き飛ばされたんだ。
異世界に来て、初めての『敵』との遭遇だった。
でも、不思議なことに、まったく怖くなかった。
むしろ、だんだん腹が立ってきた。
なにか、『異世界補正』みたいなのがあるんだろうか?
ぼくは、原始人に向かって、ゆっくりと歩き出した。
三歳から、じいちゃんに鍛えられてきたんだ。
やられっぱなしは、ありえない。
原始人は、ずごくデカい。
三メートルくらいありそう。
腕は、ぼくの胴より太いかも。
__でも。
こいつは、虫じゃない。
クモの子に比べれば、こんなデカブツ怖くもない。
クモの子は、マジで怖い。
思い出しただけでも、鳥肌が立つくらいだ。
ぼくが、近づくと、原始人がニタリと嗤った。
そして、ひん曲がった剣を、両手で持ちなおした。
剣を大きく振りかぶる。
ぼくを、真っ二つにする気まんまんだ。
でも、力むほど、速度は下がるんだよ。
ぼくは、体を半身にして、華麗に剣をかわした……はずだった。
ぼよーーーーーーーん!
また、弾き飛ばされちゃったぞ。
おかしいな。ちゃんと、かわしたのに…。
__ああ、そうか!
振り下ろした剣が、【結界】のどこかにぶつかったんだな。
【結界】が、大きな球体だったのを忘れてたよ。
__よし。今度こそ!
ぼくは、ふたたび、原始人に向かって行った。
その時だった。
「下がってください!」
可憐な声とともに、目の前に、女の子が飛び込んできた。
白いローブを着た、金髪の少女だった。
髪の隙間から、少し尖った耳が見える。
もしかして、エルフってやつかな?
少女は、原始人と対峙するなり、ぴしっと杖を突きつけた。
「ファイアー・ランス!」
唱えた瞬間、炎の槍が飛び出てきた。
ぼくの身長くらいある槍だ。
たった一発。
原始人は、ガクリと膝をついた。
そして、ドウっと倒れた。
頭は黒焦げで、半分は崩れかかっていた。
炎の槍は、すでに消えている。
だから、森を焼いたりはしなかった。
「すぐに、手当をします!………って、え?」
振り向きざまに、駆け寄ってきた少女の言葉が、途切れた。
かすり傷ひとつないからな。
驚いたんだろう。
「………どうして、傷ひとつないんですか?」
ひどく冷たい声で、言われた。
ぼく、何か悪いことしたかな?




