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5.鮫系ヒロイン

 

 彼女は、愛狗姉と対極的な金色の髪をショートヘアにした、小柄な娘で、紫がかった瞳は美しいが、ハイライトが一切灯って無く、ただ嫉妬の炎が燃えている。年の頃は、俺達より少し上くらいで、服装も制服ではなく、私服である。


挿絵(By みてみん)


「……(すい)叔母さん。顔が怖いんですが」


「おばさん……? お姉ちゃん、じゃろ?」


「いや、おばさんってのはそういう意味じゃ……」


「翠・姉・ち・ゃ・ん。昔はそう呼んでくれたではないか」


「……はい。姉ちゃん」


 いよいよ能面の様な顔で睨まれた俺は、あっさり折れた。


「翠叔母様、まーだ白ちゃんの事狙ってるんですか?」


「そりゃそうよ。姉様の面影のある甥っ子とか、自他ともに認めるシスコンからすると、手を出すなって方が無理じゃよ」


 紫がかった瞳でうっとりとした表情で、俺を見つめてくるのは和邇口翠(わにぐち すい)。俺の母方の叔母にあたる人である。叔母といっても、母さんとはかなり年が離れていて、かつ、母さんが俺を生んだのが若い頃だった事もあり、年の差は僅か5歳差。現在大学二年生である。わが家の近くのアパートに一人暮らしをしていて、そこから大学に通っている。


 田舎の訛りがかなり強く、小柄な体型もあって、図らずも、いわゆる『のじゃロリ』に近い感じになっている。


 昔から年が近かった事もあり、叔母というより親戚の小柄なお姉さんという感覚の相手だ。


 ただし、本人が述べている様に、母さんに対して強い執着をしている……というか自他ともに認めるシスコンという事もあり、母さんの息子で面影のある俺に対して、歪んだ愛情を示している。いや、マジで身内じゃなかったら、余裕で通報案件な事もされている。


 更に母さんが、この年の離れた妹に激甘なせいで、余計に調子に乗るんだ、これが。


 愛狗姉が狼なら、彼女は和邇(ワニザメ)の名の通り、鮫の様な女性である。


 なんなの。俺の周りには兎を捕食しようとするプレデターしかいないの?これが食物連鎖下位の悲哀ってコト……?! 何が悲しくてちい◯わみたいな気分を味わわなきゃいかんのだ……。


「愛狗ちゃん。お主こそ、白兎の事は諦めて、他に良い男を探せ。血がつながってないとはいえ、彼はお主の弟じゃぞ?」


 翠は、そう言いながら俺の空いているもう片方の腕に絡みついてきた。その際にやはり胸が触れて、その柔らかさにドキリとさせられる。


 おっかないのじゃロリ鮫(・・・・・・)に食いつかれている状況なのにドキドキしてしまう自分を情けなく思っていると、今度は愛狗姉が翠を牽制した。


「叔・母・様、血の繋がりについては、貴女も人の事は言えないっていうか、叔母様の方が不利なんじゃないですか〜?」


「かの神武天皇の両親、鸕鶿草葺不合尊(ウガヤフキアエズ)玉依姫(タマヨリヒメ)は甥と叔母の関係じゃぞ? 甥っ子と叔母の結婚はセーフ。古事記にも書いてあるわ」


 あんまりやんごとなき方をネタにするのはやめなさい。畏れ多い。てか、本当に古事記に書いてあるのか……。


「という訳で」


「どちらと結婚するんじゃ?白兎」


「付き合う過程すっ飛ばして、もう結婚の話かぁ……」


 俺は顔を見つめてくる二人の美少女を見比べる。


 どちらも、美少女といっていい外見である。身内の贔屓目に見ても可愛いと思う。


 だが、片方は血の繋がらない姉。もう片方に至っては、歳は近いとはいえ、叔母なんだよなぁ……。


「……」


 二人が唾を飲む気配がする。俺はそっと、首を振った。


「どちらとも付き合いません!」


「なっ?!」


「どうしてじゃ! 白兎」


「どうしてって……ねぇ?」


 正直、どっちを選んでもロクな結末になりそうな気がしないんだよなぁ。選ばれなかった方とは、間違いなく後まで残る禍根になるだろうし……。かと言って、二股かけて上手くやれる自信も無いし……。


 これが赤の他人ならまだ良い。しかし、我々は身内同士なのだ。この先の人生、嫌でも顔を合わせる機会なんて、いくらでもあるだろう。余計なトラブルの元は避けたい。


「それに、個人的に近親婚はあまり気がすすまない。スペインハプスブルク家の二の舞はごめんだよ」


 そう言うと、俺は二人から腕を解いた。愛狗姉と翠は恨めしそうに、俺を見つめている。


「私は諦めないからね! 白ちゃん!」 


「絶対、鸕鶿草葺不合尊と玉依姫の神話再現をしてやるからのぅ!」


 そう言う二人を軽くあしらいつつ、俺達は学校への道を行く。



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