40.星辰が揃う夜
「……なんでそんなものがこの世界に?」
俺は、恐怖心を抑えつつ問うた。姫様は頭を掻きつつ口を開く。
「私も断言までは出来ないが……一つは何かの偶然で、意図せずにこの世界に流入したパターン。稀に異世界とこちらの世界が繋がる事がある。いわゆる異世界転移ってやつだ。その時に、何かの拍子にこちらの世界に流れてきたという可能性だ。少し前に話題になった、ヒアリみたいに意図せずに流入した場合だな」
「そんな事があるのかの……恐ろしや」
「とはいえ、日常的に来る海外からの船や飛行機と違って、そもそも異世界同士が偶然繋がる確率は低いし、更に秘匿されていた『NSクロスロード』が外来種として流れてくる可能性は更に低い」
「……つまり、人為的に異世界から持ち込まれた可能性があるってこと……?」
「可能性はある。現に、『NSクロスロード』はこうしてある訳だし」
「誰が、何の為に……?」
「そこだよ」
俺の言葉に、姫様は困った様に顔をしかめた。
「『NSクロスロード』は秘密兵器だ。何度も言う様に、天文学的偶然によってもたらされたので無ければ、誰かが、意図的に持ち込んだ事になる。だが、これの存在を知っている人間なんて一握りだった。私と同じレオイ人。それも、かなり高位の人物が、異世界の環境をぶっ壊そうとしている犯人という事になる。私とも顔見知りの可能性が高い。」
顔見知りが生物兵器を用いて、この世界で何かを企んでいるという事に、姫様は立腹している様だった。
「……犯人を特定出来る可能性がある、という事じゃな。そうすれば、犯人がこの厄介な花で何を企んでるかも分かる」
「ああ。場合によっては、とっちめる。なんなら、私と同様、そいつも異世界から転生したのかも……」
姫様は、そう言いかけて、更に話しを続けた。
「いや、その可能性が高い。レオイは隣国との戦いで滅亡した。その時に死んで、私の眼鏡と同様、女神の気まぐれで、『NSクロスロード』の種を持たされて転生したと考えれば、何故この世界にあの花があるのかにも説明がつく!」
その仮説が正しいとしたら、はた迷惑な女神様である。多分、その女神の正体はニャルラトホテプか何かだろう。きっと今頃、俺たちが喧々諤々しているのを眺めてニヤニヤしているに違いない。
「……でも、仮に犯人を見つけたとして、それは良いとして、この花はどうするの? こんなに繁殖したら、オーストラリアの兎よろしく、もう駆除出来ないでしょ?」
愛狗姉が、そう懸念を口にする。確かに、もう花は屋上庭園の半分以上を覆っている程に増殖していて、猛毒を持つ事もあって、簡単には除去出来なさそうだ。
「そこは安心してくれ、こういう暴走時に備えて、こいつには『自爆コマンド』が設定されているんだ」
「自爆コマンド? 上、上、下、下、右、左、右、左、B、A?」
「そりゃ世界一有名な裏技のコマンドだろう……」
俺のボケにツッコミを入れつつ、姫様は説明する。
「星辰……星の位置が丁度良い位置にある時に、専用の魔法を使う事で、現在咲いている花を種を含め、全て枯らす事が出来る。私はその魔法は出来るからね。犯人探しと同時進行で、その儀式の準備もしよう」
「星の位置が重要、ねぇ。クトゥルフ様の復活に必要な条件みたいだな」
「似たようなものさ。ちょっと大掛かりだが、私達でも出来ないレベルじゃない」
「それで、その星の位置が揃う日、というのはいつじゃ? あまりぼやぼやしていると、街中がこの花で覆い尽くされるが……」
翠姉ちゃんの疑問に、姫様は確信をもって答える。
「なぁに、まだ間に合うさ。次に星辰の揃うXデーは直近だと、ちょうど、十五夜の夜だ。1週間後、だな」
「……なるほど、かぐや姫を主役にした舞台に申し分ない夜って訳だ」
ロマンチックだね、こりゃ。
「……聞くまでもないが、手伝ってもらってもいいかな。私一人でも出来ない事は無いが、人手がいた方が効率が良い」
俺、愛狗姉、翠姉ちゃんは顔を見合わせる。……まあ、ここまで話を聞いて協力しないのは空気が読めないというやつだろう。俺が頷くのを見て、残りの二人も頷いた。
まだ時間はある。当面、この準備の為に駆けずり回る事になりそうだ。




