4.残暑もヤンデレには関係ない
学校への通学路にも、例の花がポツポツ咲いている。銀色の花が道端で、いや、ありとあらゆる場所で咲く光景は目を引くが、俺達はそれに構うこと無く歩みを進めている。
季節は秋。とは言っても残暑厳しい九月中旬である。正直、今日も結構暑い。おのれ地球温暖化。そろそろ本格的になんとかしないと、秋という季節が消えてしまう。
「えへへ〜白ちゃ〜ん」
「愛狗姉、胸、当たってるんだが。あと、暑苦しい」
俺の脇では、暑いというのに、愛狗姉がニヤニヤしながら腕を絡ませている。彼女の形の良い胸が当たって心地よいが、それはそれとして気恥ずかしい。周りには、同じく飛輝鐘高校の生徒もいる。
一応、学校でも俺は、美人の義姉と付き合っている美少女(♂)兎という扱いなので、今更ではあるが。やっぱり噂になって悪目立ちしたくないじゃん?
てか、正式に付き合っている扱いなのが若干解せぬが。あれか、入学早々、愛狗姉が自分達が血の繋がらないきょうだいな事、更に自分達が男女として愛し合っていると、自己紹介の場で爆弾発言をかました事が原因か? いや、間違いなくそうだ。
「当ててるんだよ〜? なんなら揉んでも良いよ〜」
「本当に、隙あらばゴリ押し色仕掛けしてくるよね、愛狗姉」
「だって、白ちゃん、この学校で自分がどれだけ人気か知ってる? 女子からの人気ランキング六位だよ、六位! 早く唾つけとかないと。ボヤボヤしてると取られちゃう!」
「地味に初めて聞いたんだが。六位……六位かぁ」
一位になりたかったとは言わないが、中途半端感は否めない。
「で、真面目な話どうよ? 私と付き合うの?」
「そうだねぇ……愛狗姉は美人だけど、正直、今まで身内としか思ってない相手だからねぇ」
俺は返答に困った。愛狗姉の事は好きだが、それはあくまで肉親としての情。Likeとしての好きだ。血はつながって無いとはいえ、なんとなく流れで恋仲になるのは違う気がする。
「白ちゃんのしたい事、毎日なんでもしてあげるよ?」
そう言うと、愛狗姉はシャツの第一ボタンを外して、中のブラをチラ見せしてくる。……今日は黒か……。
「朝っぱらからやめなさい」
「いけず〜」
そう言うと、俺は彼女の服のボタンを直した。仮にも通学路で何をしてるんだ。誰かに見られたらどうする。
……実際、一度関係を持ってしまったら、もう止まれない気がするんだよな、俺。兎の性欲舐めちゃいかん。自分で言うのもなんだが、俺は三大欲求のうち、性欲の部分がだいぶ強い。一度彼女と関係を持ってしまえば、後はもう、ノクターンノベルズ行き待ったなしだ。そのへん愛狗姉も良く分かってるから、こんなゴリ押ししてるんだろうし……。勘弁してくれ、一応本作は全年齢版なのだ。
「答えはNO。現状維持!」
「むむむ……いっそ、夜討ち朝駆けでさっさとひん剥いて関係持って、なし崩し的に……って方が良いかなぁ」
「怖い事言うなよ」
「それにほら、実際、狙ってる鮫娘もいるし、牽制しとかないと〜」
そう言うと、愛狗姉は後ろを振り返る。
位置関係は、俺達の三歩後くらい。
果たしてそこには、明らかにネガティブな雰囲気を纏った女の子がいた。