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39.異世界の花

 

「ま、落ち着いて聞きたまえ。……このままでは、この街は滅亡する!」


「は、はぁ……」


 というわけで、39話、約6万字を経て、冒頭の場面まで帰って来た。初回掲載日が2024年02月28日だから、およそ5か月ぶりである。……この作者、遅筆過ぎである。読者の皆さま、お待たせしました。


「ワケが分からない、という顔をしているね」


「そりゃあ、そうだろうよ。なんで突然そんな事言い出した? M◯Rごっこなら他をあたってくれ。こう見えて、俺は意外と忙しいんだ」


 俺の言葉に、かぐや姫は愉快そうに笑った。


「ハッハッハ。相変わらずだ君は。面倒嫌いの怠け者。まあ、これからする話を聞けば、やる気も起こるだろう」


 眼鏡越しに真紅の瞳を輝かせ、長い黒髪をいじりつつ、彼女は、そう胡散臭い事を言う。美人だが胡散臭い彼女を、俺は怪訝な顔をしながら眺めた。


「ま、話くらいは聞いてやろう」


「そうこなくちゃ」


 美人の自称俺の前世の嫁殿は、ニヤリと笑うと口を開いた。


「もったいぶっていないで、早く話してよ。」


「そうじゃそうじゃ!」


「まぁまぁ、そう急くな急くな」


 姫様はそう言うと、屋上の庭園の花壇に咲いていた、花……件の謎の銀の花を一輪、毟り取った。肌からも吸収される毒を持つという事だったので、ハンカチをもって、それごしにである。


「最近起こっている妙な事件……突如、人が錯乱状態になり、刃物を振るい始めたり、飛び降り自殺したり。もしかしたら、こいつが原因かもしれない」


「これが……?」


 俺は怪訝な顔をして姫様の手にある花を見た。ナスの花の様な形で、その花弁はよく研がれた刃物の様に銀色だ。


「そう。こいつは、元々、この世の花じゃないんだ」


「……変な事を言うのう。異世界に咲いている花だとでも言うのか?」


「叔母上、まさに正解! この花は元々、私達の前世。異世界に咲いている花なんだ!」


 姫様はそう言うと、花を地面に捨てた。流石に毒物だし、長い時間持つのは恐ろしいのだろう。


「厳密に言えば、『咲いている』というのは語弊があるな。正確には、あの花は、異世界で魔法の力を使って品種改良されて生み出された、自然に存在しない、人工の植物さ……作り出したのは、我がかつての祖国、レオイ王国。かの国において、ある種の生物兵器として生み出されたのが、こいつだ。『ナチュル・スーサイド』という名前で、その二番目のバージョン。コードネームは『クロスロード』。我々は『NSクロスロード』なんて言っていたな」


「せ、生物兵器?!」


 とんでもない正体に、俺は驚愕する。流石の愛狗姉や翠姉ちゃんも同様な様で、息を飲む音がする。


「こいつは、とんでもない繁殖力を持っていてね。有事の際に、相手の領地に密かに種をばらまく事で、どんどん増殖して、農地にダメージを与える事を目的に作られたものだ。……このまま放っておけば、この街はやがてこの花に一面覆われる事になるだろう」


「うわぁ、地味な嫌がらせ。性格悪いね」


「外来種に、在来種が駆逐される構図をさらに凶悪にした感じかのう。恐ろしや。……街が滅ぶというのも誇張では無いか」


 ……確か、ガンダ〇にもそんな生物兵器があったな。アシュタロンだか、アスタロトだか。まさにあんな感じか。


「メインの使い方は敵の農地を荒らす事を目的にしたものだが、もっと別の使い方もある」


「別の使い方?」


「それがこいつの恐ろしい所さ。『NSクロスロード』の作り出す花粉。これがまた、やばい効果を持っていてね。この花は所謂風媒花で、杉やヒノキの様に花粉を風に乗せて飛ばす」


「この時点で花粉症持ちに対して、絶大な効果を発揮しそうだな……」


「流石シド。良い事に気付く。そう。この花粉を吸い込ませる事がキモなんだ」


 微笑みつつ目は笑わずに、姫様は語る。


「……この花の花粉を吸い込んだ人間を、自由に操る事の出来る魔法が同時に生み出されたんだよ。異世界では」


「自由に?……何でも命令できるって事?」


「そうさ。それこそ、どこぞのブリタニアの皇子か、催眠もののエロ漫画みたいに、相手に何でも好きな事をさせる事が出来るようになる。それこそエッチな事から、自殺しろって命令まで、何でも」


 俺も、愛狗姉も、翠姉ちゃんも、息を飲んだ。……もし、そんな事が出来るなら、世の中は滅茶苦茶になってしまう。それに、突然発狂して、刃物を振るい出したヒクイドリや、飛び降り自殺をしたあの不良達も、もしや誰かに操られたのでは……? そんな考えが浮かぶ。俺以外もその可能性を考えているのか、皆表情は深刻なものだ。


「……皆、同じ考えみたいだね。あの二つの不可解な事件、彼らは誰かに操られたのではないか。そう考えているんだろう。ただ、これについてはまだ何とも言えない。その魔法はかなり高度なものだ。私でも使えないくらいにね。そもそも、この花の秘密を知っている存在が、私以外にこの世界にいるものなのか……」


挿絵(By みてみん)

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