33.本を焼くものは、やがて人を焼くようになる
「む……?」
さて、どんなバイトが良いだろうと俺が考えようとした時、我が耳は何か、妙な声を捉えた。恐怖に震える様な、女性の声だ。
「今、何か、聞えなかったか?」
「確かに、悲鳴みたいな声が聞こえた様な……」
愛狗姉も聞こえた様だ。気のせいではない。
「この先の路地からみたいじゃな」
「お化けでも出たのかね?」
冗談めかして言う姫様。個人的にオカルトは嫌いでは無いし、魑魅魍魎の存在も信じているが、丑三つ時ならいざ知らず、快晴の朝っぱらから出るとは思えない。
「お化けなら興味深い。行ってみようぜ」
「おいおい、正気かい?」
「お化けならいざ知らず、事件事故の類なら放って置けん」
俺はそう言うと、悲鳴の聞えた路地に向かっていく。他の三人も不承不承ついてきた。
「……」
俺が建物の壁越しに覗くと、果たしてそこには、見るからに気弱そうな、細い……というよりガリガリに分類出来るうちの学校の女子生徒が、同じくうちの学校の生徒と思われるガラの悪そうな男子生徒3人から囲まれて、凄まれている所だった。
「おいガガンボ。俺達、ちょっとおこずかいに困っててさぁ」
「少しお金、貸して欲しいんだよねぇ」
「そ……そんな、困るわよ……」
「あぁ?! 何か文句あるのか!」
「いや、そんな事……」
……見るからに、恐喝の現場だな。ありゃあ。
「翠姉ちゃん、スマホのカメラ起動して。動画であれを撮って。今後、警察沙汰にする時に証拠にする」
「アイアイサー。くく。最悪、ネットにあやつらの個人情報付きで動画をばら撒いてやれば、ネットの怪物達が処してくれるじゃろ。十分制裁にはなる」
……何か恐ろしい事を言っている。本当に情報化社会というのは恐ろしい。この光景がSNSにばら撒かれた時点で、あの加害者達は被害者に転落する事になるだろう。世の中には意外と、悪い意味で正義感に溢れた人物が多いのだ。
まぁ、そこまでするかどうかはともかく、とりあえずは、あの気弱そうな生徒を助けるのが先だ。
「俺は今から、あの女の子を助けに行く。愛狗姉は、もしも一発でも俺が殴られたら警察に通報。暴行で訴えてやる。姫様は、最悪の事態に備えて、例の電気ショックの準備を」
「はいよ」
「流石シド。緊急時は頼りになる!」
てきぱきと指示を飛ばし、俺は深呼吸を一つして、肺と脳に酸素を行きわたらせた。こう見えて、俺は面倒くさがりな性格だが、流石に弱い者いじめを見逃すのは癪に触る。
しぶしぶ愛狗姉が、姫様に疑似魔力なるものを装填すると、姫様はそれを使って、指先に電気をまとわせた。
「充電率100%。いつでも撃てる」
見ると、不良達は気弱そうな女子生徒の鞄を奪い取って中身を漁っている。勿論、彼女は嫌がっているが、不良たちは山賊まがいの行為を止めない。そのうち、彼女の財布と、彼女の私物だろうか。萌え系のイラストが表紙に描かれた小説を取り出した。
「見ろよ! こいつ、こんなの持ってるぜぇ!」
「や、止めてよ!」
「ぎゃははは! 女の癖にこんなの読んでるからキモがられんだよ! ガガンボ女!」
「そうだ。俺達がお前のオタクを矯正してやるよ」
1人の不良が、懐から煙草用だろうか。ライターを取り出した。それを彼女の本に近づけて、じりじりと炙りだした。火はついていないが、気弱そうな女子生徒は涙目になっていた。
「焚書とはいただけないな。ちょび髭伍長の愉快な仲間達じゃあるまいし」
「本を焼くものは、やがて人を焼くようになる、だね。流石にそろそろ目に余る」
「……では、行きますか」
俺はそう呟いて、颯爽と、彼らに声をかけた。
「ヤァ、君達、面白そうな事をやっているじゃないか」
いかん、緊張して声が少し裏返った。締まらないなぁ。
だが、突然声をかけられ、彼らの気を、その気弱そうな女子生徒からそらす事は出来た様だ。あくまでフレンドリーな微笑みを浮かべながら、俺は彼らに近づいた。




