30.【悲報】登場人物全員親戚
「なんだぁ? このちんちくりんは」
かぐや姫様はそう言うと、俺にひっついた翠姉ちゃんの首根っこを掴んで、無理矢理引き剥した。
「儂はこの白兎の叔母の和邇口翠じゃ! そういうお主は……かぐや姫かえ?」
「叔母ぁ? このロリっ子が? ……それに、何故私の名前を知っている?」
訝しげな顔で、姫様は翠姉ちゃんを睨んだ。
「俺がお願いして、姫様の事を探って貰ったんだ。彼女、ハッカーとしての腕は中々だから」
「ふ……これでも個人情報をぶち抜くのには一家言ある」
俺に腕前を褒められて上機嫌な翠姉ちゃんは、ドヤ顔を決めつつ、話を続ける。
「せっかくじゃ。ここまでで儂がたどり着いた情報を話してやろう。大邦浜かぐや。歳は白兎達と同様16歳。父は霊道同一。母は大邦浜そら。父の霊道同一は霊道財閥の次期当主と目される男」
とうとうと語る翠姉ちゃんに、姫様は得体のしれない様なものを見た様な顔になる。
「……母さんの事はともかく、私の父親についてまで、よく調べたね」
「はは。ハッカーを舐めるなよ?」
「それより、霊道財閥って……あの霊道家?!」
愛狗姉は少し驚愕した顔をした。
霊道家。俺でも知っている名家だ。いわゆる財閥であり、色々な事業に参入している金持ち一族である。すると、姫様は中々良い所のお嬢様なのか。
「……そんなレアな人間じゃないよ。私は」
俺の思考を読み取ったのか、姫様は否定の言葉を口にした。
「確かに、私の父親は次期霊道家当主と目される霊道同一だ。だが、うちも中々家庭事情が複雑なもんでね」
「……これ、続き言っても良いか? 結構デリケートな話じゃが」
「スーパーハッカーさんは一応デリカシーはあるみたいだね。良いよ、カミングアウトして。私は別に対して気に病んでないし」
「うむ。まぁ、端的に言えば、この霊道同一という男、中々評判の悪い男でな。女にだらしなく、多くの女性と関係をもって、色んな所に愛人と子供を作っておる。そのうちの1人じゃ。こやつは」
「ま、たまにある話さ。養育費と生活費はそれなりに貰っているから、生活には困ってないしね。両親の転勤でこの地に来たっていうのも方便。実際には、馬鹿親父が正室様に気兼ねなく母さんに会う為に、霊道の本拠地から離れた場所に再配置しただけ」
あっけらかんという姫様。ある意味、開き直っているのだろう。
「うちの馬鹿親父、あくまで噂だけど、夜な夜な街に繰り出しては、1人で夜道を歩いている若い女性を襲って強姦していた、なんて黒い噂まであるくらいだし、認知して、支援してくれているだけありがたいと思う事にしているよ」
さらっと、とんでもない闇を暴露された。あくまで噂の話とはいえ、彼女の父親、霊道同一。中々やべー男なのかもしれない。
「それでも、霊道家の血を少しは引いてるわけじゃん。この女。つまり……」
愛狗姉は、頭を抱えている。
「霊道家……あぁ、そうか……」
俺も何となく彼女の言いたい事を察した。
「……私と、この自称お姫様、親戚同士って事?」
「は? え? はっ? 親戚同士?!」
今度は姫様の方が困惑した。愛狗姉は、話を続けた。
「私がちょーっと訳ありの子で、吉弔谷家の養子になったっていうのは聞いてるでしょ」
「ああ、まあ。詳しい経緯は知らないが……」
「ちょーっと公言するには、はばかられる内容だから詳細は伏せるけど、私の本当の母親は、吉弔谷家の本家にあたる吉弔龍家って家の娘でね。ここも割と大きな家なのよ……ここと、霊道家に縁戚関係がある。そこのお婆様が霊道家から嫁いできた女性という……」
「げぇ……マジで? ここにいる全員親戚同士って事?」
まさかの繋がりに、辟易した顔になる姫様。
「まとめると……姫様の父親が名家の霊道家の人間で、その霊道家から吉弔龍家に嫁いできた女性を祖母にするのが愛狗姉で、その吉弔龍家の分家が吉弔谷家で、その吉弔谷家に嫁いできた女性の実家が和邇口家で……」
ややこしいなぁ、もう。中近世の貴族の家系図みたいになっている。
「…………まぁ、アレじゃな。世の中案外狭いって事じゃ」




