23.死亡フラグ、立つ
「ともかく、ラノダコールの連中、中々強力でね。国内にどんどん攻め込まれて、ついに裏切り者が出た。私の首を手土産に、敵に降伏しようとでもしたんだろう。王城は反乱軍に取り囲まれ、捕まって辱めを受けるくらいならと、自決する道を選んだ。シドも私が死ぬ時間を稼ぐ為、敵陣に切り込んで逝った」
「そりゃ……気の毒な事で」
まるで源義経と弁慶の最期だ。考えてみると、眉唾ものの話ではあるが、彼女があまりにも鬼気迫った顔で語るので、なんとなく信じてしまいそうになる。
「私は願った。今度はシドと平和な世界線で、慎ましく生きたいと! そしたら、なんと、死後の世界で女神に会ったんだ! 曰く、貴女の最期は不憫なので、シド共々、別の異世界に転生させてやるって事だった。私に至っては前世の記憶を保持したまま! 私は、この世界に異世界転生してきた異世界人だったのだァ!」
「あー、異世界転生もののテンプレの逆パターン的な」
不遇な境遇を囲っていた人間が、不慮の死を遂げて、死後に神様からチートを貰って異世界転生して大活躍! なんて展開。もはや古典にすら足を突っ込みかけている話の展開だが、異世界から、現世に転生するパターンもあるとは。
「そう。そして、女神様から、転生したシドを見分けられる方法も伝授されていてね。それが、痣だ」
「痣?」
「そう。見分けがつくようにと、私達二人は、牡丹に似た痣が身体のどこかに現れる様になっているんだ。あと、何か、オーラ」
「オーラ?!」
確信を持った様に言う大邦浜さん。前世からの仲だとしても、オーラとかふわふわしたもので分かるものなのだろうか。
「それに……かぐや姫、なろう系小説ときて、次は、今度は里見八犬伝かい。ファンタジーもの合成。というよりひどいメドレーだ」
痣で前世の仲間が分かるという仕組みで、俺はかの里見八犬伝を連想した。少し愉快なものを感じ、神経を苛立たせたテロリストを挑発するヒロインの様な事を言って、首を横に振る。
「それに、それだったら、多分、人違いさ。俺にそんな妙な痣は無い」
そう。俺の身体はまるで白い兎の様に色白で、傷1つついていない。牡丹柄の痣なんてどこにも無い。
「……」
「ん? 愛狗姉、どうかした?」
ふと、横を見ると、愛狗姉の顔が強張っていた。
「白ちゃん……痣、あるんだよ……」
「えっ」
「背中。丁度、自分では見えない位置に。一緒にお風呂に入る時にいつも見てるから間違いない」
「!!」
突然のカミングアウトに、俺は思わず動揺した。まさか、そんな事が……。
「シド! やっぱりシドだったんだね! こちらに転校してくる前から、それっぽい人間がいると聞いて、情報を集めていた甲斐があった!!」
「ま、待って。そういう大邦浜さんの痣は何処にあるの?! もしかしたら、違うかもしれないじゃん!」
「まだ疑うのかい? まぁ良い。実は私の痣はちょうど太ももの股関節近くにあってね! そんなに見たいなら仕方ない! ここで脱いで……!」
「そう言う事ならしなくていい!」
スカートに手を入れ、パンティーを脱ごうとする大邦浜さんを俺は制止する。ここで露出なんてしたら、下手すると警察沙汰だ。
「私の事を心配してくれるんだ! やっぱり君はシドだ! やっと会えたね! もう離さないから!」
露出を中断し、俺に抱き着いてくる大邦浜さん。嬉しそうな声色に反し、瞳には一切の光が無い。
「……もう離さないよ? 一生ね」
愛狗姉も愛狗姉で、光の失った目で大邦浜さんを睨んでいる。
「叔母様だけでも厄介なのに、前世の恋人? どれだけ天は私に試練を与えれば気がすむの……! もういっそ、何もかも捨てて、白ちゃんと二人、逃避行しようか……いっそ、心中でも……」
こちらもこちらで、恐ろしい事を言っている。あれ? この状況、下手しなくても、どこかで選択を1つでも間違えたらnice boat.な展開?!
突然降って湧いたモテ期と命の危機に、俺は力なく笑うしかなかった。どうやら、兎はどこまでいっても食物連鎖の底辺らしい。




