21.人はこの状況を修羅場と言う
あ、これはまた修羅場の予感。
俺の予想通り、彼女達は視線を合わせると、バチバチと牽制し合う。
「また貴女? 厄介な奴だよ、貴女は!」
どこぞの仮面をつけたクローンのラスボスの様な事を言って、愛狗姉はますます俺に強く抱きつく。
「彼の隣は私のものだ。返してもらう」
そんな愛狗姉に構わず、大邦浜さんは俺に近づくと、腕を絡ませてくる。
「ああ、久しぶりだ。この感覚。一体、何年ぶりだろう……」
そんな事を言いながら、うっとりとした口調で彼女は、俺を見つめてきた。
彼女の胸が当たって……悪い気はしない。
「……今、エッチな事考えたでしょ?」
「……そんな事無いよ」
「嘘つき。私が抱きついた時と同じ様な顔してる」
愛狗姉は相変わらず嫉妬心をむき出しにして、俺と大邦浜さんを引き剥がす。
「離れて! 白ちゃんは私の旦那さんになる人だから!」
「残念だったね。白兎は私のご主人様なんだ。もう前世では【自主規制】や【自主規制】も済ませてるんだ!」
サラッとご主人様とか言い始める大邦浜さん。待って、とんでもない事言ってない?
「……私でもちょっと引くレベルのプレイを?!」
「白兎……いや、シドの為ならその位。なんなら今ここで【自主規制】してやっても良いぞ!」
案の定というか、なんというか、やっぱりやべー奴だよ、この女! 俺は彼女とそんな関係にはなってない。
というか、シドって誰?! 俺の事?!
「ちなみに、シドっていうのは君の前世での名だ。……案の定ちょっと引いてるなぁ。まあ、良いさ。そのうち私達の関係を思い出してもらう。あぁ、私の事は姫様と呼んでも良いぞ?」
姫様……確かにかぐや姫みたいな名前だ。某シューティングゲームではかぐや姫と、因幡の白兎が仲良くしていたが……。はたして、この奇人と白い兎は仲良くなれるだろうか。
「……無理だな」
そう割とすぐに結論が出た。こちとら愛狗姉と翠姉ちゃんと、どちらを取るかで日常的に揉めている。そこに3人目を介入させる余裕は無い。個人的に、男女の友情は存在しえないと考えているのも、これに拍車をかける。
「大邦浜さん」
「お・姫・様。そう呼んでよ」
「…………姫様。悪いけど、あなたと付き合う事は出来ない」
そう言って、俺は大邦浜さんから物理的に距離を置く。みるみるうちに瞳のハイライトが消え失せる。
「……私の事、拒絶するのかい? 白兎、いや、シド」
「そりゃあ、ね? 出会って早々、前世がどうとか言ってくる奴とか、警戒するって」
「可哀想に、あんなに仲良く愛し合っていたってのに、記憶を失っているとこんなに冷たく出来るものなのか……」
よよよ……と目を覆って泣き声をあげる大邦浜さん。参ったな。この学校の生徒もいる往来で泣かないで欲しい。妙な誤解を生みかねない。
「……嘘泣き、だよね。これ。そういうの、セコいって言うんじゃないの?」
一方の愛狗姉は、あっさりと大邦浜さんの涙がフェイクである事を見抜いた。
「バレたか」
「流石だね。愛狗姉」
「あの厄介な叔母様と日常的にやりあってるからね。女のやるズルいやり方ってのも心得ているよ」
そう言うと、愛狗姉はますます警戒して、俺に抱きついた。
「白ちゃんはお姉ちゃんたる私のもの。渡すもんか」
「ご主人様ぁ。私は君に前世から心底惚れているんだよ? そんなぽっと出の義姉になんてなびかないよね?」
ハイライトの失われた瞳で、お互いを睨み合う愛狗姉と大邦浜さん。さて、どうしたものか。
「とりあえず、大邦浜……いや、お姫様。なんで突然、前世がどうとか、言い出したんだ? 流石の俺でも、いきなりそんな事を言われたら戸惑っちまう。説明をしてくれないか?」
「ふふ……よくぞ聞いてくれた! 語らせてもらおうじゃないか!」
「語らなくて良いから」
中指を立てながら威嚇する愛狗姉。それを無視して、大邦浜さんは口を開いた。
作者のリアルが忙しい為、更新ペース遅くなります。




