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2.ブラコンの狼

 吉弔谷(きっちょうたに)愛狗(あく)。血の繋がらない、我が同い年の義理の姉である。


挿絵(By みてみん)


 愛狗というDQNネームに対して、顔は美人でスタイルも良い。清楚な印象さえ持たせる。まぁ、頭の仲は俺への歪んだ愛情でいっぱいな訳だが。


 そんな相手に好かれるなら本望だろって? いや、まぁ、俺もこの義姉の事は好きだけどさ。それにしたって限度ってものがあるじゃん?


 人のスマホに勝手にGPSアプリを入れたり。AIで作った人工の俺の声を、俺といない時に常に聞いていたり。彼女の部屋に、いつの間に入手したのか、俺の捨てたはずの下着やら、何に使ったとは言わないが、使用済みのティッシュが大量に飾られていたり……。


 彼女は、いわゆるヤンデレ、というやつなのだろう。なんなら、毎日の様に火の玉ストレートに好意を伝えてくるし。俺が他の女の子と話しているだけで、凄まじい嫉妬を表に出してくるし。


 一言で言うなら、印象通り、狼の様な厄介な女の子。それが彼女の俺の評価である。


 ***


 愛狗姉は、この家の両親の、本当の子ではない。彼女の本当の母は、この吉弔谷家の遠縁の親戚の娘。そして、父は名前すら分からない。


 愛狗姉は所謂、忌み子だった。


 当時女子高生だった彼女の実母がある日、夜道を歩いていた時に悪漢に襲われ、見ず知らずの男の子供を身籠ってしまった。それが彼女である。


 しかし、その実母の両親、つまり、愛狗姉の本来の祖父母は、彼女を堕胎させる事を拒絶した。敬虔なクリスチャンであった彼らからすれば、穢れた血を持つ者であろうが、生まれてくる無垢な命を殺す事は出来なかったのだろう。 


 結局、堕胎はせず、愛狗姉はこの世に生まれてくる事が出来た、が、当然の如く、実の母は、お腹を痛めて生んだ子とはいえ、彼女を愛する事が出来なかった。いわゆる育児放棄というやつだ。


そこで、人の良い遠縁の親戚……吉弔谷家の夫婦、つまり俺の両親が、養子として彼女を引き取る事にした。


 といっても、ほぼ押しつけられた形である。彼女の実家は財界政界に様々なコネを持つ大きな家で、わが家も色々と『借り』があったので、彼女の受け入れを拒絶出来無かったのだ。


 「愛すべき狗」なんて、実の母親から与えられた、愛も憎もこもった彼女に付けられた名が、彼女の立場の複雑さを表している。名付けとは呪いである、なんて話もあるよね。とんでもない呪いをかけてくれたのかもしれない。


 奇しくも、吉弔谷家には愛狗姉と同日に男の子。つまり俺が生まれており、母乳が出る母親がいたのも、我が家に白羽の矢が立った原因だ。


 どうしよう。第二話にして設定が絶妙に重い。


 幸いなことに我が父母は愛狗姉を虐待などせず、適切に扱った。が、コンプレックスが生まれない訳では無い。


 中学生の頃、彼女の出生についての話を父母がたまたましていたのを、たまたま聞いてしまった俺達きょうだいは、いずれ話さなければならない事と、そのまま、この話を聞かされた。


「愛狗の事は、実の娘だと思って、本心から愛している」


 と、両親は言っているが、多感な思春期にそんな衝撃的な話を聞かされた義姉の心情を思うといたたまれなくなる。それまで、俺とは二卵性双生児と聞かされていたのだ。まさか遺伝子的には赤の他人だとは思わない。


 結果、元々仲は良かったものの、フォローしようと俺はますます彼女にべったり構う様になった。ショックを受ける彼女に寄り添い、時になだめすかし、精神的に不安定になっていた時など、一晩中抱き締めてあげた事もあった。


 そのおかげか、彼女もある程度吹っ切れる事が出来たが、代償として、自他共に認めるブラコン狼に進化した。最近は、隙あらば襲いかかろうとしてくる。


 悪い方向に覚醒した狼に狩られない様に、今日も兎は跳ね回る。



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