19.消極的な対策
「……親父、母さん、この話自体は良いんだが。その……」
何と切り出したものか……。下手すると、帰ってくる頃には初孫が出来ている可能性がある。と、言うのは流石に直球過ぎるか。
「愛狗ちゃんの事か。この子は、お白にベタ惚れしているから、帰って来る頃には、初孫が出来ているかもしれん……そう言いたいんだろう? お白」
お白と、いう独特の呼び方で俺を呼ぶのは、親父の特徴である。
「さとり妖怪もかくやとばかりに、当然の様に心読むやん……」
「俺と稲の子だ。大体の事は分かる」
「え、お父さん、私の恋心、見抜いてたの?!」
「え、むしろ、今まで隠してたつもりなのか……? あんなにドストレートに好き好きアピールしてたのに」
驚愕する親父を尻目に母さんは話を続けた。
「その辺も色々考えたんだけどねぇ……。結論が出なかった。片方を連れて行って、無理矢理引き裂いてしまうか。でも、それはそれで愛狗ちゃんが可哀想だし、なんなら、かえって燃え上がっちゃうだろうし。かといって、直接血は繋がってないとはいえ、近親相姦に積極的にGOサインを出すのもアレだし……」
「正直、恋愛ごとに関しては、俺が後先考えずに稲を妊娠させた手前、あんまり偉そうな事も言えないしな……」
「あ、一応、そこ突っ込まれたら黙るしか無いな、という自覚はあるんだ」
「というわけで、消極的な対策を考えた。私の最愛の妹を使おう、という事にした」
「儂を?」
突然話を振られ、翠姉ちゃんは訝しげな顔をした。
「翠ちゃん、白ちゃんに惚れてるでしょ?」
「まぁの。姉さまの若い頃そっくりな上、こやつは優しいからのぅ。ネットの怪物達とのレスバで疲れた心にこれは……効く」
「それなら話が早い。翠、この家に引っ越して来い」
親父はそうあっさりと言った。
「は? どういう事じゃ?」
「この家に引っ越して来いというのは、この家に住めという事だ」
「いや、そんなどこぞの政治家みたいな事を聞いているのではなくての……アレか? 白兎に惚れてる儂を同棲させる事で、愛狗ちゃんを牽制したい、という事か?」
「そうそう。それが言いたかったのだ」
親父はそう言うと話が早いとばかりにうなずいた。
「お互いに相互監視させて、牽制させ合う事で、お白の貞操を守ろうって事だ」
「えー、ちょっと待ってよ。これじゃ、私が悪いみたいじゃん!」
口を尖らせる愛狗姉。まぁ、両親から危険人物認定された様なものだから気分は良くないだろう。
「お白も愛狗ちゃんとの恋愛に乗り気なら、我々も見て見ぬふりをしても良かったんだが、お白にはその気は薄そうだからな。俺が稲にした様に、お白を調教しきれなかった自分を恨め」
「ぶーぶー」
ブーイングをする愛狗姉。それをわき目に見つつ、俺は自分の心配事を口にする。
「あー……この策自体は良いんだが……。もしも……もしも、俺のほうからどちらか、あるいは両方に手を出したら、どうする?」
「それはそれで、相思相愛になる訳だし。……二人とも手籠めにして修羅場になったら、知らん。男らしく責任取って二人とも幸せにしろ」
「そんな投げやりな……」
「お白の理性を信頼しているとも言う。とりあえずこれは渡しておこう」
手渡してきたのは、避妊具の箱である。思わずジト目で、親父を見る。
「そんな目で見るな。実際、学生の身分で出産や育児は大変なんだ」
「経験者は語る……」
「という訳で翠ちゃん、今度の休みにでも、必要なものを持って、こちらに移って来てね。部屋は、私の部屋を使うと良いわ」
「元姉様の部屋を使って良いとな。……ほうほう」
母さんが使っていた部屋を使えるという事で、少し興奮している翠姉ちゃん。そして、相変わらず不満げな愛狗姉。
なんというか、これは厄介な事になりそうだ。色々と。




