17.これから毎日荒らしを焼こうぜ?
「ふぅ……」
一息ついてトイレから帰った俺は、早速、叔母と義姉が妙な盛り上がり方をしている所に遭遇した。
「くくく……! もっと燃えるが良いわ!!」
「小娘、派手にやるじゃねぇか!」
「これから毎日荒らしを焼くのじゃ!」
と、大昔のトチ狂ったアニメの迷台詞の様なものを言いながら、スマホの画面を見つめる二人を俺は困惑しながら見た。
「ええっと……これはどういう状況?」
「あ、白ちゃん。どう?楽しめた?」
「えっ。ああ、まぁ……うん。」
「参考にしたいから、どのパンツ選んだかを教えてもらっても良い? 」
「何の参考にするんだよ。……それより、これはどういう状況?」
「「イキりちらしてた荒らしでキャンプファイアーしてる所」」
「キャンプファイアー?!」
色々とツッコミどころの多い回答をされつつも、俺は画面を覗き込んだ。そこには、リプライが殺到し、炎上する名前も顔も知らない誰かのアカウントが表示されていた。ちなみに、そのどっかの誰かは、そうした状況に対し逆切れをかまし、ますます炎上する。
「間抜けじゃのぅ……。大体こういう時は、さっさと頭下げて謝罪して相手の溜飲を下げつつ、ほとぼりが冷めるのを待つのが常道じゃ。逆切れかましたり、言い訳するのは大抵追加の燃料投下にしかならん。謝ると死ぬタイプの人間は難儀じゃの~」
「え? どういう状況、これ……」
「なに、しょうもない荒らしが儂の漫画にケチつけてきたから、ちょびっと個人情報抜いた上で、儂のファンをけしかけただけじゃ。少し痛い目に遭わせてやるくらいのつもりだったんじゃがなぁ……そしたら、こやつ、色んな方向から恨みを買っていた様でな。儂が思っていた以上の爆発炎上をおこしおったわい」
「荒らしを燃やして、反撃した……と。姉ちゃん、性格悪いって言われない?」
「ふん。元々全方向に喧嘩売ってたこやつが悪いのじゃ。儂がやらんでも、他の誰かが火をつけていたじゃろうて。いい気味じゃ」
そう言うと、翠姉ちゃんは興味を失った様に、スマホの画面をスリープモードにした。
「もう良いの?」
「ああ。後はこやつが勝手に破滅するだろうさ。それより、儂は白兎を愛でたい」
そう言うと、翠姉ちゃんは、俺の頭に手を伸ばし、撫でてきた。子供に良い子良い子されている様で、妙な感覚になった。
「翠姉ちゃん、ちょっと恥ずかしい」
「駄目じゃ。姉ちゃんに大人しく甘えるが良い」
そう言って、露骨にボディタッチしてきた翠姉ちゃんと俺の間に、愛狗姉が挟まった。
「はいはい。抜け駆けはダメです」
「……先程は意気投合したんじゃがなぁ」
「それはそれ。これはこれって事で」
そう言って、バチバチと火花を散らす狼と鮫。そんな風に威嚇し合う翠姉ちゃんを見ながら、俺は口を開く。
「……そうだ。話を聞くに、翠おねえちゃん、他人の個人情報盗み見るの、得意だよね? 」
「ん。まぁそうじゃな。儂の漫画以外の趣味の一つは、自分は一歩も動かずに、手も汚さずに、自分が絶対安全だと根拠無く慢心しているネットの厄介な有象無象共を分からせてやる事じゃ」
「……そのハッキング技術で、調べて欲しい奴がいるんだが、頼めたりしないか?」
「ほう! お主も厄介なのに粘着されとるのか? なーに、こういう時こそ、姉ちゃんを頼ると良い。どんな奴じゃ? 大抵の奴には火を点けてやれるが」
「いや、そういうのじゃなくて……クラスの奴なんだが、なんというか、変な奴でな。少し事情が気になってね」
「……白ちゃん、まさかあの中二女が気になってるの?!」
流石は愛狗姉。すぐに、俺が調べて欲しい人物を予想した。そう、謎の絡み方をしてきた転校生、大邦浜かぐやの事である。
「気になっているのは事実だけど……どちらかというと、色っぽい話じゃなくて、純粋に、彼女の正体が気になって。中二病でも、妙な事を言っていたのは事実だし」
昼間言われた事。俺とは前世からの仲だの、あの銀の花には気をつけろだの……。気にならないというのは嘘になる。ま、何もない純粋な遅れてきた中二病ならそれで良いし。
「…………ま。良いじゃろ。クラスの女子。その大邦浜かぐやという奴について、調べれば良いんじゃな! 」
「ああ。頼むよ」
「対価は……儂との一日デートとかでどうじゃ?」
「?!」
案の定、こういう提案をしてきた。まぁ、これ位は許容範囲内だ。ちなみに愛狗姉は、険しい目つきなっている。
「……ま、良かろう。但し、デート中R18な行為は禁止。それで良いなら、デートくらいならしてやる」
「流石我が最愛の甥っ子。話が分かる!」
「ふぅぅぅぅぅぅ! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
とりあえず、契約成立だ。愛狗姉がとんでもない顔で威嚇しているが……分かり切っていた事である。彼女にもなんらかのフォローをしてあげねば。