13.マルチタスクって難しいよね……
身体も心なしか熱い。だが、体調不良という感じではない。
「……愛狗姉。また、ココアに盛ったでしょ!」
「ん~? 何の事やら……」
そう、またである。以前、彼女に媚薬を盛られた時と、今の状態は非常に似ている。その時は、ギリギリ理性で欲望を押さえつけて、大事には至らなかったが、今回も上手くいく保証はない。
繰り返し言うが、愛狗姉は、俺の表面的な真面目な所と、一方で、俺の中に『獣』の部分が宿っている事を、よく理解している。この矛盾した状態に、俺を落とすヒントがある事も。
つまり、俺の中の歪んだ薄汚い欲望を自身へ吐き出させれば、冷静になった後に、絶対に責任を感じて正式に自分を恋人にする事を了承する。そう確信して、そういう攻略チャートを組んでいるに違いない。
実際、この手法は限りなく正解に近い。俺と文字通り、生まれた時から一緒にいる相手だからこそ、ここまで開き直った戦法を取れるのだろう。もしも、俺がそんな事知った事かと、ヤリ捨て上等な人間だったら、この攻略法は破綻する訳で。そこは流石、血の繋がらぬとはいえ、姉である。
「白ちゃん、言いがかりは良くないよ。何か、物的証拠があるのかな~?」
愛狗姉はそう白々しく言うと、わざとらしく足を開いて、M字開脚の形になった。ミニスカートなので、今朝チラ見せしてきたブラとセットであろう、黒いパンティーが丸見えである。
「安い挑発を……」
「ふふ。私、こんな無防備だよ~? 今なら、服をはぎ取っても文句言わないよ~? お父さん達もいないし、襲うなら今だよ~?」
「ダメダメ! 本当に関係持ったらもう後戻り出来なくなるから! 絶対に愛狗姉を泣かす様な事するから! 俺は愛狗姉との、この関係を壊したくないんだよ!」
「私は壊して欲しいの! 白ちゃんの姉じゃなくて、恋人になりたいの!」
いつも通りの水掛け論になるが、現在イニシアチブを握っているのは愛狗姉である。
「トゥ!」
彼女は、現在のM字開脚の体勢から、俺に両手両足で抱き着いて、逃げられない様にがっちりと固定してきた。いわゆるだいしゅきホールド。あるいは変形したイージ〇ガンダ〇である。
「……落ち着け、俺。目の前に居るのは組み付いたイージ〇だ。愛狗姉の柔らかい身体じゃない……今まさに組み付き自爆しようとしているイージ〇なんだ……」
「自己暗示も、どこまでもつかなぁ……?」
そう言って愛狗姉は、俺をニヤニヤと眺めている。俺は気を散らせようと、画面の方に目線を移す。
ちょうど、主人公の母艦同士が衝突寸前ですれ違うシーンだった。
「……アークエンジェ◯の操舵士は、やっぱり何かおかしいよ」
「そりゃあ後にレクイエムを避けた男が操舵してるし……じゃなくて! 私の方を見て!」
釣られて画面を見た愛狗姉も、俺に同意しつつ、改めて俺を見つめる。
「このままキスしてあげるね! それも可愛いやつじゃなくて、とびきりエッチなやつ!」
「止めて、理性が溶ける!」
「溶かすんだよ。躊躇なく、私に手を出せる様に」
そう言って、愛狗姉はディープキスを迫ってきた。俺は首を振って、それに抵抗する。キスを受け入れたら、いよいよ理性が持たなくなる。
そんな中画面では、主人公同士の一騎打ちが始まった。思わず、愛狗姉の意識がそちらに向く。俺も釣られてそちらを見た。
「うわぁ~凄い戦いっぷり。完全にインパル◯を使いこなしてる」
「この時のシ◯ちゃん、完全に狂犬モードだし」
「なまじこの時凄かっただけに、後半のデスティ◯ーの不遇さが際立っちゃったというか、劇場版で本来のポテンシャル出せて良かったというか……じゃなくて!」
愛狗姉は、少し怒りつつ、俺を押し倒した。
「画面を見ないで! 私を見て!」
「離して離して」
「離さない。今日こそ、白ちゃんのエクスカリバーを、私のフリーダムガンダ◯に突き刺してもらうから!」
「例えが最低過ぎる……」
愛狗姉が俺のズボンに手をかけた……所で、まさに画面の中で、フリーダ◯にインパル◯のエクスカリバーが突き刺さった。
「「おぉ〜」」
二人して声をあげる。やっぱり好きなアニメを見ながらエッチな事なんてしようとするもんじゃない。集中力が続かない。