11.勉強をしよう!
放課後。
俺達は帰宅部なので、まっすぐに帰宅していた。部活生活にも憧れが無い訳では無いが、自分の時間の方を大事にしたいというのを優先した。こちとらZ世代なのである。
「さて、課題でもやってしまおうか」
今日は、学校で数学の課題が出ている。自身の部屋でラフな格好に着替えた俺は、問題集を手に取る。正直、理数系は不得手で面倒だが、やらなければやらないで、もっと面倒くさい事になる。
「…………」
とはいえ、あまりやる気も起きない。どうも、数字を見ると眠くなってくる性質なのだ。
「とりあえず、一度リラックスしてからにしようか……」
俺は部屋に鍵をかけると、隠し場所から愛用の助兵衛漫画を取り出す。
話は代わるが、兎は繁殖力がとても強い。例えばオーストラリアでは持ち込まれた数羽の兎が逃げ出して、天敵のいない環境もあって、数年で数億羽にまで大繁殖した例もあるのだ。読者の皆も、安易に外来種を野に放しては駄目だぞ!!
ともかく、そんな兎の名を関した俺も性欲はとても強い。これは必要な行為なのだ。そうしなければ愛狗姉や翠おば……姉ちゃんに悪辣な欲望を叩きつけてしまいかねない。
そんな言い訳をしながらページを開いた所で、突然、愛狗姉から声をかけられた。
「白ちゃん!」
「ギャアアア!?」
「そんな驚かなくても……」
「あ、愛狗姉!? 何でいるんだよ! 鍵をかけてただろ!」
「そりゃあ、ピッキングで一発よ。この家の鍵は単純な仕組みで好きだよ」
「当然の様に鍵開け技能使うんじゃないよ……プライバシーという概念は、愛狗姉には無いの?」
「白ちゃん相手に、そんなものはない……ていうか、お楽しみの途中だった? もう! 私に言ってくれれば、ある程度の事はしてあげるのに……」
そう言って、愛狗姉は俺の助兵衛漫画を手にして、流し読みする。
「あっ、ちょっ?!」
「まーた、こんなもの読んで……ヒエッ?!」
この本は、俺が所持する助兵衛本の中で、ストーリー的に、特にエグいやつである。一見、純愛イチャラブ萌え萌えキュンみたいな絵柄と表紙とは裏腹に、話は人の心が無いの一言で、延々とヒロインの女の子が曇らされ、心身ともに傷つけられ、尊厳を踏みにじられ、最後はガンダ◯SEED無印最終回の准将みたいな状態になって終わる。色々な意味でレジェンドな漫画である。……表紙の笑顔が素敵な娘が、最終的に廃人と化すの、興奮するよね。
「…………白ちゃんの性癖については、今更ああだこうだ言わないけどさ……。お姉ちゃん、色々と心配だわ……この内容はドン引きだよ。エッチな漫画でやって良い展開? これが……? これで興奮するのぉ?」
「頼まれもしないのに人の助兵衛漫画読んで、ダメージ食らってたら世話無いんだよなぁ……愛狗姉に歪んだ欲望を叩きつけていないだけ、褒めて欲しいもんだがね」
「叩きつけても良いよぉ? 少し加減はして欲しいけど」
「駄目です」
「まぁ、良いや。白ちゃんや、一緒に勉強しようよ!」
そう言って、愛狗姉は、数学の問題集を示した。俺はズボンを履きなおしながら、少し訝し気に彼女を眺める。愛狗姉も、既に制服から私服に着替えていた。Tシャツにミニスカートというラフなスタイルである。
「勉強? 何か企んでない?」
「信用無いなぁ……」
「人の部屋の鍵突破して侵入してくる奴を、どう信用しろと?」
「ごもっとも」
「……変な事してこないなら、良いよ。どっちにしろ、宿題はしないといけないし」
「ふふ……そうこなくちゃ!」
「ただし、俺にまたセクハラしてくるなら、追い出すからね?」
「どこからがセクハラになる? 一線はどこ?」
「何でギリギリを攻めてこようとしてるんだよ……」
俺は呆れつつも、自分の問題集を手にすると、立てかけていた折り畳み式のテーブルを出して、展開した。脳内が桃色とはいえ、愛狗姉も頭自体は悪くない。一緒に勉強するのはこちらにもメリット自体はあるのだ。