10.転校生が明らかにやべー奴なんだが……
「……白ちゃんは、私のものだから。狙っているなら諦めて?」
「おやおや、ずいぶん、嫌われているみたいだね」
大邦浜さんは、ハハハと笑う。だが、目は笑っていなかった。
「えーっと、大邦浜さん。何か用か?」
「いや、何か用という訳では無いんだけどね。昼休みに学校を探検していたら、君と遭遇したって訳さ……ところで、二人は血の繋がらない姉弟だそうだね」
「今日来たばかりなのに、ずいぶん詳しいな」
「ま、情報収集には自信があってね」
意味深げに呟いた大邦浜さんは、言葉を続けた。
「単刀直入に聞く。二人は恋人同士、という認識で良いのかな?」
「いや……まぁ、義姉弟以上、恋人みま」
「恋人同士だよ!」
俺が言う前に、愛狗姉が言い切った。
「愛狗姉……?」
「もうあんな事からこんな事まで、なんなら【自主規制】や【自主規制】な事までしてるよ!」
「おーい、愛狗さん?」
とんでもない事を言い切った愛狗姉。待ってくれ、流石にそのレベルまでは行ってない!
そう叫ぶ前に、大邦浜さんは顔を悪鬼の様に歪ませた。
「ほうほう……私の旦那様を、そんな風に辱めていたとは……」
そのまま、イライラした様な口調で言う大邦浜さん。今、地味に、私の旦那様とか言ってなかったか?
「と、いう訳で、もし白ちゃんを狙ってる様なら、諦めて。この白い兎ちゃんは、悪い狼にもう食い散らかされちゃったからさ!」
「はは、やってくれたね……。私と彼は、前世からの仲だってのに、先を越されるとは。……」
前世……?
妙な事を言う。あれか? 遅れてきた中二病か?
「前世だか、なすびだか知らないけど、お帰りください」
しっしっ、と追い払う仕草をする愛狗姉。
一方、それを眼鏡越しに、ハイライトの無い瞳で睨みつける大邦浜さん。
「白兎……そいつに洗脳されているんだね。大丈夫。前世の君のお嫁さんがすぐに助けてあげるから」
「訳の分からない事を言う」
あ、この子、アレか。ヤバい子か? あんまり関わったらダメなタイプか? 電波系ってやつ?
「……そうか、君は前世の記憶が無くなっている様だね……。大丈夫、すぐに思い出させてあげるから」
「ごめんごめん。話が全く見えないんだけど……」
そんな態度をとる俺に、大邦浜さんは少し残念そうな顔をすると、背を向けた。
「……ま、今は良いさ。この話は長くなる。今度ゆっくり話そう」
「ゆっくり話していってね!」
俺が棒読みでそう茶化すと、流石にイラっときたのか、彼女は、笑みを浮かべながらも、確実に不快感を漂わせた独特の顔を作って、振り向いて俺を凝視してくる。
「白兎ぉ~。これは割と真剣な話なんだ。茶化さないでくれないかなぁ」
「それは失礼」
怒りが割と本気な事を察した俺は謝罪の言葉を口にする。
「まったく。あと、とりあえず白兎。あの銀色の花には気を付けて」
「あ、あぁ……えらく唐突だな」
銀の花。今朝ニュースで言っていた謎の毒花の事か。この屋上庭園でも、ポツポツ姿が見える。
「こいつはとんでもない花でね」
「ん……。確かに、繁殖力やら、毒性は凄いと思うが」
「こいつの恐ろしい所はそんな所じゃない」
そう彼女は言うと、近くに咲いていた銀の花を、勢いよく踏みつけた。
「こいつはね。魔の花、なんだよ」
「魔の花?」
聞き慣れない語句を俺は反芻する。
それの詳細を尋ねようとした矢先、昼休みの終了を告げるチャイムがなった。
「こちらも詳細はそのうち! とりあえず、精々、今のうちに姉ちゃんといちゃついておく事だ。……このシ・ス・コ・ン!!」
そう怒りと嫉妬を込めた雰囲気で言って、大邦浜さんは行ってしまった。
「なんだったんだ……一体……」
俺は完全に混乱しながら、去る彼女を見送るしか出来なかった。
「……とりあえず、あれだね。あの女、白ちゃんに惚れたね。しかも、私や叔母様と同類のヤンデレ気質とみた」
「……」
「2人には、絶対に渡すもんか。白ちゃんは私のものだ」
姉も姉で、嫉妬心を露わにしている。どうも、俺はヤンデレ気質な奴に好かれやすい体質らしい。




