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父と子

「んー・・・」

目が覚めるといい匂いがした。朝ごはんが出来上がったらしい。

「おい咲那、起きろ。今日はお前を連れて出かけるところがある」

「はいはい起きてますよ!!」




「んで、どこに向かってるの?」

俺は咲那と門へ続く道を行く。俺はもう迷わない。こいつはこっちの世界じゃ生きられない。なら、帰すしかない。例え俺が死んだとしても、だ。子供を守る父親の役目だ。

「・・・お前には、ある門の向こう側へ行ってもらう。何があっても振り返らないで行くんだ」

「もし振り返ったら?」

「死ぬ」

「冗談でしょ?」

「じゃあ冗談だと思って振り返るんだな」

「えぇ・・・」

そんなくだらない話をしているうちに門が遠くに見えた。そのときだった。

「ロウ、忠告したはずだ」

後ろから聞き覚えのある声がした。酒呑童子様。俺は咲那を抱き寄せて振り返らずに声だけ出した。

「旦那、これが俺の役目なんだ。咲那!早く門の、先に行け!!!」

抱き寄せた咲那を門へめがけて投げた。

「きゃぁぁぁぁぁ?!」

その瞬間に俺は「闇夜の精霊の力よ!今宵私の姿を狼王にしてくれ!!」と呪文を唱えた。

「ロウ、わかってるのか?四天王を敵に回してることを」

「ああ、わかってるさ、でもこれが父親の役目だ」

ちらりと門の方へ視線を向けると、咲那が門の向こうへ行ったのか、丁度ドシンと扉が閉まった。それを合図に俺は酒呑童子様の右腕に飛びついた。




「ん?あの光は・・・」

門を越えると上から光が差していた。

その光を正体を私は知っている。

「ああ、帰ってきたんだ・・・」

大きな岩の上に乗っかりながら進むと、光は青くなり、視界には緑が見えた。青空と森。私が住んでいた世界。

「そうだ、母さん!!!」

私は自宅へ急いで走り出した。緑の地面を踏みしめて。


「母さん!!!」

扉を開いてそう叫んだ。でも返事は無くて、しんと静まりかえっていた。

「母さん?」

誰もいない。病人の母さんが1人でどこかへ行くはずない。なのに寝床にも台所にもいない。

ただ、置き手紙がそこにあった。


咲那へ

母さんは村と森に貴方を捜しに行っています。

もしも家に帰っているなら待っててね。

でも万が一、母さんがずっと帰ってこなかったら台所の棚の奥にある木箱を見つけてほしい。そこに今まで話せてなかった真実を書いた手紙があるのです。死ぬ前に必ず伝えたいからお願い。

母さんより


私は村へすぐに向かった。裸足でもなんでもいい、私は一体どれだけ地底の世界にいただろうか。母さんは私のことをずっと捜してくれているんだ。

「はぁ、はぁ、はぁ」

どれくらい走ったのかもわからない。村を捜し回っても母さんが見つからない。

私は焦っていた。もしも母さんが倒れていたら?

村から出て森に向かったに違いない。

私はただ我武者羅に母さんを捜した。

「母さん!母さん!!どこ?!咲那だよ!!」

森の中を必死に駆けて、私は湖の近くに横たわっている人を見つけた。

「・・・母さん?」

近づいてみると、それは母さんだった。

母さんを抱き寄せて、声をかけたのに母さんは何も反応しなくて、人形のように動かない。

「ねぇ、母さん、私帰ってきたよ、ごめんなさい、私のせいで、私がもっと強かったら地底になんて落とされなかったのに・・・」

「・・・お前さん、咲那か?」

声が聞こえたのは、後ろから。

湖の中から覗く影が見える。

「え、だ、誰」

私は母さんをギュッと抱き締めた。

「おいらのこと、覚えてないのか?瑞吉だよ、河童の。お前さんが小さいときによく遊んだだろ」

湖の中から身体をだしてきた河童を見て、思い出した。父さんがいなくなってからたまに遊んでもらった記憶。でも私は幻の友達だと思っていた。でも現実は、しっかりそこにいた。

「ミズキチ?ほんとに?ねぇ、助けて、母さんが」

「すまねぇ、咲那。月華はもう・・・」

「嘘だ、そんなの、嘘だ、いやだ」

「お前さんがいなくなってから月華は捜し回ってここに辿りついたんだ。おいらたち河童も頑張って看病したんだが、月華は良くならなかった。月華は自分が永くないことを悟った。そんで、手紙を置いていった。おいらたちも苦しいよ、月華には咲那が産まれる前から世話になってたからな・・・月華を家に連れて帰るの手伝うよ」



河童が帰ってから、私は母さんが残した手紙を探した。

「ん、これかな・・・」

細長い木箱を見つけた。それをそっと机の上に置いて、箱を開ける。

「ん?あれ、これって・・・」

中には手紙と小さな石が入っていた。あの人狼と同じ色をした石だ。

「とにかく、手紙を読もう」


咲那へ

これを読んでるということは母さんはもういないのね。咲那には伝えてないことがあるの。

実はね、貴方のお父さんのことなんだけど、その人は人じゃなくて妖怪なの。お父さんがいなくなったのはね、お父さんが妖怪だから、村の人に殺されないように地底に帰ってもらったの。咲那だけお父さんがいなくて村の子供に虐められたことに気づけなくてごめんね、辛かったよね。

一緒に入れてある石はお父さんからの贈り物よ。今まで本当にごめんね。

母さんより


手紙を読み終わってから、もう一枚紙が重なっていることに気づいた。

その紙には、殴り書きで文字が書かれていた。


『ミナモニウツセウツセカコヲキザメ』


「水面に映せ映せ...過去を...刻め?」

読み上げた瞬間だった机に置いていたコップの水がキラキラと光った。その中を覗いてみると、親子がいた。よーく見てみると、母さんの顔がそこにあり、幼いころの自分。そして、父親は─────。


「嘘でしょ、父さんって・・・」

親子が映った水はちゃぽんと音をたてて消えて、代わりに文字が浮かび上がった。「母さんと父さんはお前の味方」と。

「母さん、私、母さんのことも父さんのことも好きだよ。だから、私父さんに会ってくるから」

再び、地底に行く為に。私は地上に戻ってきたあの場所へ走り出していた───。



「ロウ、そのまま噛みついたままよく聞け」

「!?」

酒呑童子様の腕に噛みついた俺は小声でそう言われた。

「言っただろう、俺様はお前の味方だ。今四天王の3人がこの場所に来ることだろう。きっとお前は殺される。けど一つだけお前もあの娘も生き残れる方法がある。それは、俺様とお前が組むことだ。正直俺様は面白いほうにつきたいんだ。あの頃のように、暴れられる機会はここしかない。ロウ、俺様と組もう。タイミング見て俺様が裏切るから、それまでは一人で頼む」

ほんとにこの鬼はイカれてると俺は思った。

かつての俺みたいに興味で動く生き物。

自分に危険が迫ってもそんなの関係なく、興味に引かれて飛び出していく。

「ほんっと、酒呑童子様、お前と俺は似てるから嫌いだぜ」

「ああそうかい、じゃああとで」

互いに距離をとったと同時に他の四天王がやってきた。四天王集結。

「今度こそお前を殺せるぜ」

「人狼の始末をしてから、地上に連絡をとって人間を、いえ、人狼を始末します」

「酒呑童子様ァ、暴れてもいいんだよなぁ」

「ああ、そりゃもう骨が粉になっちまうくらいにな」

これが地底の四天王。

酒呑童子、茨木童子、金熊童子、星熊童子の四名。かつて地上世界で暴れまわったとされる鬼たちの大将。

酒呑童子様が後で裏切るとわかっていても、俺はまず3人の四天王を相手にしなければいけない。

「お前の人生はここで終了だ、覚悟しろ」

星熊童子様の拳が飛んでくる。なんとか跳んで避けきるが、後ろに気配を感じる。

「それは計算済みです」

茨木童子様の蹴りを食らい、吹っ飛んでいく。

「くっ───」

地面に強く身体が打ちつけられる、起き上がる暇も無く、目の前に金熊童子様の大きな影と持ち上げている大岩の影が目に映った。けど俺は死ぬなんて恐怖も無く、ただ、勝利を確信した。

「残念だが、俺の勝ちだ」

「は?お前、何を言って────」

次の瞬間には金熊童子様は吹っ飛んで壁に埋まっていた。そして、俺の目の前に嫌いな鬼が立っていた。

「ロウ、お前の演技凄かったぜ」

「そりゃありがとさん、あとは本気でやるだけだ」

他の四天王はキョトンとしたあとに、理解したのか怒りの表情が見えてきた。

「酒呑童子様、いや、貴様ぁぁぁぁ!!!俺らを裏切ったなぁぁぁぁぁ!!!」

星熊童子が突っ込んでくる、デカイ図体の拳に一つでも当たれば骨が折れるに決まっている。

それを酒呑童子様が素早く交わして足を引っかけて転ばせる。その隙に金熊童子は壁から抜け出し、茨木童子は俺と酒呑童子様に岩を投げて目眩ましをし、金熊童子が突っ込んでくる。

「お前ら良い連携してんなぁ!」

「黙ってください」

茨木童子はそれだけ言って爪を立てた左手で攻撃。頬をわずかに擦った酒呑童子様から血が流れている。俺は茨木童子の足に食いついて、動きを止める。

「茨木童子、すまねぇが、今は寝てろ!!」

酒の入った瓢箪をぶん回して茨木童子の顔に当てる。茨木童子は頭から血を流し、意識が朦朧としだしたのか、立ち上がれなくなっている。

「ロウ、時間稼ぎしろ、巨大化する」

「わったよ、任せてくれ、旦那」

俺は素早く動き、金熊童子の腕に爪を食い込ました。

「このクソ大狼!!!」

頭を掴まれ、力を加えられて頭が潰れそうになる。「ガッ───」頭の痛みになんとか耐え抜き、更にもう片方の腕も爪を立てて顔めがけて引っ掻いた。

「いてぇぇぇ!!!」

星熊童子は酒呑童子様とやり合っている。茨木童子もまだ起き上がっていない。倒すなら今この瞬間だ。

俺は金熊童子の腹を蹴って跳んだ、そのまま4本の足の爪を極限まで立てて飛びついた。

のだが、金熊童子は地面に向かって息を吹き、砂埃で身を隠した。俺は狼の嗅覚がある。匂いでわかった瞬間に前足で裂こうとしたが金熊童子の方がほんの少しだけ速かった。腹に強烈な拳を食らった俺は吹っ飛ばされ、大狼状態から普通の姿に戻ってしまった。

「ロウ!大丈夫か!」

「よそ見してるんじゃねぇよ!!!」

酒呑童子様は星熊童子の蹴りで体制を崩され、体当たりされた。すぐに起き上がるが、攻撃の嵐は止まない。

俺は起き上がれずにいた。長いこと大狼状態でいた為、反動で動けない。そして妖力も低下している為、もう一度使うこともできない。

「くそ、せめてあのナイフさえあれば・・・」

咲那にあげたあのナイフは、人狼族に伝わるもの。咲那は俺の血を引いているからあのナイフを護身用として渡したが、地上に返すなら返してもらえばよかったとか思い始めてきた。でも向こうの世界にも妖怪はいるんだっけな。じゃたあげておいて正解か・・・。

「どうした人狼、諦めたか」

金熊童子が近づいてくる。

おい、何してるんだよ俺。情けねぇなぁ!俺は娘を護るんだ。父親として最期まで、しっかり闘えよ!

ズキズキと痛む腹を抑えて俺はなんとか立ち上がった。

「はぁ、はぁ・・・金熊童子、俺はまだ闘えるぞ」

「そんなぼろぼろで何を言ってやがる、おいらが止めをさしてやるよ」

金熊童子の拳がまたくる。でもおかしく見える。

ああ、これが死ってやつなのかなぁ。

さっきまであんなに速かった拳がスローで見える。

なぁ、兄さん、自分勝手で悪かったよ。

俺もジン兄さんみたいに大切な奴を護りたかった。俺もそろそろそっちに逝くよ。

「ロウ!!お前はまだ死なせない!!!」

「!?」

はっと我にかえると、酒呑童子様から何かが飛んできた。

「受け取れぇぇぇぇ!!!!」

右手で素早くキャッチすると、握った感触でそれが何かがすぐわかった。俺は金熊童子の向かってくる拳にそれを当てた。

金熊童子の拳からは血が出ていた。

「おかえり、俺のナイフ」

「なんなんだよぉぉぉ!!!そのクソナイフはよぉぉ!!!2度もオラに傷つけやがったなぁぁぁ!!!!」

「さぁ、ロウ!!!」

「ああ、わかってる!!」

俺はナイフを握り直して『回復の薬』を飲んだ。

「ここからは俺たちのターンだ」

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