妖怪と人間
家に着いたのはいいが、ロウがなぜかいない。
「あらま、これは酒呑童子様ロウを抱えたまま家に向かわずにそのまま宴会に向かったパターンだね」
土蜘蛛が呆れたように言った。
ということは私は家で1人?
そう思ったのだが土蜘蛛が突然私の手を握って歩き始めた。
「じゃあ宴会場に行かないとね~」
「え、妖怪がいっぱいいるんでしょ?!やだよ!」
「でもお嬢ちゃん、私とロウにはちょっとは懐いてくれてるんじゃないの?妖怪だって人間と同じよ、ただ姿形が違うだけ。本当に嫌なら今ここで私を殺そうとするでしょ?」
確かにそうだ。少しだけ心は許している点はある。でも妖怪はやっぱり怖い。人と同じくらいに。でも本当は人間が一番怖いのかもしれない。
「・・・わかったよ、行く」
「じゃあはぐれたり拐われないようにちゃあんと糸で繋ぐね」
「酒呑童子様すげぇ!!!これで17943連勝ですよ!!」
「流石我らの酒呑童子様だ!!」
何やら周りが騒がしい。宴会でもしているかのように。ん?宴会?
俺ははっと目を覚まして辺りを見回すとそこはいつもの宴会場で、妖怪達がバタバタと酔いつぶれている真ん中で豪快に酒を呑んでいる酒呑童子がいた。
「は?俺は確か咲那を・・・」
「あらロウ、起きたのねぇ。お嬢ちゃん、ロウ起きたよ」
「絡芽さん?どういうことだ???」
「え?あんた倒れたんだよ、そんで酒呑童子様があんた抱えて宴会場に行ったから、お嬢ちゃん1人にしたら危険だと思って連れてきたのよ」
確かに、1人にした方が危ないかもしれないと少し納得した。それにどうやら絡芽さんは咲那と糸で繋いでるらしいからはぐれないで済む。
「てか俺、負けたのか」
「まぁまぁ、そんな落ち込まないで、ロウがそんなんじゃあの娘まで落ち込んじゃうよ」
咲那の方を見ると、その表情は申し訳なさそうな顔をしていた。俺はこいつにこんな顔をしてほしくない。
「・・・ほら!呑むぞ!!今日は呑むぞ!!」
「あっれー!ロウじゃねぇか!!なんだオマエ珍しいな!!じゃあおいらと勝負しようぜ!」
助さんが酒瓶を10本追加し、俺は勝負をすることになった。
「勝負内容は簡単だ、5本先に呑みきったら勝ちだ」
「今の俺に勝てると思ってるのか助さん」
「じゃあ絡芽の姉貴、審判任すぞぉ」
「はいはい。よーい、ドン!!!」
俺は1本サッと手に取りそのまま蓋を明け直呑み。助さんもゴロカラゴロカラ鳴らしながら呑んでいる。・・・ところでスケルトンって食べたり呑んだりしてどこにそれが溜め込まれて満腹になるのだろうかという疑問が出てきたが閉まっておこう。
「お嬢ちゃんは何か食べたいものか飲みたいものあるかい?」
「えっと・・・」
「お酒、水、お茶、味噌汁、刺身、ししゃも、胡瓜の漬物とか色々あるよ」
「じゃあお茶と刺身で・・・お願いします」
「はいよー、じゃあ取ってくるから。席離れるから糸伸ばしとくからね」
そう言って私が頼んだものを取りに行ってくれた。行くまではちょっと怖かったけど、来たら想像と違ったというか、なんというか、楽しい雰囲気で少し落ち着いた。食べ物とか普通で良かった。 グロいもの食べてると思ってたらホントに普通だった。
「はい、持ってきたよ」
「あ、ありがとう・・・」
「あれ、ロウはどこだい?」
そういえばずっと呑んでたはずなのにいなくなっている。ぼーっとしていて気がつかなかった。
「姉貴ぃ!ロウはなぁ、今酒呑童子様と呑んでるぞぉ」
「あらそうなの。ところで助さん、どっちが勝ったんだい?」
「おいらだぜ」
「あぁ、だから酒呑童子様と・・・」
「そういうことだぁ」
「え?どういうこと?」
「ロウ、負けず嫌いなのよ」
言われると納得する。さっき勝つ気でいたのに負けたから別の妖怪に挑んでいるわけか。遠くで騒がしい声が聞こえる。きっとあそこで呑んでるんだろうな、なんて思った。
「・・・助さん、水としじみ味噌汁は用意してるんだろうね」
「もちろんだ姉貴、酒呑童子様と呑むんだ、人間よりは強いがやっぱり人間と同じように必要だ」
私は呆れながら刺身を食べ進めた。
「う゛ぅ・・・」
現在、私の目の前には呑みすぎてぶっ倒れた人狼がいる。
「またまた俺様の勝ちだ。いつもよりリタイアが早くないか?」
そのぶっ倒れた人狼を上から眺めている鬼が1体。酒呑童子だ。
「うるっせっ・・・うっ」
「酒呑童子様やっぱ強いっすねぇ、まぁ今日は先においらがロウと勝負してたんできっとそれでいつもより早くリタイアになったんですよ~」
「ほう、助とやってたのか」
「酒呑童子様、ロウを回収していいですかね?」
「おう土蜘蛛、いいぞ」
私と土蜘蛛は人狼を抱えて席に戻ってしじみ味噌汁を飲ませた。
「・・・あぁ、生き返る」
「あんたねぇ、いい加減にしなよ」
「あいよ~、咲那ぁ~帰るぞぉ」
「この酔っぱらいを任せたよお嬢ちゃん」
私はこくりと頷いて人狼の肩を持って帰路を辿っていった。