四天王会議
「酒呑童子様」
酒呑童子は盃片手に相手の目だけ合わせた
「人間をロウに監視させるとはどういうことだ」
視線の先にいた星熊童子は不満で怒りに満ちた顔をしていた。
酒呑童子はそれでも動じることなく酒をぐっと飲み干しては酒をついだ。
「俺達は認めていないぞ。なぜあいつに面倒見させるんだ!!!いくら酒呑童子様でも俺は許せねぇ!」
「・・・なんでって、そりゃあいつがそういう立場だからだろ」
星熊童子がイライラとする中でもススッと酒を呑み進める。
「星熊童子、少し落ち着きなさい。酒呑童子様、私も反対ですよ。あの子は過去に過ちを犯しています」
右腕の無い空白に包帯はぐるぐると巻いている形は腕そのものでまるでそこに腕があるのではないかと思うが、彼女に右腕はない。尖った歯と容姿とは対称的なその声はお坊さんのような優しくも厳しくもある。
「茨木童子か。お前さんも反対なのか。一緒に暴れまわった仲じゃないか」
「・・・酒呑童子様、それは昔の話でしょう。今はもう、閻魔様から授かった我々の掟がありますので」
酒呑童子は酒を呑む手を止めた。
「掟ねぇ、『四天王は閻魔様直々の指名。指名された者同士では平等な立場、昔の縁は関係ない』だろ?わかってるって。でもよ、実力の差は明らかだろ?何十年、何百年経っても俺様があの頃から最強」
「それは昔のことだ!」
星熊童子が殴りかかろうとするところで茨木童子が止める。
「確かに酒呑童子様は強いですよ。我々のリーダーだったわけですし。ですが、いくら貴方が強くても、我々が力を合わせて貴方に立ち向かえば流石に無理だと思いますけどね。とにかく、私たちはあの人狼に任せるのは反対です」
茨木童子は酒呑童子の強さ、昔の立場は認めていた。だが、この世界に来てからは、この立場になってからは賛成も反対も意見をきっぱり伝えるようになっていた。
「反対ねぇ・・・ところで、あいつはどうした?」
四天王の3人は顔を見合わせた。
星熊童子はチッと舌を鳴らした。
「どうせそこら辺歩き回ってるんだろ」
「あの方は滅多に来ないですからね」
元大将で酒呑み、頭もよく好意的な酒呑童子。
元副将で話のわかる女の鬼、茨木童子。
戦闘能力も高く、戦場では部下を引っ張っていた星熊童子。
そして怪力で、昔は山の北を護っていた強き壁である黄金色に輝く毛色をした赤鬼。
以上が地下世界の四天王四名である。
「ヘックション!なんか噂されてる気がするな」
黄金に輝く毛色をした大きな身体の鬼が一人、大岩の上に座っている。
「あ?なんだあそこにいるガキは」
鬼はその人物の元へ跳ぶ。忍のように素早く、弾むように。そしてダァァン!と大きな音が響き渡った。
「ひゃあ!?」
鬼が地面に足をついたとたん、砂埃が吹きおこる。
「お前、人間か?」
「ひぃ!!鬼?!」
声を上げた人間は咲那だった。震える手でナイフを握って鬼に向けるが、鬼は全く動じない。
「噂の人間ってお前のことか、そうかそうか。オラが喰ってやろうか」
鬼が一歩、また一歩と近づく。
「こ、こっちに来ないで!!」
「そんなナイフ1本で何ができるってんだ?オラはお前を喰う、そしてロウを殺す。これで地下世界は平和になる。ああそうだ、地上の人間を一匹残らず喰おう。お前の母ちゃんも喰ってあの世で会わせてやろうか」
最後の言葉を聞いた途端、咲那はナイフをぎゅっと握りしめて鬼を刺そうと走り出していた。
「オラの硬い皮膚にゃそんなナイフで傷一つつかねぇよ」
鬼はその場を動きもせず、咲那を見下していた。だが、それがいけなかった。
「・・・は?」
鬼は自分に何が起きたのかがわからなかった。何か鋭く硬いものが体に入ってきた。
「このガキぃぃぃ!!」
鬼は咲那を投げ飛ばした。
「い゛っ!!!」
「咲那のやつ、遅いけど大丈夫かな・・・念のため絡芽さんにあとをつけてほしいとは言ったんだけどな」
咲那はまだ妖怪に対して警戒心を解いていないから、妖怪も人間と同じようなやつらがいることを知ってほしかった。警戒心が少しでもなくなれば地上へ戻るなんて考えを持たないはずだと思ったのだ。地上へ帰したい気持ちもあるが、掟を破れば咲那は罰を受けなければいけなくなる。だからこの地下世界で生きることを選んでほしい。
「ロウ!大変だよ、金熊童子があの人間と接触したよ!」
突然絡芽さんが走ってやってきてそう言った。気がつけば俺は走り出していた。
「このガキ、本当に人間か?よくもオラに傷をつけやがったなァ!」
赤鬼、金熊童子は転がって動けずにいる咲那の腕を掴み上げた。
「若い女は食べ頃だなぁ!昔を思い出すぜ!!!昔はよかったなぁ!!暴れ放題でよぉ!」
「い、痛い!離して!!!」
咲那はじたばたと暴れるが、金熊童子には子犬がきゃんきゃんと吠えてるようにしか見えていない。
「さぁてどこから食べようか?」
「金熊童子様!!!!どうかその人間を離してやってください!!」
金熊童子が振り返ると、そこにはロウがいた。
「お前みたいなやつにオラが耳を貸すと思ってるのか?この人間がほしけりゃ、オラを倒してでも止めてみろよ、まぁオラのほうが強いがな」
「・・・わかりました。では貴方と闘います」
ロウはポケットから綺麗な水色をした丸い石のついたペンダントを取り出し、首から下げた。
深呼吸を1つして、丸い石を見つめながら呪文を唱えた。
「闇夜の精霊の力よ、今宵私の姿を狼王にしてくれ」
石は輝きだし、ロウの体はみるみるうちに黒い大きな獣となり、眼はギロリとし、赤色に染まっている。牙も爪も鋭いく、なんでも切り裂くことができそうなくらいだ。
「そんな借り物の力でオラを倒せるのか?」
金熊童子は咲那を投げ捨てた。
「わっ!?」
咲那が吹っ飛ぶ。だがその瞬間に糸が伸びてきて、クモの巣ができあがり、咲那はクモの巣の上にいた。
「お嬢ちゃん、危なかったねぇ。間に合ってよかったよ。そこにいな、私はロウの援護しなきゃだからね」
「なんだお前ら、オラに2人がかりなら勝てると思ってるのか?」
「金熊童子様、私はこの人間のこと好きなの、食べられちゃ困るわ。それにロウだってこの人間のこと好きなんですよ?」
「そんなこと知るか、ロウを信用してないやつはオラ以外にだっている」
金熊童子はロウに襲いかかった。
「ガァウ!!!!」
獣と鬼が取っ組み合い。金熊童子は力をどんどん込めていき、ロウを投げ飛ばそうとする。ロウは金熊童子の腕の中で踠き、爪を立てるがナイフくらいの傷しかつけられず。
「ロウ!もう少し頑張ってな!」
「土蜘蛛!私も何か手伝わせて!」
「嬢ちゃんは引っ込んでな!はぁー!!」
土蜘蛛は少し太い糸を金熊童子に向かって放った。金熊童子の背中にベタッとひっついた。そして思いっきり引っ張った。
「ああ?蜘蛛野郎、オラをそんなもので止めれると思ってるのか?」
私は土蜘蛛の糸を一緒に引っ張る。
「人間だからって私をなめるなー!!!」
「いいねぇ嬢ちゃん、いい根性ね!」
金熊童子の身体が一瞬緩くなった。その瞬間をロウは見逃さず、するりと抜け出し、後ろへ周り、腕に噛みついた。
「このクソ狼ィィ!!」
金熊童子は素早く回転をし、ロウを吹き飛ばす。バランスを崩したロウの足を掴み、地面に叩きつけ、トドメの一撃をくれてやろうとしたときだった。
「金熊童子、もうやめろ」
金熊童子の肩を掴み、岩へと投げつけたのは酒呑童子だった。
「何をする!!」
「一旦落ち着け。これ以上手を出すなら俺様と闘うか?」
「嫌だね、酒呑童子様と闘うのは面倒だ」
「なら退け。俺様今日は宴会に行くんだ、酒を不味くするような事をするんだったらお前を潰すぞ」
「・・・チッ」
金熊童子は素早くその場を去っていった。
それを見送った酒呑童子は転がって大狼状態じゃなくなっているロウのもとへ近づき、片手で持ち上げて担ぐ。
「土蜘蛛、人間、ロウの看病は任したぞ」
それだけ言って、地面を思いっきり蹴り跳ばして跳んでいった。