妖怪商店街
「むー、どうしよう」
私は朝起きて、妖怪がいないことに気づいた。
逃げるべきか、とどまるべきか。
正直、ここは妖怪の世界だから逃げたところで捕まって喰われる可能性がある。
だからといってここにいてもあの妖怪に喰われるかもしれないのだ。
「うーん・・・てかお腹空いたなぁ」
何も食べていないせいか、お腹が空いている。
「お、ガキ起きてたか」
いつの間にか妖怪が帰ってきていた。
「ガキじゃない!!」
「お腹空いてるだろ、とりあえずこれでも食っとけ」
投げられたものを捕まえる。
魚の干物。おそらく酒のつまみだろう。
「・・・アル中なの?」
「そうかもな、ここのやつらは暇だからほぼ毎日宴会開いて呑んでるからな」
「妖怪は気楽でいいね」
干物にかぶりつく。
美味しくて美味しくて、すぐに食べ終わってしまった。
「さぁて、しょうがねぇから人間が食えるもの買うか。ほら、こい。来ないと餓死コースだぞ」
「・・・ついてく」
「あー、ちょっと門に寄るぞ」
俺はしっかり門が閉まっているかどうかを確認しに行く。
「よし、大丈夫そうだな」
「ねぇ、これどこと繋がってるの?」
「・・・」
俺はガキの質問を無視して歩き出す。
うるさい声が聞こえるが、無視だ。
喋ると掟を破る可能性があるから───
商店街の入り口に到着する。ここはいつも妖怪でいっぱいだ。
「ほら、ここだ。ここには何でもある、食べ物、酒、道具、薬。ああそうだ、はぐれるなよ」
「はいはい、わかりました」
適当な返事だが、ちゃんとついてくるあたり意外と聞き分けがいい。
妖怪混みをかき分けて、食べ物屋を目指す。
「ほらここだ────」
後ろを振り向くと、そこに咲那の姿が無いことに気づく。
「咲那ぁ?!どこだ!!」
まずい、ここではぐれるなんて────
あいつ、死ぬぞ?
「ちょっと?!離してよ!!」
道から外れた暗い路地に私は妖怪二体に捕まった。
「人間の肉なんていつぶりだろうなぁ」
「しっかしよくこいつを連れてこれましたね親分、ロウが居たのに」
「ははっあいつなんて大狼状態になってなければチョロいもんさ。さぁてどこから食べようか?」
長い舌を伸ばしてくる妖怪と、尖った爪を向けてどこから切ろうかと悩む妖怪に私は恐怖を感じて、気づいたら勝手に涙があふれでていた。
「た、助けて!!!」
そう叫んだ瞬間だった。黒い大きなモノが吹っ飛んできた。
「ガァウ・・・」
「や、やべぇ!!大狼状態のロウじゃねぇか!!逃げろ!!」
大きな黒い体。眼はギロリと紅い色が光っている。牙は鋭く、毛は逆立っている。頭は1つしかないが、それは地獄の門番、ケルベロスのような生き物だ。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」
妖怪たちは逃げ去っていった。
大きな狼はそれを見ると姿が人間の形になっていき、ロウがそこに立っていた。
「はぐれるなって言っただろ。ここは妖怪だらけだ、気をつけろ。ほら、手出せ」
「・・・はい」
ぐいっと手を引かれ、妖怪混みの中をかき分けるようにして目的の店へ向かった。
「ほらここだ」
ぱっと手を離して人間が食えそうな食べ物に手を伸ばした。
「それ、なに?」
「漬け物だよ、フキノトウの」
「ふーん・・・」
他にタンポポの漬け物とコウモリの肉。塩、水と酒を手に取った。
「これ買ってくぜ」
「はいよー、60万円だ」
「はい6000円」
「まいどありー」
冗談をスルーして咲那と手を繋ぎ直し、帰り道を歩く。
妖怪通りが少なくなってきたところで手を離す。
「・・・父さんに会いたいな」
ボソッと咲那が呟いた。
「父さん?」
「よくフキノトウの漬け物を買ってきたなって」
「・・・ふーん」
そのあとはなんとなく無言で家に帰った。
フキノトウの漬け物と味噌汁を食べさせて俺は門の前に立ちに行った。少しお腹が空いていたから酒を片手につまみを食べた。そうしていると、何やらデカイやつが、俺の大の苦手な鬼がやってきた。
「旦那、なんの用だ」
「ロウ、お前まさかとは思うが掟を破るつもりなのか?いや、破らせるのほうが正しいか」
「何が言いたいんだ、旦那」
「お前、あの娘をどうする気なんだ?」
言葉が詰まる。
「帰す気、あるんじゃないか?」
「・・・俺は門番だぞ」
「正直、他の鬼共はお前を信用していないぞ」
そんなことはわかってる、だって俺は────
「ロウが俺様のことを嫌ってるのはわかってるけど味方だぞ。だからこれは忠告だ。あの娘をどうするのか、しっかり考えろ」
それだけを言い残して酒呑童子は帰っていった。