四天王集結
「閻魔様が言ってた場所はこの辺りか?茨木童子」
「ええ、そうです酒呑童子様」
「おいらたち四天王をこんな妖怪通りが少ないところに集めるだなんてどういうことだろう」
「・・・・・へっそんなこと考えなくていいだろう。何やら、問題がすぐそこに来てるぜ、下からなっ!!!」
四天王の鬼達がいっせいに地面を蹴り高く跳ぶとほぼ同時に、地面が大きく割れた。一頭の獣が地面を突き破ったのだ。
「こりゃデカイなぁ!」
「酒呑童子様、何を呑気なことを言うんですか」
「そうだぜ。コイツは忘れもしねぇ」
「ああ、おいらも覚えてる。」
「「「人狼のジンだ」」」
────15年前。
「・・・来ましたか、貴方が一番乗りですね。四天王の茨木童子様」
門の前に人狼が立っていた。
「そこにいるということは、どける気は無いということですよね」
人狼は笑って言った。
「ええ、もちろんそうですよ。弟の為なのでね」
「だとしたら、これはどういうことですか」
茨木童子は白い紙を突き出した。
「そのままの通りですよ」
「大狼をさらに巨大化、強化して、【地上世界を滅ぼす】ことがですか???」
人狼は悪の顔をして笑った。
「あははは、そうですよ。いいでしょう?あの愚かな人間共を皆殺しにするんですよ!!!」
「何故ですか。貴方の弟は人間の、地上世界に興味があるのでしょう?弟の夢まで壊すのですか」
「ロウは帰ってくるさ、あいつ弱いからさ、人間に虐められて、僕のところに必ず帰ってくるんだ。だから僕が救ってあげるの。だから弟のところには行かせないよ」
2つの影が人狼の後ろから襲いかかった。
「星熊童子様と金熊童子様、ダメですよ、正々堂々と闘わなきゃ」
人狼は軽々と交わして魔石で自分の首を刺した。その途端、闇に包まれて現れた姿は獣だった───────。
「グハッ・・・ハァハァ」
人狼は意識が朦朧としていた。
やっとの思いで四天王の3名は人狼を倒したのだ。
「まだ、地上世界を侵略しようと考えてますか?」
「・・・弟だけは、助け、て、ください」
「・・・貴方は信用できません」
「ロウ、だけは、嫌だ、ぼくから、かぞくを、うばわ、ないで」
その後、閻魔様と茨木童子はジンを封印しに行った。
目の前には、15年前とは比べ物にならない獣がいた。
「貴方はまだ、諦めていないようですね」
封印が解かれた際に、その場にいたはずの弟には目もくれず、地上を滅ぼしに行こうとするなんて。15年の地獄それ以上の封印のせいで心が壊れてしまったのですね。貴方は耐えられなかったのですね。弟への愛だったはずが、歪んでいって、何のために地上を滅ぼさなければいけないのかも分からなくなって、でも地上を滅ぼすという目的だけが脳に残っている。醜い生き物。本物の妖怪だ。
「今回こそ、コイツを殺すべきなんじゃねぇか?!」
「おいらもそう思うね」
「いや待てお前たち。閻魔様からは拘束優先と言われてるはずだ。茨木童子、そうだったな?」
「はい、閻魔様からここで何かがやってきたらそいつを拘束しろとのご命令です」
「チッ・・・だけどよ、こいつ、前よりもデカイし強い。拘束するのに時間はかかるし、都市に被害が出ないようにしなきゃならねでんだろ?!」
そうなのだ。時間さえあれば拘束はできるだろう。だが、それまでの間に都市に被害が及ぶ可能性がある。でも大丈夫だ。
「それを見越して閻魔様が結界を張ってくださったようだ」
「じゃあおいらたち、暴れ回っても大丈夫だな」
目の前の獣が襲いかかる。
金熊童子が獣の大きな腕を掴み、地面に叩きつけた。その間に酒呑童子様は巨大化する準備をし始めた。星熊童子と目を合わせ、アイコンタクトをとる。
「破ッ!!!!」
星熊童子が硬い地面を一撃で叩き割ったタイミングで妖力を全集中させ、割れた地面を柱のように伸ばして獣の周りを囲った。そしてそれを思いっきり倒して獣が逃げられないように押し潰す。ドオォォォォンと鈍い音が響き渡る。
「まだ、動けるようですね」
相当なダメージを負ったはずなのにその獣は立ち上がろうともがいていた。
「チッ面倒な野郎だな」
「ッ!!!何やら様子が変です。気をつけてください!!」
獣は毛を逆立てると、何も無かった空間に氷を生み出した。それを操り、勢いよくこっちに飛ばしてきた。
「破ッ!!あぶねぇな!」
間一髪で地面から壁を生み出して、防ぐ。だが、上から氷の雨が降り注いだ。
「氷魔法、厄介ですね」
「おいらの硬い皮膚が無かったら星熊童子たち危なかったなあ」
金熊童子が大きな体で私たち3匹を護る。
「酒呑童子様、どうですか」
「ああ、もうそろいけるぞ。やつの動きを一瞬でいい、星熊童子、止めろ」
「ははっこの状況での無茶振りか。やっぱ変わってねぇなぁ!!!!おもしれぇ!やってやるよ!!!!」
星熊童子は氷の雨の中に飛び込んだ。
大きな氷の塊が次々に飛んでくる。それをひょいと交わしたり、拳を振り下ろして割ったりして徐々に獣へ近づいた。
背後を取ると、硬い大きな氷を掴みあげて投げた。後頭部に直撃し、一瞬緩んだ。その瞬間を酒呑童子様は見逃さず、気づけば巨大化し、6メートルになっていた。
酒呑童子様は獣を掴みあげて地面に叩き投げ、残っていた氷の塊を投げつけた。
「まだ、意識があるようです」
「手強いな」
「おい酒呑童子様、まさか、仲良かったからって手加減してないよな?」
「んあ?・・・手加減、というか楽しんでるっていうほうが合ってるかもな〜」
元のサイズになった酒呑童子はこの状況下で頬を赤らめてにへらっと笑ってみせた。手には酒が永遠に出てくるという瓢箪を持っている。
星熊童子らは頭を抱えたが、やがて星熊童子と金熊童子はニヤリと笑った。
「このッ酔っ払いが!!!」
「この感じ、懐かしいっおいらたちが暴れ回っていたあの頃のようだ」
「はぁ、じゃあ盛大に暴れてください。援護はしますので」
茨木童子だけは冷静に見えるが、内心少しばかりワクワクしていた。
地上で暴れ回ったあの日々。悪鬼として各地を暴れ回っていた、酒呑童子とその仲間たち。久方ぶりの共闘。
「真面目に仕事?んなのやってられるかぁ!!人生楽しんだ方がいいんだよッ周りなんて気にしてられっか!!!」
「このでけぇ獣なんて、アイツらに比べればどうってことない!!」
獣がまた氷の塊を大量に作り出し、氷の雨が降り注ぐ。
「操ッ」
茨木童子は左手を地面につけてそう唱えた。すると、先程散らばった割れた地面の破片が集まり、酒呑童子たちの上を浮遊し、氷の雨から守ってくれるように酒呑童子らの動きに連動し始めた。
「さぁて、どこまで俺たちを楽しましてくれるかなぁ!ジン!!!!」
氷の雨が降りそそぐ中を一気に駆け抜ける。
獣が遠吠えをし始めた。獣の周りにできた氷が一点集中し、形を変え始めた。大きな氷の剣ができあがり、獣はそれを咥えた。氷の雨が激しくなった。
「気をつけた方がいい、かなり鋭利になってきてるし、細かい攻撃だ。おいらの皮膚でもギリギリ防げるぐらい鋭いぞ」
時々小さな氷の粒が肌をかすめていく。
酒呑童子が獣の間合いに入った。その瞬間、獣は氷の剣を振り回した。
「思ったより攻撃速度が速いな」
「どうする?酒呑童子様、この氷の雨の中であいつ剣をぶん回してるんだが」
「あの氷の剣をどうにかしたいな、剣の扱いが凄まじい」
音を一瞬置き去りにする素早い剣術。
「・・・金熊童子と星熊童子で気を逸らす、その間に酒呑童子様がヤツを押さえるか、氷の剣を折ってください。そうしたら、私が妖術を使います」
「ああ、わかった」
金熊童子と星熊童子はアイコンタクトをとり、左右から攻め始めた。
酒呑童子は獣が背後を見せた瞬間を狙う。
「どんなにすばしっこくて強い者でも、失敗は必ずある」
獣は剣をブンブン振り回し、背後を取られそうになれば氷の雨でカバーした。
なかなか隙がうまれないと思われるが、酒呑童子の目は見逃さなかった。
「・・・ここだ」
獣が氷を出す瞬間、一度氷を作り出した空間に再度すばやく氷を作り出すのに1秒。別空間に作り出すのには2秒かかる。
酒呑童子はそのことに気がついた。ならば、あとは読み合いだけだった。
獣が跳ぶその瞬間に、酒呑童子は氷がしばらく作り出されていなかった空間を走り抜け、脚を掴んだ。
「侵ッ」
茨木童子が妖術を使った。
他人の心に干渉することができる妖術だ。