封印された兄
5日経ってようやく体が完全復活した。
だから今日はあの石を持って地図を見ながら兄の居場所を突き止める。
沙那を助さんと絡芽さんに預け、俺は暗い地底のさらに暗い深い場所を突き進む。
松明で辺りを照らしても、黒い霧がかかっているかのようで奥がよく見えない。
恐る恐る足を伸ばして何かないか確認し、壁を伝って奥へ進み続ける。どれだけ奥に来たのだろうか分からない程に進み続け、ようやく突き当たりにたどり着いた。
「強力な結界が張られてるな・・・」
俺なんかじゃ破壊できないレベルの高度な結界。きっと四天王でさえ敵わない強い結界だ。これが閻魔様の力・・・。この奥にジン兄さんがいるはず。どこかにこの石を使うための鍵穴となっている場所はないだろうか。
俺は手で壁を探ってみた。
ゴツゴツとした壁の1部に、不自然なくぼみがあった。丁度石が入るくらいの大きさ。
松明でその部分がよく見えるように照らして石を取り出し、穴に入れてみた。
すると、地面が唸り声をあげながら揺れ始めた。ゴゴゴゴゴと大きな音を鳴らしながら壁に真っ直ぐヒビが入り、少しづつ隙間が大きくなった。岩の扉が開いて、結界は壊れて辺りのモヤが晴れ、松明の光で奥が見えるようになっていた。扉の先からは冷気が出てきていて、少し肌寒い。
この先にジン兄さんがいる。少し寒いけど、行くしかない。松明用の棒とマッチならたくさんある。大丈夫だ。
「待っててくれよ、兄さん」
俺は冷たい穴へ踏み出した。
「ハァ・・・ハァ・・・」
1番奥の空洞には、氷漬けされた兄の体。そして兄の魂と思われるモノが結界の中を漂っていて、苦しそうに足掻いているように見えた。
「ジン兄さん、ずっとこんなところで1人で罰を受けてたのかよ・・・」
寂しく、冷たい空間に1人ぼっち。暖かい地下世界とは切り離された空間。兄がこうなったのは自分のせいだ。なら、兄の封印を解こう。
「太陽の精霊の力よ、氷雪の世界を照らしてくれ」
俺は石を握って呪文を唱えた。
ゴウッと音を立てて火の玉が宙に浮かび、飛び散った。辺りの氷は溶け、兄さんを覆っていた氷も溶けていく。
「はぁ、はぁ」
この呪文は手元が狂うと爆発を起こすからあまり使いたくはない。
あとは、兄の魂を解放すれば─────
「当たり前だけど、閻魔様の張った結界強すぎるな」
てか今思ったんだけど、封印解こうとしたら閻魔様くるんじゃ・・・ここは一旦引いた方がいい気がする。
俺は来た道を戻ろうとしたが、奥から足音がすることに気づく。
やばい、来たかもしれない。
足音は大きくなり、慌てた顔をした閻魔様が現れたかと思うと、大声で叫ばれた。
「そこの人狼!今すぐそこから離れろ!」
「え?」
予想外なことを言われて俺は戸惑った。
言われるがままに、今いる兄さんの場所から離れようとしたときだった。
ピキ・・・バキバキ・・・
兄の魂を囲っている結界が割れ始めた。
「くっどうやらもう遅かったみたいだな」
「閻魔様、一体何が起きてるんですか!」
「ジンは、諦めていなかったようだな。被害がでないように、今のうちに巨大な結界でも張っておくか」
閻魔様は地面に手を当てて結界を作り始めた。
「ロウ、お前とジンを合わせてはいけなかったようだ。ジンは、お前の持っている石が来るのを待っていたようだ」
「ど、どういうことですか!」
「茨木童子に聞いたんだろう、別の意味もあっての封印だって。っと、これ以上話してる場合じゃない!身を引け!」
俺は兄から素早く離れた。
魂はジン兄の体に取り込まれ、俺の持っている魔石がピカピカと光って反応した。ジン兄の口が開き、口の中には小さな小さな石が輝いていた。
「¥&$@?*¥$#Σ☆¥ฅ♯♪*₩∞ỏ∀ง_Üロ₩」
ジン兄さんは聞き取れない言葉をボソボソと発した。
だんだん身体が獣になっていき、俺の大狼状態よりも一回りもデカイサイズへとなった。巨大な尖った牙をギラつかせ、体毛を逆立て威嚇。紅い目はギロリとしている。黒い大きなその身体は地獄の番人ケルベロスに近い生き物だ。
足が竦んだ。これが、俺の兄?
「兄さん、どうしちまったんだよ」
自分の声が震えているのがわかる。兄が突然こんな恐ろしい怪物みたいな生き物になったのが信じられない。
「ジン、そのまま地上に出ようなど考えてないだろうな?」
閻魔様は怯むことなく兄さんの前に立った。
「ガルルルル・・・」
ジン兄さんは閻魔様の言葉に反応せず、威嚇していた。
「・・・お前さんがここで我を殺そうとするなら受けて立とう。その力を持ってしても、我には勝てないことを思い知らせてやろう」
閻魔様が挑発的な言葉を発した直後、ジン兄さんは右前脚を振り上げ、攻撃をした。だが、鋭利な爪は閻魔様に当たらない。閻魔様の周りは強力な結界に包まれていて、貫通できないようだ。
「諦めろ。お前さんじゃ我には勝てない。破ッ!」
閻魔様が右腕を振り下ろした途端、強風が起こり、ジン兄さんが吹っ飛んだ。
ジン兄さん、いや、理性がとんだ獣はガルルルと唸り声をあげた。獣はすぐに立ち上がり、閻魔様に襲いかかると思いきや、地団駄を踏み、天井が崩れ落ちる。獣は上へ上へ這いずり、この空間から出ようとしているようだ。
「くっ・・・揺れが大きい」
閻魔様は土砂崩れから俺と自分の身を護るように守備魔法を使っていたから、獣を追いかけることはできず、ついに獣の姿が消えてしまった。
「まずい、このままじゃ地上に出るんじゃないですか?!」
「大丈夫だ、地上へは突き破らせない。結界も張った。そしてなにより、何のための地底世界四天王だ」